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誰のためでもないラブソング  作者: 満点花丸
第二幕:狼少女との一日
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ただのデート回①

 そんなこんながありながら、沙由菜の当初の目的である買い物をするために、駅ナカの商業施設をふらふらしていた。

 しかし、目的の店があるわけでもなく、沙由菜はフラフラとお店を見つけてはなんか違うとつぶやきながら店を出ることを繰り返していた。

「ごめんね、なかなかいいのが見つからなくて」

 沙由菜はばつが悪そうにそう言ってくるが、俺としては特に何かに対してコメントを求められるわけでもないし、気が楽ではある。

「ってか、見つけるって、何か欲しいものがあって買い物しに来たんじゃないのか?」

「こういうもんでしょ、何かいいものがあるかもしれないし。男って何か掘り出し物があってもそれ買わないの?」

 男がとか女がとかの括りで考えるべきなのかはわからないが、俺は目的のものがあればそれが売っているところだけを探して一番気に入ったものを買ったり、そもそもすでに買うものが決まっていてそれを買いに行くだけだから、そういうことはあまりない。

 こうやってだらだら色々なところを巡り巡って当てのない旅に出るのは時間がもったいないと感じてしまう方ではある。まぁ、今は沙由菜と話しながら時間を一緒に過ごせているわけだから、時間の無駄とは思いはしないけれど。

 とりあえず、沙由菜の質問には

「もちろん、欲しい物ついでに買うことはあるけど、基本的にはほしいものだけを目指して買い物するかな」

 とだけ答えておく。

「そっか……。じゃあ、あと二つ、お気に入りのお店で買い物するのは間違いないから、そこで買い物して帰ろっか」

 沙由菜は少し寂しそうな顔をしてそう言う。何か少し誤解を与える言い方だっただろうか。俺は少し気になるので沙由菜に、

「いや、買い物が退屈とかではないぞ。沙由菜と一緒に話しながらこうしてるだけで普通に楽しいし」

 と軽くフォローを入れる。沙由菜はそれでも小さくうなずくだけでその表情は完全に氷解させない。この場合、どんな言葉を掛ければよいのだろうか。正直、女心がそこまでわかっているわけではない。

 なんというか、今日はいろいろとありすぎる上にもやっとすることが多すぎる。なんだろう、なにか今日は上手く歯車がかみ合っていない感じを強く意識してしまう。

 沙由菜と遊びに行くときとかも常に笑ってるようなのが常日ごろなのに。シリアスなのも俺達には似合わないだろう、きっと。

 沙由菜に付いて歩いていると、沙由菜は様々な小物を取り扱うような雑貨屋さんに俺を誘導する。その雑貨屋さんはメインはピアスやイヤリング、髪飾りなどのアクセサリーを取り扱う店であるのは見て取れる。

 沙由菜は店内に入るや否や、ヘアアクセサリーのコーナーからバンダナ柄のヘアバンドを手に取り、それを頭につけるとこちらに振り向く。

「ね、これ似合う?」

 ここにきて、沙由菜は俺にコメントを求めてきてしまう。正直、あまりファッションに精通しているわけではないので、流行っているのかどうかとかまではわからない。

 今は清楚な服装をしているので外しアイテムとして生きているような気もするし、さすがに少し調和していない気もする。

 むしろ、いつものような服装の方になら似合っているかもしれない。ってか、沙由菜自体の素材を見れば、普通に似合っている。俺は言葉には出さず、頷くことでその質問に対して答えを出す。

「よし、じゃあこれは買おうかなぁー」

 とそれを見た沙由菜は即決してしまう。確かに沙由菜はもともと優柔不断なタイプではなく、割とはっきり好き嫌いを言ったり、決断力のあるタイプではあると思うが、先ほどの買い物のスタイルからしたらあまりにも早すぎて驚く。

 さらに、沙由菜はそのヘアバンドを二本手に取った。

「え、同じものを二つ買うのか?」

 俺がそう聞くと、沙由菜は平然とした顔で、

「気に入ったものは2つ買いたいの」

 と答えてくる。そういうもんなんだろうか。

「ほら、汚れちゃったり壊しちゃったり無くしちゃったら悲しいじゃん。同じのがもう一回買えるかどうかわからないし」

 と沙由菜は補足してくれた。まぁ、確かにそれは一理ある。が、結局二つ目もなくしたら同じことなのでは。とは聞くのも野暮なのかもしれない。とりあえず、沙由菜にとってはそういう買い方をするのが日常的なのであろう。

 沙由菜はさらに、イヤリングのコーナーを覗きはじめた。

「本当はピアスの穴開けたいんだけどねぇ、ほら、これとかどう?」

 俺はそのピアスを開けたい感覚がまったくわからんのだが、そういうものなんだろうか。

 沙由菜の見せてきたイヤリングは少し独特なセンスで、ファスナーの引手のモチーフがついている。正直、これはよく、わからない……。

「沙由菜、それはさすがに可愛くはない気がするぞ」

「そっか。可愛い気がするけどなぁー。そーまはこういうの好きじゃないかぁ」

 といって、他にもあさり始める。次に見せてきたのはバーベルにぶら下がるウサギのイヤリングだった。バーベルの部分が左右に分かれていて、耳にはさむと耳にぶら下がっているようにも見える。

 ふと、そのすぐ横にあるピアスのコーナーを見ると、それと同じタイプのものがある。ピアスだと、直接バーベル部分がピアスの穴に入れられるようになっているようだ。

「それはそれでかなり独特な気がするが、それにしてもなんでピアス開けたがるんだ? イヤリングでも同じデザインのものがあるならそれでもよくないか?」

「まぁ、そうなんだけど、イヤリングだと落ちちゃうかもしれないんだよね」

 なるほど、意外とかなり合理的な答えを聞いた気がする。にしても、体に穴を開けるなんて考えるだけで痛いのは変わらないのだが。

「校則で禁止されてるけど、ピアスの穴開けてる子結構いるし、開けようかなぁ」

 沙由菜はそういうと、俺の反応を見ようとしてるのか、じーっと見つめてくる。なんだ、それも俺に聞くのか。

 俺的にはもちろん、痛そうなのは個人的な意見だとしてもそういうのはあまり勧めたいとは思えない。少し古風な考えなのかもしれないが、体に穴を開けるなんてなぁ。

 まぁ、もちろんそんなのは個人の自由だ。あえて言うなら、校則は守れ、だろう。しかし、校則で禁止されていても、うちの学校では学校にピアスをつけてこない限りは特に怒られるとまではいかない。

 とりあえず、俺は冗談っぽく、

「なんなら、俺が開けてやろうか」

 とお茶を濁してみる。沙由菜は結局耳を抑えて、痛そうというのを目をきつく瞑って表現してくる。

「はは、お前ピアス開けるの怖いくせに穴開けたいとか言ってるのか?」

「痛いのはやっぱりいやよ。それはそうでしょ?」

「それに関しては完全に同意だ。俺は開けたいと思ったこともないけど、痛いのは嫌だ」

 俺がそういうと、別に面白いギャグを言ったわけでもないのに、俺たちはくすくすと笑い始めてしまう。

 そう、これがいつもの俺たちだろう。特にギャグも言わないけど、なんとなくお互いの話すことに笑えてしまうのだ。

 笑いのツボが似ているのだろうかね。


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