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誰のためでもないラブソング  作者: 満点花丸
第一幕:文学少女と狼少女
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ワトソンくん。

 寮にたどり着くころには日も落ち初め、カーテンから茜色の光が部屋の家具や、もはやインテリアと化し埃をかぶったエレキギターを照らしていた。俺がバタバタと準備をしている頃に部屋のインターフォンが鳴り響き、来客を告げる。

 沙由菜とは駅で待ち合わせであるため、沙由菜以外の誰かであろう。誰とも約束していないからこそ、おそらく隣人が俺が帰ってきたことを知り遊びに来たというところだろう。何を隠そう、隣人は悪友の西野あゆみである。

 暇なのか、自分の部屋があるにも関わらず俺の部屋に入り浸るそいつはいつも人のテレビでアニメを見に来る。今時ブルーレイレコーダーなど珍しくもないのだが、特に俺の家のテレビが大きいからという理由でいつまでも我が物顔で居座るのだ。

 図々しい奴だが悪い奴ではないので、俺はあきらめている。しかし、今日に限ってはこれから沙由菜と約束があるので、そのまま立ち去らせることにする。

 俺はインターフォンの通話ボタンを押し、

「はい? どちらさま?」

 と外で待つおそらくそいつへ返事を促す。

「オレオレ、あけてくれー」

「オレオレ詐欺もさすがにもう流行ってないと思います、お引き取りお願いします」

 俺は冗談を悪友へと放つ。あゆみは焦ったように、

「いや、直接来るオレオレ詐欺があるかー?! あゆみだよ、あゆみ」

 と突っ込みで返してくる。そんなのはわかりきっていたよ、ワトソン君。

「うん、それはわかってるけど、あゆみ。俺は、これから沙由菜と約束があるからお前のことは構えないぞ」

 俺がそうやって、今日は居座らせてやらないことを告げるも、あゆみはいいからあけろーとでもいうかのようにドアノブをガチャガチャし始めた。

「仕方ない……」

 独り言をつぶやき、玄関へ向かい部屋の鍵を開けてやるとものすごい勢いでドアを開けてくるあゆみがいた。

「お、おい、明坂さんとデートってどういうことだよ?!」

 ものすごい勢いでドアを開けて入ってきたと思ったら、ものすごい勢いで唾を飛ばしながら俺にそう詰問してくるあゆみ。

「いや、デートではねーよ。お前も知ってるだろ、俺と沙由菜は小学生の時から顔なじみで去年までは結構遊びに行ってたんだよ」

 あゆみはぐぬぬといいつつ、

「確かにそうだけど、今学校で起きてるブームを考えれば、二人きりで遊びに行くなんて、そういうことじゃないのか?」

 と訝しそうな顔で俺を見つめてくるが、安心してください。それはないと思う、たぶん。あまりの勢いに俺は一歩後ずさりつつ、いたたまれない気持ちになって部屋の方へ目を向ける。

 って、もう17時すぎじゃねーか。こんな悠長なことしてる場合じゃない。

「まぁ、どうしたって、俺らがそういうことになるなんて、きっとないぞ。ってか、お前そんなに焦って沙由菜に気でもあるのか?」

 あゆみはうつむきながら、くっくっくと笑う。その態度はあたかも秘密を知られたミステリーの小物な犯人のようだ!

 小物という言葉がよく似合う男である、と俺は勝手に分析をし始める。が、俺の分析を吹き飛ばすように大声で、

「明坂さんに気がある? 笑わせるな。俺は二次元三次元問わず、美少女が好きなんだ。そう、これは美への愛。少女への愛。純粋なる美への渇望(パーフェクト・ラブ)!! なのだ!!」

 と叫ぶ。恥ずかしい。というか、なんだその、純粋なる美への渇望(パーフェクト・ラブ)って。普通に引くわ。いや、まぁ趣味趣向なんて人それぞれだ。こいつはこんな言葉を恥ずかしげもなく叫んでしまえる分、実は大物なのかもしれない。

 俺はため息をつきて、負けたというような表情を浮かべてやる。

「ところで、そろそろ出ないと間に合わないかもしれないから、そこを退いてくれるか」

 俺のその言葉を素直に聞き入れ、あゆみは外へと出、扉を開けていてくれる。俺もお気に入りのスニーカーを履き、外へと出る。

 部屋の鍵をかけ、あゆみを無視してそのまま駅へと向かうことにした。ここから駅までは歩いて10分くらいでたどり着ける。ぎりぎりだったが遅刻してどやされることはなさそうだ。

 安堵のため息をつき、駅へ向かう道へと入る。俺が歩くとその隣からすたすたと何者かの足音が聞こえる。それは部屋の前からずっとついてくるように。

「って、あゆみ何ついてきてんだ」

 俺がそう隣のそのバカに突っ込みを入れると、てへぺろと舌を出しながら、ふざけた表情を浮かべる。男のてへぺろほど気持ち悪いものはないぞ……。

「遊びにいくところまでついてくるんじゃないぞ」

「そんなのはわかってるよ。お前がかまってくれないから、アニメショップ巡りでもしようと思ってな」

 あゆみはへらへらしつつ、今日はあの漫画が発売なんだよなぁと瞳を光らせる。これが可愛い女の子だったら……、以下略。

 趣味を語るときの人の表情は結構好きなのかもしれんな。いや、でも。あの子の表情はそれとは別で、何か惹かれるようなものを感じてしまった。なんとなく興味が湧いてきてしまう。

 この美少女ハンターあゆみが何か知っているだろうか。

「あゆみ、雪野っていう女子を知ってるか? 前髪がめっちゃ長い奴」

 俺の質問に、にやりとほくそ笑むあゆみ。

「高峰の方から女の話題を振ってくるとは珍しいもんだ。だが、そこまでよくは知らない。知ってるのは名前くらいだな。雪野冬菜、一応図書委員をやっている」

「ん……? ってか、お前去年図書委員じゃなかったか? 可愛い先輩が図書委員を毎年やってるとかなんとかいって」

 あゆみは頷き、だが……。と言いよどむ。

「正直、図書委員の間で誰かと絡んでるのはほとんど見ないな。顔も表情もあれだけ前髪が長いとよくわからないし。だから、名前を知ってるくらい。あと、強いて言えば、佐藤と話しているのを何度か見かけたことがあるかな、くらいだ」

 ビッチギャル佐藤と雪野が話してる? 佐藤のやつ、まさか気弱そうな雪野をいじめてるとかないよな。いや、俺がヤンキーとかビッチとかギャルとか勝手に思ってるだけで、実際にはそんなことはないだろう。なにせ沙由菜がそういうのが嫌いだ。

 陰でこそこそそんなことをやろうものなら、確実に縁を切ってるはずだ。まぁ、佐藤もこの学校には長くいるみたいだし、どこかしらでクラスメイトになって仲がいいって感じだろうか。さすがに誰ともまったく話さないってことはないだろうし。

 俺が何やら心配そうな顔つきをしてしまったからか、あゆみはニヤニヤしながら俺を見てくる。気持ち悪い。

「まさか、これから明坂さんとデートしに行くのに、他の女が気になってるのかー? このスケコマシめ!」

「むか、だからデートじゃないって言ってるだろ、それに俺のこれはそういうのじゃない。さっき、雪野と初めて会ったんだが、体調を崩して保健室に連れてって心配してるだけだ」

 と自分にも言い聞かせるように、気になっている理由をあゆみへと吐き散らかした。

 別に無理して走ったとかそんなんじゃないのに過呼吸のような症状が現れるなんて、何かしらストレスとか問題を抱えているのかもしれない。それが気になってしまっただけだ。

 それに、そんなのを探るなんて野次馬根性をむき出しにしてるジャーナリストみたいな最悪なものだ。こんなことは金輪際しない方がよいだろう。

「それならいいんだけどな。本当に心配なら佐藤にでも話しかけてみればいいだろう」

 そう、ただ心配してるだけなら事情とかは聞かずに佐藤に話しかけてもいいのかもしれない。

 そうこう話しているうちに、あゆみは俺はこっちだと言って駅手前の路地に入り、件のアニメショップへ向かっていった。

 とりあえず、もやもやした気持ちを抑え、沙由菜とよく待ち合わせに使う駅前のモニュメント像へと俺は向かった。


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