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誰のためでもないラブソング  作者: 満点花丸
終幕:沙由菜と冬菜。
39/43

日常。

 次の日の学校で、俺は佐藤と小日向にあるお願いをすることにした。

 きっと、もう冬菜は俺が話を掛けたとしても、まともに取り合ってくれないだろう。二度目はない。

あの時は結局、冬菜から遠ざけようとした犯人が沙由菜だったから、まだ冬菜本人がもう会わないという結論を俺に口にはしていなかった。そして、俺が冬菜の元へ押し掛けたことがたまたまうまくいっただけだった。

 今回は違う。はっきり冬菜の言葉、意志で自分とのことはなかったことにしてほしいと言われた。

 逆に言えば、なかったことにすればいいだけなのであれば、もう一度話を掛けたっていいはずだという理論は今回使わないことにした。

 あまり刺激をすれば、逆効果の可能性もある。そのため、佐藤と小日向に頼み、軽音部の部室へと足を運んでもらえるように頼む。

 そして、俺が設定した日は4月26日の金曜日。かなでちゃんバースデイイベントの前日。

 つまり、二人の誕生日だ。それを理由に何とか連れ出してもらう。そして、俺の最後の作戦をする。

 とりあえず、その話は昼休みだ。そして、放課後には古賀さんのところへ行って軽く打ち合わせをする。

 そんな時、朝からはしゃいだような声で俺に声をかけてくる女の声が聞こえてくる。

「みてみて、そーま」

 そこには沙由菜が立っていた。沙由菜は淡い栗色の髪をゆるくふわっとさせたようにサイドで一本にまとめ、まとめた髪は肩に流すようなスタイルにしていた。そして、みてみて、の元凶であるそれがそのヘアスタイルを維持させていた。というと難しく聞こえてしまうが、俺のあげたシュシュを使って、肩に流すようなサイドテールにしていたというわけだ。

「そーまにしてはなかなかどうして可愛いの選んでくれたね。気に入ったし、自分でももう一個買おうかなぁ」

「沙由菜、それはその必要はない。本当に自分で使うのなら止めないけどな」

 そう、俺はあの時ふたつのシュシュを買ったが、沙由菜へは一つしか渡していない。

 あの日に冬菜に渡そうとしていたところを、言い出すタイミングもなく渡す前に帰る羽目になってしまったからだ。

「もしかして、そーま、気付いてた?」

「同じ物を二つ買う行動自体が少し違和感あるよな、やっぱり。確かに沙由菜のあの時の言い分もわからなくはないが」

 買い物をするタイミングも今思えば実にそれっぽいタイミングだったな。

 あの時買った二つのものすべてが冬菜への誕生日プレゼントだった、ってことだろう、きっと。それに関しては突っ込まないでおこうと思うが。

「あれだ、気に入ってくれてよかったよ。似合ってる」

「えへへ、ありがと」

 やっぱりまだむず痒い。ほめること自体はいいことだが、面と向かって可愛いとか似合ってるとかそういうこと言うのは難しい。

「へいへい、お二人さん今日もお暑いねー」

 ずずず。

「なんだ、お前ら。茶化すな」

 相変わらず佐藤と小日向だ。二人が来た瞬間にどこでもお昼のワイドショーが始まりそうだ。

 いつもの日常、いつもの学校。だが、いつもの日常だからこそ、それが大切なものであることがわかる。

 そして、この日常の中に冬菜も入ってくる。クラスは違うが、朝の登校、沙由菜と一緒に登校をしてきて、俺に声をかけてくれる。仲のいい二人は俺のことなんかより二人でのおしゃべりに夢中で、せっかく声をかけてきたくせに俺は一人でその光景を眺めている。

 最高だ。俺はその景色を見られるのだろうか。

 昼休みになり、俺はすぐに佐藤と小日向の元へ行く。

 普段は沙由菜もここでご飯に混じるか、俺を無理やり引っ張っていって学食を食べに行くことが多い。

 しかし、沙由菜は一人でご飯を食べるといって、どこかへ行ってしまった。珍しいもんだ。

「佐藤、頼みがあるんだ」

「だが、断る」

 と佐藤は即答してくる。

「まぁまぁ、佳乃。あたしは高峰氏に大きな借りが出来たから、あたしはその頼み事聞くよ」

 しかし、小日向とは別の返答をしてくれる。俺もあの時翠を捧げたのはお礼のつもりだったのだが、それ以上に小日向は翠とデートwith エロを楽しんだからそう思ってくれているのだろう。

「美里、高峰ちんをこれ以上甘やかして、私たちの日常が壊れたらどうするの?」

 と少し意地悪そうな声で佐藤は小日向へいう。

「うん、確かに面倒だけど、あたしたちがこうして日常を貪っている限り、冬菜と沙由菜の関係はもとに戻らない気がするんだ」

 佐藤はやれやれという顔で小日向に目をやったのち、俺の方に顔を向ける。

「だってさ。美里がこんなに頑張るのも久々だし、仕方ないからお姉さんが手伝ってあげようじゃないの」

「助かる。佐藤達にやってほしいのは、金曜日に冬菜を軽音部の部室に連れてきてほしいんだ」

「それって、それって? もしかして、久々に歌うの?」

「佐藤は察しが早くて助かる」

「私もなんだんだ高峰くんたちの曲好きだよ。無料でライブ見られるとか最高じゃん」

 正しくは無料じゃないんだがな。佐藤たちが冬菜を連れてくる、ということがエントリーフィーだよ。

 とりあえず、佐藤達の協力の約束を取り付け、俺はあゆみたちと飯を食う。

 あゆみは俺が戻ってくるや否やすぐさまご飯粒を吹っ飛ばしながら、

「ってかてか、高峰、土曜日にふぉうちゅんに行こう」

 と叫ぶ。汚い。

「お前、かなでちゃんに怖い顔されるの俺なんだが?」

 翠もいるので、源氏名で沙由菜を呼んでばれないようにだけしておく。

「えー、誰のためにあんなに頑張ったと思ってるんだろう……。それに、お前の秘密は俺がすべて抱えてるからな」

 といきなりあゆみは脅してくる。

「秘密ってなんだよ、ばれて困るやましい秘密は俺は持ってないぞ」

 と俺がそういうと、あゆみは一枚の写真をひらりと俺に見せてくる。

 その写真はカーテンの隙間から見える俺と……冬菜が抱き合っている写真だ。

「は? ちょ、お前これどうなって」

「今時はドローンがあって情報収集もしやすい時代だなぁ」

「待て、お前、これはさすがに犯罪だ! 翠、お前もなんか言ってくれ」

「え? だって、それ撮るように言ったの僕だし」

 ニコニコと笑う。翠、怖い。あの日に言ってたた憂さ晴らしをされているのだろうか……。

 そうやって二人で俺いじめをひとしきり楽しんだのか、その写真をびりびりと破く。

「うそだよ、俺もさすがにこんな犯罪じみた証拠を残しておくほど馬鹿じゃあない」

 あゆみの一言にほっと胸をなでおろす。

「それに、そんな盗撮をした証拠なんて当人に見せるわけがないだろう?」

 ぞくっ。あゆみも実は怖い。

 もしかして、俺だけなのかピュアで清廉な心をもつボーイは。

 そんなバカみたいな日常。これもやはり、今となっては俺の日常だ。

 だから、無理をして無茶をして俺はこの日常を破壊してしまうことになるかもしれない。

 少なくとも、こいつらは大丈夫だとしても、あいつらとの関係は。

 いや、もう決めただろう。俺はよりよい日常を手に入れるために、動く。

 放課後、一目散に一年生の教室へ向かった。メールで待っていてもらうように頼んでいたため、古賀さんは教室の前に立っていた。

「あ、先輩!」

「すまん、金曜日の件なんだが。まず、条件に関して俺は飲んでもいいのは言った通りだ。だけど、他がやってくれるかはまだわからない。だから、最悪の場合俺一人でやることになるけど、それはいいか?」

「確認しておきます! でも、大丈夫だと思いますよー。では、行きましょう!」

 打ち合わせと言っても、特に何か多くのことを話すわけではない。実際に軽音部の部室にお邪魔して、どのくらいの広さでどんなものがあるかを確認するだけだ。

 俺は古賀さんに連れられ、軽音部の部室にたどり着いた。

「失礼します……」

 と俺が入ると、まだ疎らに集まる生徒たちが俺に注目する。

 ざわざわとし、ソウマだ。とか、え、嘘とか言う声が聞こえてくる。

「高峰先輩、大体広さはこんな感じです。そこまで広くないので、活動自体はバンドごとにスタジオ練の日と、学校での練習を割り振ってます」

 というが、部室の広さだけで言えば、教室の半分くらいはあってかなり広い。実際にこの広さであれば、パーティ形式でやっても問題なくできるだろう。

「飲食物の持ち込みとかは?」

「打ち上げで部室を使ったりしているので、大丈夫ですよ。機材をしまうスペースがあるので。あとで部長に言っておきますね」

「じゃあ、最後にどの程度防音できるか、だな」

 俺は一度、軽音部の部室の外に出る。

 それを確認した古賀さんがすぐにエレキギターをかき鳴らしているのが微かに聞こえてくる。

 この距離でこれならばほとんどなにも聞こえないだろう。

 俺はもう一度部室にお邪魔し、改めて金曜日に軽音部の部室を使わせてもらう旨を話す。

 そして、その活動はオープンではなくプライベートでやりたいので、くれぐれも金曜日は部室に顔を出さないようにしてほしいこともお願いしておいた。

 しっかり活動をしていそうな部だったので、おそらくそこは大丈夫だろう。普段その金曜日に学校練習を割り当てられていたメンバーがスタジオ練に変わるだけだとも説明は受けている。

 これで、俺の準備は整った。

 あとは金曜日を迎えるのを待つだけだ。

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