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誰のためでもないラブソング  作者: 満点花丸
終幕:沙由菜と冬菜。
36/43

ロッテ。

 あれだけ話し込んでいたのにも関わらず、スマートフォンの時間はまだ20時を示していなかった。

 俺は沙由菜との約束を果たすべく、同じフロアにある沙由菜たちの部屋を目指した。

 先ほどの話を聞いた限りでは、どんな顔をして会えばいいのかわからないきもするが、割と俺は気軽に部屋のインターフォンを押す。

「はい、あ、そーま」

 と俺が一言も発していないのにも関わらず、沙由菜は訪問者が俺だと認識し、玄関まで出迎えてくれる。

「いらっしゃい。あんた、ずっとあそこにいたんだからごはんまだだよね? そーまの分も作ってあるから一緒にご飯食べよ?」

 その優しい一声が俺の中の何かを爆発させてしまいそうになる。

 いや、冬菜に対して怒っているというとさすがにそれは違う気もする、何もできない自分に対しての怒り? 沙由菜が隠し事をしてきたことに対する怒り? どれも違う気がする。

 でも、それらが少しずついい感じにブレンドした怒りが俺の中を渦巻いている気がする。

 いや、冷静でいるべきだ。ここで怒りをあらわにする意味もない。とにかく、俺は冬菜の下手くそな嘘で固めた思いを何とか溶かしてやる。

「ありがとな、沙由菜。いただいていく」

 俺は初めて沙由菜の家に上がる。

 冬菜の家と変わらない作り、家具もほぼ同じものであることから既視感を覚える。

 ただ、居間には俺が思う緊張感を無理やりにでも弛緩させてしまう光景が映る。

 なぜかこんな時間であるにも関わらずお昼のワイドショーが流れていて、バリバリずずずという音が居間に響いている。

「ちょっと、美里、なんであんたごはん前にせんべいかじってるのよ!!」

 と突っ込むのは沙由菜だった。

「だって、お腹すいたし。高峰氏遅いよ」

「いらっしゃい、高峰ちん」

 と色欲の悪魔と怠惰の悪魔がそろいもそろってお昼休みでもないのにウキウキウォッチングしながらせんべい片手にお茶を飲んでいる姿がそこにはあった。

 沙由菜はその二人に対してぷんすかしながらもキッチンから料理を運んでくる。

「ちょうどさっきできたところだから、よかったわね、熱々ご飯が食べられて」

「ってか、沙由菜、お前バイトして帰ってきてご飯作らされて……。可哀想な奴だな」

「まぁ、佳乃には勉強があるし、美里に料理を作らせたら一体どんなものが出てくるのかわからないしね。これくらいいのよ、別に」

 といって、沙由菜は再びキッチンに戻る。

 俺はひとまず、居間でダラダラしている二人の元へ行き、先ほどの話をする。

「冬菜から全部聞いた。そんで、絶縁宣言された」

「あ、そうよかったじゃん。本人がそうしたいっていうならそうするしかないんじゃない?」

 と佐藤は怠惰が移ったのかやる気のなさそうにそう返答してくる。

「だからってなぁ」

「まぁまぁ、これでわかったはず。あたしたちには時間をかけて二人が自発的に元に戻ってくれる以外にできることないんだよ」

 と珍しく面倒くさがらずに長台詞を吐き出す小日向。

 佐藤は小日向の言葉に頷く。

「これで高峰くんも私たちと同じ穴の狢ってわけだね。どうする? 相変わらず冬菜のストーキングにいそしんでみる?」

「冬菜はもう、沙由菜と姉妹に戻ることを望んでいないと思うか?」

「そんなわけ。気にしてないなら、わざわざ沙由菜のことを聞いて来たりなんてしないよ、普通。沙由菜もまた然り。この間の図書室の一件だって沙由菜に報告して、帰ってきてからずっと取り乱してたんだよ?」

 沙由菜には頭が本当に上がらない思いだ。沙由菜自身にも大きな不安があったにも関わらず、俺に付き合わせてしまった、ということだろう。

「やっぱりそうだよな。俺もそう思った。そういう行動もそうだけど」

「『ふたりのロッテ』でしょ?」

「お前ら近くにいすぎて、俺が思ってることなんて簡単にわかりやがってつまらないな」

 そう、『ふたりのロッテ』だ。冬菜は読書が好きで、童話もなんでも読む雑食だと言っていた。俺はそのときは特に注目していなかったが、私物のその本をわざわざ図書室で読んでいた上に、その本自体も新品ではなくそれなりにくたびれていたことを覚えている。

 つまり、何度も何度も読んでいるということだ。『ふたりのロッテ』のストーリー自体は俺も完全に把握しているわけではない。あの本のあらすじはある少女が林間学校に行った際に瓜二つの少女に出会い、自分たちが生き別れた双子の姉妹であることを知り、入れ替わって暮らしている親とは別の親の方へ帰る。いろいろあり、もう一度共に暮らすために作戦を企て、最終的には成功させてしまう、という感じのストーリーだっただろうか。

 つまりは、共に暮らしたいと願いそれを成就させた話なのだ。冬菜がそれを繰り返し読むということは、冬菜自身がその少女に感情を移入し、また家族みんなで一緒に暮らしたいという気持ちの表れなのではないだろうか。

 俺はその本を読んでいる姿を見ていたから、冬菜がもう戻りたいと思ってないなんて嘘だと確信している。

 そんな矢先に、沙由菜は本日のメインであるスパイスの香りが心地よいカレーライスを持ってきた。

「カレーカレー」

 と小日向が年甲斐もなくカレーライスにワクワクしている姿が見える。

 なんだかんだでやはり面倒くさくて何もしていないこいつが精神的に幼く感じてしまう。

 行動はもはやおばあちゃんだが。

「そーま、話は少し聞こえてた。私のしたい話もその件についてだったんだ。だから、ごはん食べたら二人で話そうね」

 と沙由菜はご飯を食べ始める前に、俺にそういう。

「沙由菜も大変だねぇ。恋のライバルが出来て……。私たち、別の場所に行っておこうか?」

 佐藤が沙由菜のその一言に対して、相変わらずニヤニヤとそういうことを言ってくる。

 なんだろう、普通ならシリアスな展開でこういう時も緊迫していて、修羅場っていう感じになるのが物語なんだろうけど、やっぱり現実は常日ごろ日常だ。

「佳乃が何を言ってるのか私すこーしわからないなぁ」

 ずずず、と音が聞こえる。

「わかりやすくいってあげよーか? 冬菜に高峰くん取られちゃうかもだし、既成事実を作っちゃえば早いんだよっていってるんだよー?」

「はー、むかつくー!! あんたのカレーにだけニンニクマシマシで入れて明日の彼氏とのデート行けないようにしてあげようかしら?!」

 さらにもう一度ずずずと聞こえる。

「それはさすがに陰湿すぎじゃない?! 私からの恋のおまじないを教えて差し上げているんだよ!!」

 沙由菜と佐藤は俺の気も知らずにわちゃわちゃと喧嘩をし始める。

「高峰氏、冷めちゃうし食べようか。あたしもうお腹すきすぎて死にそう」

 先ほどのずずずはお茶を飲むことで空腹を紛らわせつつ二人のひと悶着が終わるのを待っていたようだ。

 確かに、俺の先ほどまでのシリアスなお話しをすべて台無しにしてしまうかのような二人の間の抜けた漫才を見せられては緊張感から消えていた空腹感も普通に取り戻してしまう。

 小日向の提案通り、俺ら二人はその二人の喧嘩など華麗にスル―して、

「いただきます」

 と声をそろえていい、カレーに手を出した。

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