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誰のためでもないラブソング  作者: 満点花丸
終幕:沙由菜と冬菜。
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冬菜、過去を話してくれるってよ。

 俺の指摘に対して、冬菜はうなずくだけでなく、前髪を自らの手でかき上げて、その顔をよく見せてくれる。大きくて目じりのあたりが多少吊り上がった丸い目。すっと通った鼻筋。適度に厚みがあり、柔らかそうな唇。耳の形まですべてが同じに見える、違いを探す方が困難に思える。

 もし、同じ髪型、同じ衣服、同じ装飾品を身に着けて目の前に現れても俺はおそらく二人を一瞬で見抜くことはできない。

 それこそ、動物園で見たゾウのように身体に異なる傷や痕を残さない限りは判別できないくらいに沙由菜と冬菜は瓜二つに見える。冬菜の前髪の隙間から見えた目だけではほぼ判別しようがなかった。それ以上に前髪に印象がいくので、確かに隠すうえでは前髪を伸ばすという戦略は間違いない。

「冬菜、すまん。前髪で顔を隠すってことは、二人が双子であることを隠している以上の何かがあるんだよな? もう、おろしてくれ」

 俺は聞くまでもなく、冬菜のおでこに滲む汗や少し荒くなっている呼吸を見て、自分の“顔”自体がこの前の過呼吸のような発作の原因になっていることを悟る。

 俺のその一言で冬菜は手でかき上げていた前髪を下ろし、手櫛でしっかりと整える。

「もう、そこまでひどくはないんです。でも、少し動揺したり緊張したりというのが同時に来ると……」

 と冬菜は軽く自分のその発作の症状について語ってくれる。

 そして、冬菜は立ち上がり、学習机の上に置かれた写真立てを手に取り、再びベッドに腰かけ、その写真立てを俺の方に向ける。

 その写真にはまったく同じような顔をした二人の女の子を真ん中に、そしてその両隣に二人の女の子、計四人の女の子が並んで笑顔で誕生日を祝う姿が写っている。

「これは小学校に上がる前の写真です。真ん中が私とおね、いえ、明坂さん。私の隣に佳乃、もう片方が美里です」

 沙由菜も冬菜もこのときに関しては格好まで双子特有の同じ服、同じ髪型で写っている。冬菜は自分の隣に佐藤が写っているというが俺にはどっちが沙由菜でどっちが冬菜かわからないため、どちらが佐藤か小日向かすらもわからない。

 いや、よく見れば、右側の子だけが幼稚園児にしてはしっかりとした体格をしていることを考えると、小日向なのかもしれない。逆に左側の子は恥ずかしそうに冬菜に少し隠れたように写真に写っている。さすがに左を今の佐藤だと言われても信じがたいが顔の雰囲気的にもそう思えばそうな気がする。

 もし、もう少し明るい感じでこの写真を見てたら間違いなく俺は佐藤をいじる気がする。 

 いくらなんでもあの変態大魔王がしかも沙由菜ではなく冬菜に隠れている姿を想像するとなんとなく笑えてしまう。いったい何があったのかを知りたくなる。

「壮馬くんはきっと、あの日私の顔を見て気付いたのかと思いますけど、私たちは正真正銘の双子の姉妹でした」

 確かにきっかけは冬菜の顔を見たことだった。さすがに顔を見て、誰かさんとまったく顔の特徴が同じう瓜二つで他人の空似の方が少数だろう。それに、髪。細くて絹のような繊細さ、淡い色の髪。今にして思えば、外見的な特徴は顔意外にも出ていた。

 もちろん、俺は沙由菜の知らないという言葉を信じて、他人の空似の可能性もなくはないとも考えた。しかし、もう確たる証拠がなくても、間違いなくそれ以外に考えられなかった。

 沙由菜が衣服を二着買う理由も理解できなくはないが、おそらくそうではない。服はいくら気に入っても、所詮は消耗品だ。同じ物を二着買う人間はほんの一握りだろう。例えばその服自体に別の価値がついているとかならまだしも、着るために二着買うやつなんていったいどれだけいるのだろう。そして、情報通すら暴けない誕生日もだ。冬菜に友達が少なかったのだとしても、自分の誕生日を意図的に隠さない限りは得られない情報とは思えない。

 この数日内の違和感やそれらは全て二人が双子であることを示していた。思えば、双子のユキヒョウの時の話も冬菜が繊細である、というのではなく、境遇が似ているから共感して心を痛めたという方がよほど納得できる。

 そう、そしてそれこそがおそらく二人が抱える問題に似た問題なのだろう。

 簡単だ、二人の苗字が違うことはそれを容易に想像させる。

 具体的な問題自体は詳しく聞かないとわからないが、家庭の問題が本質的な原因であることは簡単にわかる。

 初めは冬菜の力になりたいとか、助けたいとかなんとかいっていたが、家庭の問題が絡んでくると俺にできることなんて何があるのだろうか。俺に冬菜を助けてやることなんてできない。でも、何かはしてやりたい。

冬菜たちの問題を聞いた上で何かできることはないか、できないのであっても、寄り添うことが出来ないのか。それは、聞いて確かめるしかないだろう。よし。

「俺に解決できるかはわからないけど、お前たちが持ってる問題っていうのも聞いてもいいか?」

 俺がそう聞くと、冬菜は何度か深呼吸をする。

 冬菜は割と慎重な方だ。今にして思えば、あの外で待ってる作戦でなかなか来てくれなかったのも、嫌で来なかったのではなく、冬菜は思案していたのだろう。いろいろ模索して、でも答えが出なかった。俺がいきなり部屋まで押し掛けたから半ば強引に結論を出させた、というのが今回の話だろう。

 いくつかの深呼吸のあと、冬菜は、

「わか、りました。私のことはお話しできる範囲でお話しします」

 とひねり出したように俺に自分のことを話す意志を伝えてくる。

「では、過去からさかのぼり、今なぜこうしているか、まで掻い摘んでお話しさせていただきますね」

 そして、冬菜は語り始めた。冬菜の過去に何があったのか、そして、今なぜ俺と対面して話をしているか。

 


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