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誰のためでもないラブソング  作者: 満点花丸
第四幕:愚者の一撃
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愚者は暗躍する。

「そーま、明日暇?」

 俺がかなでちゃんの黒い気持ちを一口飲んでいると、突然沙由菜がそう問うてくる。

 暇は暇だが、今日この後のイベントを発生させ、その内容的には明日、俺が動ける保証はどこにもない。よって、明日の約束をしてやっぱりいけなくなったと断って怒らせてしまうより、今ここで断っておいた方が無難だろう。

「たまには勉強でもしてようかな、と思ってたんだ。ほら、ゴールデンウィーク終わったら割とすぐ中間試験だしな」

 と俺は嘘をついておく。

「奇遇じゃん、私も物理でわからないところがあったから、そーまに教えてほしいなって思って。あんた得意でしょ?」

 おう……。もっと別の用事にしておけばよかった。一人でやりたいとは言えないな、この感じは。

 だが、俺は沙由菜の身近に秀才がいることを思い出す。

「そうしてやりたいのはやまやまなんだがな。佐藤に教えてもらえばいいじゃんか」

 そう断ると、口を3のような形にして、ぶーぶーと沙由菜はいう。

「佳乃は珍しくデートに行くって言ってたから明日はだめなの!」

「珍しくデートっていう響きだけで言うと佐藤が全然モテないみたいだな」

 最終手段は話を逸らせてみる、だ。

 だが、沙由菜はそれさえもさせてくれない。

「そんなに私と勉強するの嫌?」

 とすぐに軌道修正をしてくる。

 嫌じゃないんだ。まったくもって、沙由菜と一緒にいるのは楽しいし、きっと勉強も退屈にはならない。それはわかってるんだがなぁ。じゃあ実際にいいぞ、と言って勉強をしようにも寝込んでる可能性すらあると思えば、やはりうんとは言えない。

 そう思っていると、がやがやしていた声がぴたりと止まる。

 そして、かなでたんからお勉強デートのお誘いを受けているのになんであるかあいつ、とか、あんなやつより私のほうがイケメンでござるとか、現代日本語を使わない謎の勢力からのヤジがこそこそと聞こえてくる。

 どうやら、俺らの方に少しばかりの視線が集まっているらしい。

 仕方ない、とりあえずこの場は沙由菜の誘いをのんでもう帰ろう……。

「わかった。じゃあ、明日勉強会をしよう。だけど、実は用事が入る可能性もあって、あとから断るかもしれないから、それだけはごめん」

「あぁ、そういうこと。そんなの最初からそういえばいいのに……」

 その用事を聞かれたらかなり説明しにくいから言いたくなかったんだけどな……。

 多少の風邪くらいなら俺が気を付けていれば沙由菜に移すこともないだろうから、本当に勉強してもいいんだけどな。

 なんだか他の客からの視線が痛すぎるので、そそくさと退散しよう。

「じゃあ、沙由菜、俺帰るわ」

「おっけー。バイト終わったら一回連絡するね」

「おう、じゃあ、また明日」

 と俺と沙由菜が席を立つと、あゆみが近づいてくるのが見える。

「俺はもう少し楽しんでから帰るわー」

「西野、あんたの席だけには絶対にいかないからね」

「ツンデレメイドかわゆすー」

 と一連の流れマイナス正拳突きを見届けて、俺は会計に進む。

 さすがにあぁいうことを言われても客の前ではあゆみをど突かないようだ、よくわきまえたメイドさんだ。

 会計のところには紗咲ちゃんがスタンバイしていた。

「お会計が2500円ですー」

 く、結構いい値段を取りやがる。別にいいのだが、あゆみの分も入っているわけだしな……。

 紗咲ちゃんの顔をちらちら見ながら、財布の中から3人の英世を取り出して渡す。

 さっきあゆみがオーナーだと言っていたが、こんなに若そうな見た目でオーナーとは恐れ入る。いったい何歳くらいなんだろうか。

「あの、紗咲ちゃんって何歳なんですか?」

「え、お兄ちゃん私の年齢聞きたいのー? もしかして、一目惚れ?」

「いや、そういうのではないですけど、一体何歳の人がこんなふわふわしたメイド喫茶を切り盛りしてるのかなと疑問で」

 紗咲ちゃんは手に顎を乗せ、少し思案し、結局は、

「17歳です☆」

 と答えてくる。確かにそのくらいにも見えなくもないが、さすがに17歳がオーナーをやってるなんてあるのか、普通。そう思い、この人は俺をからかっているのだと気付く。

「嘘だ!」

「嘘です♪」

「からかうのはやめてください。さすがに17歳でオーナーなんてありえない」

 でも、妹メイドというだけに見た目の年齢だけで言えば17歳の妹と言われて納得できるほどには若く見える。いや、俺にとっては一つ上の姉に当たるんだけどな、普通に。

「30歳です♪」

「嘘だ!!!!!!!!!」

「今度はほんとですよぉ、お兄ちゃん、信じてください」

 甘ったるいロリロリボイスから17歳の方がなぜか信ぴょう性を感じてしまう不思議な現象にとらわれてしまう。

「あ、そうです。17歳と言えば、これ、来週の土曜日かなでちゃんの誕生日イベントなのでぜひ来てくださいね」

 と紗咲ちゃんもとい紗咲さんは俺におつりとイベントのチラシを渡してくる。

 かなでちゃん、つまり沙由菜の誕生日イベント? 沙由菜の誕生日、は小さい頃に一度だけした覚えがあるが具体的に日にちまでは覚えていなかった。

 そのチラシには、かなでちゃんの出勤日が27日なので、と書いてある。本当はその前の日だよー☆とも書かれている。

 いいのか、沙由菜こんなリアルの誕生日を書いても。まぁ、いいか。

「わかりました、暇なら来ます。ところで、ボールペン借りてもいいですか?」

 と紗咲さんに問うと、笑顔でかわいらしいチャームのついたボールペンを貸してくれる。

 俺はそのチラシの裏にあることを書き記し、一度あゆみのところへ向かう。

「これ、あゆみ、渡しておくわ」

 あゆみはそのチラシを受け取り確認すると、クシャっとポケットに突っ込んで例のごとくグッドサインを俺に向けてくる。

 「じゃあ、また後で。頼むぞ、あゆみ」

 俺はそれだけを言い残し、店を後にする。あとは冬菜を誘い出し、仲直り大作戦だ。

 スマートフォンを取り出し時間を確認する。すでに16時を回っていた。外に出ると、切るような寒さが身体を突き抜ける。日も落ちてきて、寒気の影響がもろに出始めていた。

 本当に雪が降ってもおかしくない。まったく、どうかしてる。

 だが、俺が冬菜と仲直りするためには必要な行動なのかもしれない。あゆみも言っていたが、こういうことは誠意や誠実さを見せるのがベストだろう。

 俺は足早に駅へ向かい、寮へ向かった。

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