ドナドナ。
あゆみたちと明日の待ち合わせ時間などを決めたのち、二人はそれぞれの部屋に戻っていった。さらに、あゆみには冬菜に関していくつか調べておいてほしいことを伝えた。
件の作戦は正直、体を張ることの究極形すぎて俺の頭の中でやめておいた方がいいと警鐘を鳴らしてくる。二人に言われたからやるのではない。ふざけた作戦だと思ってはいるが、実際に取り合ってくれない可能性を考えれば俺自身のみを使って冬菜と再び話すためにはこの作戦くらいしか思いつけないのも事実だ。
うまくいかなければ恨むという言葉がとっさに出てしまいはしたが、そもそも悪いのは俺だ。体の一つや二つでも張れないのに覚悟もくそもあったもんじゃない。
さすがに死んでは元も子もないので翠とあゆみに交代で俺の様子を監視してもらうことにはしたが。
そして、次の日。
俺たちは街へと繰り出していた。
女子が喜びそうなプレゼントを買うことが第一の目標。一体全体俺には何がいいのかわからない。上に、沙由菜は割とこだわりがあるはずだから、逆に身に着けるものじゃない方がいいかもしれない。
翠はこういうのが今流行っているが、俺からのプレゼントならなんでもうれしいだろう、というがまったくわからない。
あゆみは勝手にあの服をあの子に着せたら可愛いとかぶつぶつつぶやきながら勝手に行動している。
翠は積極的にアドバイスをしてくれるがあゆみはまったく使えない……。
そして、様々なショップを巡り、俺はどうしようか迷っていた。
「まぁ、無難に行けばアクセサリーか消費できるものだよね」
と翠が話しているうちに、この間沙由菜が変な趣味を見せた雑貨店にたどり着いていた。
とりあえず、俺は中に入り、この前のヘアアクセサリー類が置いてあるところをじーっと見つめる。
この前はバンダナ柄のヘアバンドを買っていたので、ヘアアクセサリーを与える意味があるのかどうか。翠が言うには付き合っているわけでもないから高いものは重たく感じるよね、と。沙由菜の場合はまた別の意味が出てくるから、今すぐに付き合おうとしていないならやめた方が得策だと。だから、手ごろな値段のアクセサリー類か雑貨系、お菓子などが無難だろうという。
「うほぉ、このうさ耳リボン絶対に四葉ちゃんに似合う!!」
とあゆみが突然叫びだした。
「四葉ちゃんって誰だよ……」
「四葉ちゃんはなぁ、1年3組の快活なスポーツ少女なんだよ!!」
知らん……、いきなり登場人物は増やしてくれるな。
「壮馬、もはやこれはあゆみの病気だよ。きっと永遠に治らない」
「間違いない……」
とあゆみが見ているうさ耳リボンとやらを見つめると、俺は一つのものが視界に入る。
「翠、これなんてどうだ?」
「あー、シュシュとかは喜ばれるかもね。ヘアゴムの類ってやっぱりへたりやすいから、いくつも持ってる子もいるだろうし」
俺はふわふわしたそれ、花柄のパステルピンクとホワイトの組み合わせのそのシュシュを手に取る。白だと汚れやすいかもしれんが……。この前の沙由菜の服装的にはこれが一番似合う気がする。
「よし、これ以上悩みすぎても永遠に買えない気がするからこれにする」
俺はそのシュシュを2つ手にとり、レジに持っていく。
「え、壮馬、なんで2つも買うの?」
「知ってるか、沙由菜は同じものを2つ買うんだぞ?」
「それ、理由になってる?」
具体的な理由は気に入ったものは汚れたり壊れたりなくしたりしたら悲しいじゃんだったか?
俺はお金を払い、商品を受け取る。そして、まだいろいろな物を物色して、これはあの子、それはこの子と妄想を膨らませてしまう病気を患ってしまったあゆみに対して、呼びかける。
「さて、それじゃあ、行くか」
俺たちは昼過ぎに集まったため、特に食事をするわけでもなく、このまま解散といったところだろうか。そろそろ三時のおやつというところか。
俺たちがこれからどうするかの話をしながら、そのフロアを歩いていると急に声がかかる。
「高峰っちじゃん。こんなところで三馬鹿でなにしてるの? メンズ服この階売ってないよね?」
「うお、佐藤」
と俺が意外と大人なギャル佐藤の突然の出現に奇声を上げてしまう。
「あたしもいるよ」
佐藤の出現に驚き、見落としていたが、超人小日向もその隣にいた。
「いや、お前らこそどうした」
「どうしたもこうしたも普通に買い物してるだけだけど……。むしろ、高峰ちんたちの方がレディースのショップしかないフロアで三馬鹿してるほうが怪しいよ……」
小日向はずずずとお茶を飲む。っておまえ、なんでこんなところであっても常にお茶を飲む。さすがに湯のみではないのが救いか。
まぁ、余計なことを勘ぐられるよりはっきり言った方がよいだろう。
「沙由菜を怒らせちまったみたいだからお詫びにプレゼントを贈ろうと思ってな」
ずずずと水筒からお茶を啜る音が聞こえる。
なぜか買い物に来ているのに茶の間でせんべいを食べながらお茶を飲んでいる感覚になる。なんだ、こいつの他者への影響力は。
そう思っていると、佐藤はニマニマとしながら、
「よい心がけじゃのう、高峰ちん。やっぱり嫁は沙由菜かなぁ」
「あーはいはい。そういうのじゃないが、そうということにしておく。佐藤には世話になったからな。おい、翠」
と後ろでこそこそあゆみと話してる翠を呼び寄せる。
翠は訝しげな顔でこちらにやってくる。
「佐藤への礼はできないけど、小日向には翠をくれてやるよ」
「え、ちょ、壮馬どういうこと?」
そのやり取りを見ていると、死んだ魚のようなやる気のかけらも見えない小日向の目に星が宿る。なんて現金な奴だ。
「お、高峰ちんどうしたの急に」
「昨日の礼だ。佐藤にあゆみを渡すことはできないのが残念だが」
「西野も来る? ダブルデートしようよ!」
と佐藤はあゆみをからかうようにそういう。
お前、彼氏いるからって昨日小日向もあの場に呼んだよな?
それに、あゆみとはこれから二人で話すこともあるから、連れ去られるのは少し困るのだが。と俺はあゆみに目配せをする。
「彼氏もちの美少女も捨てがたいが、さすがに俺は遠慮するぜ……」
「なんだ、残念。荷物持ちが増えると思ったんだけど」
「翠、小日向と仲良くしてやれよ」
俺はいつもやられる腹黒スマイルを思いっきり翠に送ってやる。
礼は礼だが、いわばさっさとこの二人から遠ざかり、あゆみに調べてもらっていたことを聞くために捲いた餌である。
「み、翠くんいこう」
小日向はとてつもなく頑張り始めた。
自分から先導するなんて小日向じゃありえないからだ……。
さようなら、翠、身の安全だけは自分で守ってくれ、合掌。
と内心で合掌していると、佐藤が一歩俺に近づいてきて、耳を貸せというジェスチャーをする。
「すぐにでも沙由菜に会いたかったら、今ならたぶんアーケードの方にいったらいるよ」
と耳打ちしてくる。
「じゃ、翠くんは私たちの荷物持ちとしていただいていくねー。また月曜日―。ほら、翠くん行くよ!」
「え、ちょ、まって。壮馬、あゆみ! え、ひどくない?!」
二人に腕を抱えられて連れされられる姿に俺はドナドナを送る。
「あのシチュエーションだけ見たら、両手に華で最高じゃないか、翠」
あゆみは羨望の眼差しを送る。
小日向はそうはしなくても、佐藤は本当に荷物持ちとして使いそうなのが翠に申し訳ないが、致し方ない。
「よし、じゃあ、あゆみ行くか」
とりあえず、佐藤に言われた通りアーケードの方に向かうことにしよう。確かに、あげるなら早い方がいいに決まってるわけだしな。
俺はあゆみを引き連れて、その場を後にした。




