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誰のためでもないラブソング  作者: 満点花丸
第四幕:愚者の一撃
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僕ボブ凡人ボブ。

 俺たちは今宵のパーティのメインをフライドチキンで有名なファーストフード店のチキン樽に決め、その他は好きなものを持ち寄ることにした。

 さて、二人が来る前に俺が考えるべきことは作戦がうまく成功して、再び冬菜と話すことが出来た後のことである。

 昨晩、ほとんど眠れない間に多くのことを考えた。その時得た答えは俺がまだ冬菜と関わっていたいということだけではない。しかし、その件に関してはまだ確証はない。

 思い返せば、そういうことなのだろうかと考えることも数多くあるが、状況証拠としてすら不十分だ。

 薄暗い中はっきりとはしていない少しぼやけた冬菜の顔が唯一の揺るがない証拠ではあるが、やはり俺自身の視覚情報のみでは証拠として突きつけるには弱すぎる。しっかりと認めさせるには確たる証拠を突きつけなくてはならないだろう。

 しかし、実際に俺の仮説が正しかったとして、本当に俺がそこまで首を突っ込んでもいいのか。俺が冬菜を救うとか、何かしてやるなんておこがましいことだとはっきりと認識した。なぜ、小春が俺を引っ張り出せたのか、その答えは明確だ。俺が救われたかったからだ。俺が両親からもらえなかった愛情を誰かからもらいたかった。小春は俺を結果的に救っただけで、本質的にはただおせっかいを焼いて大切にしてくれたのだ。

 では、俺が冬菜にできることはなんだろう。

 冬菜は動物園の帰り際に少し気になる発言をした。進まなきゃいけない、変わらなきゃいけない、と。この言葉はとても前向きな言葉で問題を解決したい意志が見えるような言葉だ。だが、本当にそうなのだろうか。

 やはり、冬菜の心情をはっきり確定させるためには問題を露呈させる必要があるだろう。こればかりは本当に嫌われる可能性すら孕む。隠した本心を俺が無理やり暴く行為に等しい。そんなの冬菜が望むだろうか。

 いや、ここでそういうことを考えても意味がない。その場合はその行動に移らなければいい話だ。

 もし、すべて都合よくうまくいった場合を考える。俺が冬菜と仲良くなりたいと思ったのだから、冬菜とうまく付き合える道を進むことを決めたうえで、俺のやりたいことも同時に考えてもいいはずだ。

 俺は、昨夜の夜景を見せたときになぜか涙を流していた冬菜の顔を思い出す。

 なぜ、あのタイミングで楽しかった一日を振り返っていたのに笑顔ではなく涙だったのだろうとか考えもした。だが、今はそんなのはどうでもいい。

 俺がやりたいことはあの夜景のような思い出を共有して、共に笑顔でいることだ。

 だからこそ、俺は冬菜の問題を暴きにいく。もし、途中で拒否されるような雰囲気が出れば撤退すればいいのだ。迷うことなんて何もない。

 覚悟はできた。冬菜を傷つけてしまうかもしれない、今以上に嫌われるかもしれない。

 だが、俺が冬菜と一緒にいて本心で共に笑いあえないのであれば一緒にいる意味がない。それなら、金輪際近づかない方がお互いのためだ。

 だから、決める。俺が冬菜の問題を暴くことに成功すれば、俺は冬菜のために何でもする。

 逆に、途中で止められるようなことがあれば俺は金輪際冬菜に近づかない。冬菜の言う通り、出会いをなかったことにして、また俺は以前のままの俺に戻ろう。

 これで決まりだ。

 そうであれば、改めて冬菜とどういう会話をしなくてはならないのかを考える必要があるだろう。

 これまでの冬菜の行動、言動から俺の仮説に対する根拠を導き出すことは不可能かもしれないが、こじ付けで話すことや、カマを掛けながら話すことも重要だろう。推理小説ではないのだから、ルールにのっとる必要なんてない。

 勘に頼って、冬菜にボロを出させてもいい。確証がなくても、はっきり言えばいいのだ。

 お前はそうなんだろう、と。冬菜にとっては顔を見られたこと自体が答えを物語ったと思い、白状するかもしれない。

 決行がいつになるかはわからないが、早めにその答えの道筋になるように様々なことを整理しなくてはならない。

 ある程度の結論に達したころ、インターフォンと同時にあゆみと翠が到着したことを告げてきた。

「もうそんな時間か」

 と俺はつぶやき、二人を迎え入れる。俺は今回の会で話すことをまとめるから、買うものは買ってきてほしいといってあった。

 あゆみはチキンと大量のコーラを。翠はお菓子類を引っ提げていた。

「買ってきたぞー」

「やっぱり、パーティと言えばポテチだよね。ピザポテト」

 ちょっと形は違うが、冬菜との昨日の会話を思い出す。

 コーラとピザを片手に一口食べて、コーラを飲んで、一口食べてとか結構好きです、とか言っていたな。

 少し苦笑してしまう。形は違えども、冬菜の好きな組み合わせそのものじゃないか。

 居間へと二人を入れてやり、二人は買ってきた物たちを食卓に広げはじめた。

 その最中にあゆみは突然、意味の分からないことを言い始める。

「ボブっぽい人をボブだと思うのは簡単だけど、ボブをボブだと思うのは難しい」

「なんだ、藪から棒に意味不明だぞ」

 そう突っ込むと、翠が苦笑いしながら、

「さっきも買い出ししてる最中にずっと言ってたんだよ」

 というので、いよいよあゆみも馬鹿ではなく頭のイカれた奴になってしまったのだろうかと少し心配になる。

「いや、それがな。翠がスーパーに言ってる間に、チキンを取りに行ってたら、いきなり外国人二人組に声を掛けられたんだよ。黒人系と白人系の二人組でさ。ほら、たぶん道を尋ねるふりして宗教加入してくるあれだよ」

 俺はとりあえず相槌を打ってやると、あゆみは続ける。

「俺はその黒人みたいなやつはボブって感じの見た目をしてるなぁと漠然と思ったんだよ。だけど、そいつはトムだった。一方で、なんとその隣にいる白人がはい、僕ボブって言い始めたんだ」

 それはなんだろう、中学生のときの英語の教科書の黒人枠がボブだったからとか、ザ・ビーストで昔名を馳せたあいつがボブだからとか、ボビーという名前の著名人が黒人だからとかそういう先入観の元の話だろうか。

「そう、そのあと、なぜ俺は黒人をボブだと思ってしまったのかを考えたんだ。俺らには先入観としてボブの黒人感をなぜかどこかに植え付けられていた」

「ボブさんにも黒人の方にも謝らないとね」

 確かにどちらに対しても失礼な話だ。

「しかし、調べたんだ。ボブはロバートの愛称として有名だと。ロバートと聞くと途端に白人感がしないか?!」

 極め付けにはこの話の登場人物全員に失礼をしている話になる。で、結局あゆみは何が言いたいんだ。

「わかったが、お前はその話をしてどういうオチをつけるつもりだ?」

「俺たちはある意味では先入観に縛られて生きている。そう、見た目がすべてじゃない。俺は気付いたんだ。先入観は捨てるべきだ。顔の美しさも大事だが、その属性や性格、ギャップすべての美しさを少女から見出すべきなんじゃないかと!!」

「いや、言いたいことはわかったけど……、わけがわからないよ!」

 翠はあゆみの不思議な呪文に掛かり、混乱する。仕方ない、わけがわからないよ!

「そう、ボブっぽいやつがボブじゃないように、陰キャラみたいなやつが実は陰キャラじゃないこともある。見た目はお世辞にも可愛くなくても、その心はとてつもなく美しいことだってあるはずなんだ」

 あいや、わかった、お前の言いたいことはわかったぞ。さすがに一年もこの馬鹿と一緒にいると、何を示唆しているのかわかった気がする。

「あゆみ、お前、冬菜のことを言ってるのか?」

「そう、雪野さんが実は可愛くなくても、きっととてつもなく清く柔い美しい性格をしているのだ。だから、やはり雪野さんは美少女に間違いない!」

 俺は冬菜の代わりにあゆみの頭を叩き落とす。

「あいだ」

「ってか、あゆみそれまだ引っ張ってたんだね」

「翠、やはり俺は純粋なる美への渇望(パーフェクト・ラブ)であるから、美少女に関することしか協力をしたくないのだ」

 まったく、本当にあゆみは失礼すぎる。

 しかし、こんなことを言っていても、おそらくこの学校に所属する全女子に関する情報はある程度網羅しているだろう。そう、今回みたいに何かしら理由をつけて観察対象を美少女だと思っているに違いない。変質者だ。いずれ、ゴシップ誌のライターにでもなればいい。

 それよりもとりあえず、この馬鹿を黙らせないと今日のパーティが始まらないだろう。

「おい、あゆみ、僕ボブ凡人ボブと5回言え」

「僕ボブ凡人ボブぼくぼくぼくじん、あ、あれ?」

「よし、黙ったな。それでは本日の会議を始めよう」


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