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誰のためでもないラブソング  作者: 満点花丸
第四幕:愚者の一撃
23/43

男だらけの密談。

 次の日、なんとも寝付けなかった俺は金曜日だというのにとんでもなく憂鬱な気分だった。

 その他の登校中の生徒たちは明日遊びに行こうとかなんとかかんとか話を進めている。

 昨日走り回ったり歩き回ったりしたものだから肉体的にも精神的にも足が重たい。

 今日一日をこんな気持ちをして過ごさなきゃいけないのかと思いながら通学路を歩いている矢先、能天気な男の声が聞こえてくる。

「たーかみね、どうした? めちゃくちゃ猫背になってるぞ?」

「それは気のせいだ、だが、とてつもなく憂鬱だ」

「なんだなんだ、女がらみか?」

 かっかっかと高笑いをあげながらやはり能天気に馬鹿のあゆみは空気を読まずに俺の背中を叩いてくる。

「お前の勘の鋭さには感服する、少し分けてくれ。今だけ、この瞬間だけはお前の爪の垢を煎じて飲みたいくらいだよ、罰ゲームだと思って」

「いやん、失礼しちゃうわん」

 いや、まぁ、こんな能天気だからこそ、逆に言えば重たい胃袋も少しは軽くなるってものかもしれない。

 そんな愛すべき馬鹿の話を聞きながら、そのまま学校へ向かい、教室へと入る。

 隣の席の沙由菜はすでに席に着き、しかし俺の席とは反対側に体を向けて寝ているように見える。

 俺は荷物を机の上に乗せ、沙由菜に声をかける。

「沙由菜、おはよう」

 と沙由菜に声をかけるが無視される。それとも本気で寝ているのだろうか。

 そうしていると、あゆみは翠を引き連れて俺の席にやってくる。

「壮馬、おはよう」

「よう、翠」

「明坂さん、学校に来るなりあんな調子だよ?」

 と俺の視線に翠が気付いたのか、沙由菜が来てからずっとこうしていることを教えてくれる。

 まぁ、沙由菜のことだ、寝てるだけだろう。ホームルームの前に起こしてやらないと沙由菜が怒られてしまう。

 俺は沙由菜の体を揺さぶり、

「おい、沙由菜、起きないとあと10分くらいでチャイムなるぞ」

 というが、沙由菜は無視する。そのままさらに体を揺さぶっていると、俺の手を払いのけて一瞥してくる。

「え、なんだ、沙由菜、怒ってるのか?」

「怒ってない……、ほっといて」

 と沙由菜はやっとこそ反応を示す。

 なんだ、どうした……?

「高峰、もしかしてお前のいう女がらみのあれって明坂さんとなんか喧嘩でもしたのか?」

「壮馬、それはよくないね、謝らないと」

「いやいや、昨日は別に沙由菜と喧嘩なんてしてない。むしろ、ほとんど話してない」

「あぁ、それだ、きっとそれだ。かまってくれなくて怒ってるんだ、きっと」

 なんだそりゃ、意味が分からんぞ。俺には沙由菜を直接怒らせた原因に何も思い当たる節はない。間接的になにかが原因で怒らせてしまったのかもしれないのは否めないが。

「むしろ、理由なくイライラしてるって、あれなのか?」

 あゆみは少し下品な想像をしているようだ。

「あれって?」

 と翠は無垢なる瞳で言う。いや、翠なら絶対にわかっててむしろ言わせようとしているに違いない。なにせこいつは腹黒ショタ野郎だ。

 俺はデリカシーのない男だとこれ以上沙由菜に思われたくない、というかこれ以上は本当に怒りを買いそうなので何も言わずにいる。

 だが、あゆみは、

「翠、それはあれだろ、せい、ぷぎょあぁ」

 本当に学習しない男だ。

 いや、もはやこれすらご褒美だと思っていてわざとやっているのかもしれない。そうなのであれば、やはり西野あゆみは馬鹿であるとしかいいようがない。

「もう、あんたたち朝っぱらから下品すぎ! デリカシーなさすぎ!! 本当に怒ったからね、今日は絶対声かけないで」

 と、沙由菜を完全に怒らせてしまう。ほらいったことか、いやいってないけど。

 まったく、俺まで沙由菜に怒られているようではないか……。

 はさすがに白々しすぎる気もするが、昨日の出来事が俺の思ったことが正しいのであれば……、あるいは。

 やはり、昨日一日眠れない間で考えた。俺は冬菜を救うことはできない。だが、冬菜の話なら聞いてやれる。だから、どうにか冬菜との関係を修復して、ゆっくりでいいから冬菜と仲良くなって、冬菜の話を聞きたい。

 そう思わせられるくらいには昨日冬菜との行動に楽しさを感じた。冬菜がそれを望んでいないかもしれないが。

 俺はすでに正拳突きから回復していたあゆみと翠に手招きをして、耳を近づけるように促した。

「あゆみ、翠、今日俺んちでパーティだ」

 具体的な事柄は説明しないが、この二人に相談をして、冬菜と仲良くなる作戦を練る。沙由菜のご機嫌も取っておきたいところだが、それは月曜日の様子を見てからでも遅くはないだろう。今は何よりも冬菜だ。

 その後チャイムがなり、今週最後の授業が始まる。

 その日、沙由菜は俺が話を掛けないでいると、本当に沙由菜からも声をかけてくることはなかった。

 放課後になると、俺たちは急いで昇降口へと降り、寮へと向かおうとする。

だが、廊下を歩いていると、俺の目に冬菜の姿が映りこむ。

 よくある話だ。元々気にならないから目に入らなかったが、知ることで目に入るようになる現象。例えば、ある回転ずし屋に初めて入り、感動した後、元々家の近くに同じ回転ずし屋さんが目に留まり、家の近くにあったのか、と思うあれだ。

 きっと、同じ学年のしかも二つ隣のクラスにいるのだから目には入っていたのだろう。

 俺は無意識に冬菜を目で追ってしまうのをやっと自覚する。

「ほう、高峰。お前の悩みは明坂さんの方ではなく、雪野さんの方か」

「雪野さん?」

「翠、この間珍しく高峰が俺に女のことを振ってきたんだ。それがあの雪野冬菜嬢。長い前髪で顔の半分ほどが隠れたミステリアスガール。意外と出るところ出てて、引っ込むところは引っ込んでてすらっとしてて、その顔を見てみたいというマニアックな奴もいるくらいだ」

 翠はあぁ、あの子ねと相槌を打つ。

「でも、女子とか女子と仲いい男子からは少し気味悪がられてるよね。前髪おばけとか言われてたこともあったらしくて、誰かがそれに対して怒ったとか何とかで、中学の時は話題になってたらしいよ」

「あゆみ、知ってたか?」

「まぁ、一応。でも、そんなの関係ない、雪野冬菜ミステリアス美少女の前にそんないやがらせのようなことは意味がないのだ!」

「お前、冬菜が美少女だって知らんだろ……」

「俺の直感がそういっているのだ」

 あゆみは本当に馬鹿だなぁ。和むなぁ。でも、お前の直感は正しいんだ。冬菜は普通に可愛い、とは口には出さない。

「で、それより、昨日までは雪野さんだったのに、なんで急に冬菜になったんだ?」

 ぎくっ。

「お前のような勘のいいバカは嫌いだよ」

「いや、今壮馬が勝手に墓穴ほっただけじゃん……」

 いかにも。

 こんな会話をしているうちに、冬菜の姿は見えなくなり、やはり冬菜も俺のことは避けて歩いているようであることは明白であった。

 にしても、綺麗な世界ではないからこそ、やはり前髪があれだけ長い見た目をしていたらそういう経験もあったんだろう。顔が可愛いのであれば、それを隠す原因にいじめのようなことがあったかもという推論はあまり成り立たない。いや、だからこそやっかまれるのが嫌で隠す人もいるかもしれないが。とにかく、冬菜が顔を隠す原因はそれではないだろう。むしろ、その髪の長さが原因で気味悪がられていたら髪を切って来ればいい話だ。

 この二人からも意外と冬菜に関する情報がぽろぽろ出てくるかもしれない。

 俺と違って翠とあゆみは交友関係も結構広い、だからこそ知っていた情報なんだろうし。

 だからといって、俺が今知りたいのはそういうことではなく、冬菜との仲直りをするにはどうすればいいかそれに終始しなければ、またこそこそと何かをやってる学習のしないやつになってしまう。

 俺らはいったんその話を切り上げ、学校を後にした。


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