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誰のためでもないラブソング  作者: 満点花丸
第三幕:文学少女との一日
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愚者は進まない。

 俺が動き出し、来た道の方を目視する頃には冬菜の姿は確認できなくなっていた。それなら、近道をすればあるいは追いつけるかもしれないと思い、体力もないくせに思い切り下の噴水の方に走りだした。

 冬菜はこっちの道を知らない。したがって、冬菜は来た道、バス停の方に向かっていった。噴水の左手にある脇道からさらに下っていけば、正門よりも下方に別の入り口が存在する。この道を通れば、もしかしたら冬菜の先回りが出来るかもしれない。

 来たときよりも急勾配の道を、気を付けながら俺は走り公園の外に出る。

 あたりを見渡しても冬菜の姿は見えない。もし先回りに成功していたら、このまま改めて登れば冬菜と鉢合わせられるだろう。

 だが、俺が呆けていた時間を考えれば、先回りに失敗した可能性もある。上にいくか、下に行くか……。

 逃げるようにして去っていったのに、バスを待つなんてことをするとは思えないし、タクシーを呼んだにしてもそんなに早くタクシーが来られる土地柄でもない。だとすれば、やはり下に降りて歩いている方が自然だ。

 俺は自分の足に鞭をうち、運動不足の人間には地獄のような坂道を走ってくだる。

 自分の足が空回りしないようにブレーキをしながら走るのは意外にもしんどい。登りは運動エネルギーを位置エネルギーに変化する大変さがあるが、下りは自分の筋力のなさが如実に足に負荷をかける。

 けがをしてしまう恐怖と闘いながらも、俺は着実に足を進める。

 しかし、5分ほど走ったころには冬菜にも出会えず、大きな道にたどり着いてしまう。

 さすがに、何者かに連れ去られたとか最悪のパターンが気軽に起きるとは思えないが可能性として100%否定はしきれない。ほとんどの場合はちゃんと駅に向かっているのか、俺の方が圧倒的に先回りしてしまっているのか、どこかでタクシーを拾ったのか、のどれかだろう。思案しすぎても動けなくなる。最悪の場合であれば時はすでに遅いかもしれない。いきなり警察に連絡しても取りあってはくれないだろう。

 俺が出来ることは探し回ることと、ある程度の時間が経った後に寮に帰ってきているかを確認することくらいだ。いきなり都合よく冬菜の居場所を察知することなど俺にはそんな大それた異能力を持ち合わせていない。

 ひとまず、この周辺を捜し、駅へ向かうことにしよう。大丈夫だ。確かに、どこぞの漫画や小説と違って、伏線なく人さらいなどが起きるのが現実ではあるが、その最悪はおそらく砂の中で米粒を探し当てるくらいに頑張らないと見つからない可能性だろう。

 それから、俺はもう一度上の方に上り、再び公園の周辺を捜したが、やはり冬菜は見つからなかった。ひとしきり探したのちにバスがやってきたため、それに乗車し駅に向かう。

 駅にたどり着いてまずしなくてはならないのは寮に通じる誰かに電話をすることだ。この場合、佐藤に電話をしたいが、佐藤の連絡先を知らない。であれば、沙由菜を経由して佐藤につないでもらうしかないだろう。

 俺はそう思いたち、沙由菜に電話をする。

 数コールのちに、沙由菜の能天気な声が聞こえてくる。

「もしもし、こんな遅くにいきなりどうしたのよ?」

「あ、沙由菜か。佐藤そこにいるか?」

「佳乃? 佳乃に何か用事あるの?」

「あぁ、そうだ、急ぎだ。頼む、変わってくれ」

 と俺が急かしたようにいうと、沙由菜は、

「はいはい、わかったからそんなに慌てないでよ」

 という。沙由菜はこのことを何も知らないからそういう反応になるのは仕方ないが、俺は本気で焦らざるを得ない。能天気にいることはできない。

「どうしたの、何か用、もしかして今日のこと?」

「あぁ、そうだ、冬菜、寮に帰ってきてるか?」

「は? どういうこと? いや、ちょっと待ってよ、高峰くん。私の連絡先沙由菜経由で教えるから、私の電話に電話してきてくれる?」

 佐藤がそう伝えてくると、電話が切れる音がする。

 はやく、はやくしてくれ。全部俺がわるい、俺が罰を受けるのは構わないから冬菜の安全を知らないとどうにかなりそうだ。

 それから数分は経った頃に、ようやくに見知らぬ電話番号からの着信が来る。

 それにでると、再び佐藤の声が聞こえてくる。

「ちょっと、高峰くんどういうこと?」

「冬菜を怒らせてしまって、冬菜がどこかに飛び出して行っちまった。そのことに関しては後でなんでも罵声を浴びせてもらえばいいから、冬菜がちゃんと寮に戻ってきてるのか、それを確認させてほしいんだ」

 電話越しから佐藤のため息が聞こえてくる。

「わかった。ちょっと冬菜の部屋に行ってみるから、また後で折り返すね」

 再び佐藤は電話を切る。無機質な遮断音が俺の耳に鳴り響く。ある程度時間が経ち、少しは俺も冷静になれているだろうか。この後、冬菜に関して、佐藤になんて弁明すればいいだろうか。佐藤と仲のいい沙由菜にもそのことを知られて仲を見限られるかもしれない。

 高校生くらいの女の子が顔を隠すくらい前髪を伸ばす理由なんて普通はない。おしゃれをしたい年頃だというのであればなおさらだ。それがおしゃれだと言われてもまったく納得はできない。漫画やアニメじゃないんだ、前髪が長い個性なんて普通はない。そこに何かしらの理由があって然るべきで、普通に考えればそこに地雷原がある可能性くらいいくらでも考慮できたはずだ。

 改めて俺は自分の浅はかさに嫌気がさしてくる。後悔しても遅いのだが……。

 それに、冷静になったからこそ、もう一度冬菜の顔を思い出す。

 どこかで見覚えのある顔、芸能人とかそういうレベルじゃなかった。何しろ、その顔は見飽きるほどに見てきた顔だ。いや、俺の勘違いでただの他人の空似なのかもしれない、だが、あの顔は……。

 そう考えている矢先、俺のスマートフォンから着信音が鳴り響く。

 俺は慌てて通話ボタンを押して、その答えを聞くことにする。

「冬菜、帰ってきてたよ。話も冬菜から聞いた。まったく、高峰くんが実はこんなにも地雷踏むのが大好きな人種だとは思わなかったわ……」

 佐藤のその言葉に俺の緊張感は一気に崩れ落ちる。

 よかった、本当によかった……。大事にはならなかったことに胸の奥のもやもやが晴れていく。いや、しかし、だからといって、そういうもしもの場合があった時があったのだから、簡単に気を抜いてはならないだろう。しっかりとその事実を受け入れなければならない。

 そして、いかにも、である。俺は俺自身もこんなにも簡単に地雷を踏みぬけるとは思わなかった。

「まぁ、冬菜が怒らないであげてほしいっていうから、私は許すけどさ……」

「え、は、いやいや、俺の軽はずみなことが原因でどうなっていたかもわからないんだぞ?」

「私もそれは言ったよ。でも、冬菜はもう子供じゃないんだから、夜道に飛び出す自分も悪いって。だから、そのことに関しては怒らないでってさ。まぁ、高峰くんも実際悪気があってやったわけじゃないんだろうしね。私はこの件にはノータッチ。冬菜を傷つけないでいてくれるのなら、それは高峰くんの自由な気がしてきた」

「佐藤……。お前、ただの変態ビッチギャルだと思ってたらめちゃくちゃ大人だな……」

「その件に関しては怒っていい?」

「いや、すまん。なんでもない」

「高峰くんもだから、責任を感じすぎない方がいいよ、結果オーライ冬菜は無事に帰ってきてるわけだし」

「あぁ、ありがとう、佐藤。恩に着る」

 俺はそれだけ言うと、佐藤がおやすみ、というので俺はおやすみと返し電話を切る。

 結果オーライ、責任を感じすぎるなと言われても、やはりどうにも自分の軽はずみの行動をもっととがめられるべきだと思う。

 少し晴れかけた内心ももやもやしっぱなしで、俺は寮へと戻った。

 寮へ戻ってきて、すぐにテレビをつける。ふと流れるニュース番組はそこまで大きな事件性のあるものはほとんどない。政治の話だとか、なんだとか毎日毎日どこかで事件は起きているのかもしれない。一歩間違えれば、今回の件も事件になっていたかもしれない。

 そう考えながら、制服から部屋着に着替え、ソファに座っていると、こんなにも夜遅くにインターフォンが鳴り響く。

 こんな時間に、しかもこのタイミングで家に来るやつなんて、あゆみくらいだろう。

 俺はゆっくりとインターフォンに近づき、応答する。

「あゆみか?」

 と出ると、少しの間のあと、声が聞こえる。

「壮馬、くんですか?」

 俺はその声を聴いた瞬間に、焦って玄関にとびだす。

 その声の主は冬菜だ。こんな夜遅くに寮内とはいえ、外を出歩くなんて。

 そう思いながら、俺は焦って部屋の扉を開ける。

 おそらく、鍵を開けたときの音を聞いた際に一歩後ろに下がったのか、冬菜に押し扉をぶつけることなく、その姿を確認することが出来た。

「あ、あの出てきてください、なんて言ってないです……」

 冬菜はパーカーを着ていて、フードを目深にかぶってうつむいていた。

 もはや、冬菜であることはその声で疑いようもないのだが、やや不審な動きを見せている。いや、まぁ、そんなことよりも。

「冬菜、さっきは本当にすまん、謝って許されることではないと思うんだが」 

 とすぐに謝罪の言葉を述べる。

 しかし、冬菜はそれに関しては特になにも反応を示さない。

「壮馬くん、私の話を聞いてください」

 冬菜はそういった後、改めてフードに手をかけ、さらに目深にかぶる。

 そして、一息入れる。

「壮馬くん、もう二度と私に近づかないでください。今日あったことも全部忘れてください。私とあなたは関係がなかった。そういうことにしてください、それだけを言いに来ました。それでは」

 冬菜がそう述べたあと、深々とお辞儀をして、すぐに走り去っていってしまう。

「え、ちょ、冬菜!」

 焦って靴を履いて追いかけようとするが、なかなか靴が履けない。

 ようやくに飛び出したころにはもう冬菜の後ろ姿すら見えなかった。

 いや、追いつこうと思えば今回は追いつけたかもしれない。だが、俺は内心で思ってしまう。俺のやったことは冬菜にとってはもう二度と近づいてほしくないくらいに地雷だったのだ。佐藤には怒らないでと言ったのは、自分で決別を言うためだったのだろう。俺と佐藤が同じクラスであることを考えて、喧嘩にならないようにそういう行動に出たのかもしれない。

 そう考えていると、どうにも俺の足はそれ以上前に進んでくれなかった。

 結局、俺は小春の真似事をして自分のために何かをしようとしていたのではないだろうか。冬菜のことをしっかり考えて行動していたのならもっともっと慎重に行動が出来たんじゃないのか、俺がこれ以上関わることは冬菜にとってもよくないことなのかもしれない、俺じゃ冬菜を救えない。

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