3.ORGANIZE
孤児院に入れられたオレは、それまでは考えられなかったような生活を送った。
毎日決まった時間に皆と食べる飯。
決められた時間まで皆とする勉強。
門限まで友達と遊ぶ時間。
全てがオレにとって新鮮で、最高の日々だった。
たまに俺がでて、周りを困惑させることもあったが、とても平和だった。
オレには恩師がいた。
オレを孤児院に入れて、育ててくれた女性だ。
俺達は、彼女に感謝すると同時に、謝罪しなければならいない。
この罪を忘れてはならない。
◼
「ここが城か。ホグ〇ーツみてぇだ」
シン〇レラじゃね?
「ハハッ!そこまでだよ!というわけで説明よろしく」
「はっ、はい...。ここはネスト王国の中心に位置する首都、シメルを象徴するネスト城です」
「説明ありがとう。突撃ーっ!」
「おやめください!?すぐに案内いたしますので!どうか気を鎮めてください!」
「ジョークだよ」
おもんな。
「Sorry...っと、いかにもな扉が出てきたな」
「そう言えば自己紹介がまだでしたね。私はネスト王国軍第11師団団長のリングです。先程は助けて頂きありがとうございます」
「気にすんな無乳のリンクさん。オレはエゴ。困ってたから助けたまでさ」
「リングです。あとはっ倒すぞ変態」
「HAHA!JOKE!」
「...これより先は、謁見の間です。どうか国王に御無礼の内容に」
「礼儀は大事だからな。ダイジョーブ、ダイジョーブ」
定期検診の時間だオラァ!
「人力には厳しいぜ」
「...?では、扉を開けます」
◼
「王よ、ただいま戻りました!」
「うむ、無事で何よりだ。そして、隣のが報告にあった英雄か」
「左様でございます」
「おっす!オラエゴ!ワクワクすっぞ!」
挨拶は大事だよな。
「ちょっ!?王の御前であるぞ!」
「はははっ!よいよい、それがお主の世界の礼儀なのだろう?構わんよ」
許されただと?このおじいちゃん天然か?
「よろしくな!おっさん!」
「あばばばばばばば」
「はっはっはっはっ!まだ怒っておらんから今の内に謝るのはどうだ?」
「オレがいないと困るのはアンタらだろ?」
「......痛いところを突いてきおって...」
「まぁちょっとふざけただけだ。力になるから許してくれよ」
ちゃんと謝っている。礼儀正しいな。
「それマジで言ってる?」
「えぇい!何を独り言を!無礼であるぞ!」
「助けて貰ったくせに強気だな」
面の皮が厚いのか王の手前、そういう風にしなきゃいけないのか...中間管理職は辛いな。
「リングよ...下がってよいぞ」
「しかし!」
「よい...これ以上話を拗らす訳にはいかぬ」
「っく...!...わかりました」
素直だな。
「下手したら首が飛ぶもんね」
「お主が言うのか...まぁ良い。先程は我が軍を救ってくれた事、心より感謝する」
「そりゃどうも」
「まずはその体を休めるが良い。この城の宿泊区域に部屋を手配しておいた。師団長リングよ、案内を」
「休む必要は無い。あの黒い旗の奴らとアンタらはなんで戦争してるのか、それを聞いた後は捕虜になってる氷の人に同じことを聞く」
「む、そうか。では説明しよう。」
◼
なんかアーデリア帝国が領地拡大のために攻めてきたらしいよ。
「雑だなおい」
理由の説明なんてそのくらいでいいのさ。
「文才ねぇのに無理するからだな。それよりもアイツに聞きに行くぞ」
拷問タイムだ。
「いや尋問だから」
◼
「......ここ、は?」
目を覚ますと、牢獄らしき所にいた。
どうやら捕虜となってしまったらしい。
「HI.起きたか?」
「き、貴様は...」
あのとき、私が率いていた軍を1人で滅ぼし、私の右手を奪った男が目の前にいた。
「ここはネスト王国ってとこでな、今はお前を尋問中だ」
「...そうか。私に何を聞き出そうと言うのだ?」
「何故戦争を仕掛けた?」
「...何?」
「なんで戦争を仕掛けてきたのかって言ってんだよ。耳に氷が詰まってんのか?」
...てっきり我が国が保有する兵器や軍の作戦を聞かれると思ったが、これは...
「戦争の原因を知りたいのか?いいだろう」
「いよっ!待ってました!はい、拍手!あ、チョコ食う?」
「...要らん。貴様、元は別の異世界にいたのだな?」
「そうだ。この世界の事はこの国の国王に教えて貰ったよ」
「そうか、マナの説明も必要ないな。まず我が国は」
「なにそれ聞いてない」
「...は?」
「説明しろ。そのあとあのジジイぶん殴る」
「...マナというのは、この世界の至る所に存在する自然のエネルギーのようなものだ。私の氷を使った魔術もそれによるものだ」
「なんでそんな大事なこと説明してねぇんだよあのジジイ」
「...話さなかったのではなく、『話せなかった』のだろう」
「最初に仕掛けたのはネスト王国だったのか?」
「あながち間違いではない。原因はこの国だ」
◼
中々面白い話だったな。
「マナを使ったスーパーな兵器が暴走して周辺国のマナも大量に吸って、大地が干からびたとか作ったヤツバカだろ」
とにかく問いただすか。
「ジジイ、マナのことを正直に話せ。じゃないとこの世からバイバイだぞ」
「っ!?な、なんの事じゃ!」
「貴様っ!王に無れ...い......!?」
「こうなりたくなかったら答えろ」
早速首チョンパか。出だしは順調だぞ。
「くっ!この者を捕らえ」
「誰もいないぞ?」
今全員ミンチにしたもんな。
「おのれっ...!」
「話すのか、話さないのか。早く決めろ」
俺的には話す方をおすすめする。
「...我が国が原因で周辺国がマナ不足に陥っているのは事実だ...。だがっ、先に仕掛けたのは向こうだ!」
「...お前の地位に免じて殺すのは勘弁してやる。解決方法は?」
「は?」
「マナ不足の解決方法だよ。ないのか?」
「大地が干上がる程のマナ不足だぞ!?解決方法など...」
「...あるかもしれません」
「っ!?リング師団長!?」
応援が来たか。
「その方法ってなんだ?」
「この大陸全土に広がる言い伝えです。」
「そっ、そんなもの!解決方法とは!」
「『異界より、英雄召喚せしとき、この世は暗雲に覆われるだろう。』」
「...へぇ」
「『世界は魔物で溢れ、大地は竜の息吹に燃え盛るだろう。しかし、召喚されし英雄これらを打ち砕き人々に安息を与える』」
「ドラゴンとかいるんだこの世界」
お前死んだな。
「『安息の後、全てを無に帰す邪神降臨せり。これを打ち砕く強き者、英雄。世界に命を与えるだろう』。これは我が国に伝わる言い伝えです。各地に違う形で伝わっているものもあります。」
「だが、あくまで戦争の切り札として召喚したのだぞ!?」
「それが引き金となったのでしょう。各地で魔物被害増加の報告が挙がっています」
やっぱこの国が原因じゃねぇか。
「本当に災いしかもたらさねぇなこの国」
「王よ、今は戦争などしている場合ではありません。どうかアーデリア帝国との停戦協定を提案してはいかがかと」
「うっ...ぬぅ...!」
「お前のせいなんだろ?ちゃんと謝れよ」
そーだそーだ。身体で払え。
「爺の身体で自慰ってか!さっさと交渉しないとオレがその邪神になるぞ?」
「...しかし、今更交渉など...向こうは許さんだろう...」
「オレに考えがある」
「...聞かせてくれんか?」
「それはな...」
◼
「なぁ知ってるか?ネスト王国の変な覆面男の話」
「聞いたさ。あのミストラル様が負けるなんてなぁ」
「それだけじゃねぇ、瞬間移動の魔術がつかえるし、飛んでもねぇ馬鹿力で殴られた奴はミンチになるって」
「俺達...そんな怪物がいる国と戦争しなきゃなのかよ...勝てっこねぇよ...」
アーデリア帝国は俺達の話題でもちきりみたいだな。
「有名人は辛いぜ」
「っ!?こいつ、どこから!?」
「おっ...おいっ、こいつが担いでるの...ミストラル様じゃないかっ!?」
「変な覆面って...まさか、こいつ...!?」
「そういうこと。ここの王に用がある。邪魔するぜ」
殺しはしないから安心しな。
◼
「報告します!現在、城の兵士の半数が奴に気絶させられております!奴がここに来るのも時間の問題です!」
「......彼を通しなさい」
「しっ、しかし!」
「彼がその気なら、今頃ここは血の海と化していたでしょう。そうでないのなら、何か理由があるのでしょう」
兵士達に彼を通すように言ったところで扉が吹き飛んだ。
「Hello.元気してる?」
「くっ!食い止めろ!」
「下がりなさい。あなた達では殺されてしまいます」
「おっ?アンタは話がわかるな」
「......目的はなんですか?」
「なに、話し合いをしに来ただけだ。それとコイツ返すね」
「あっ、あれはミストラル大尉!?右手がないぞ!?」
「戦いの最中でやれって言われたんでな。恨むなよ。で、話し合いは?すんの?」
あのミストラルがここまでやられるなんて...相当強いわね...。
「...えぇ、いいでしょう。しましょう。話し合い」
「どうも、Bカップの姉ちゃん」
◼
「...で、あなたはネスト王国の使者としてここへ来たと」
「そうだな」
「...こちらでも魔獣による被害の件数が上昇してきていることは把握しています。しかし、その話を信じろと言うのですか?」
「まぁ必須スキルじゃないんでしょ。今は信じてくれとしか言えないな」
「...会話の最中にもう1人の方と話さないで頂けませんか?」
「おっ、アンタわかるのか?」
「私は人の心を見ることができます。そして、あなたが嘘を言ってないこともわかりました」
「それじゃあ」
「ですがあなたが私達にとって脅威である事には変わりません。何よりあなたは、私の胸のサイズを皆に暴露した。これは許せない行為です」
「Bだったのか...」
「陛下はB...」
「俺、Aだと思ってた...」
「ちっぱい笑」
「ミストラル大尉!この者達を処刑なさい!」
「これ以上の戦力低下は容認できません」
「くぅ...!なんで...こんな辱めを...」
「いやさっき否定しとけよ」
「......先程の話...受け入れるには条件があります...」
「なんだ?」
「あなたがどこの国にも属さない事です。あなたの存在は危険すぎます」
「いいよ」
「えっ!本当!嘘じゃない!今言ったからね!」
「おっ、おう。人の心読めるんだからいちいち確認すんなよ...」
「いや~、あんたみたいな怪物が敵とかもうやってらんなくって!でもこれで安心だわ!ミストラルも返してもらったし、そういことで!よろしくね~!」
「ポンコツ姫か...ありだな」
「いかん!陛下のポンコツが出た!奥に戻せ!」
「ポンコツが発動したぞー!隠せー!」
「貴様が何を考えているかよく分からんが、そういうことでネスト王国に伝えてくれ。では、謁見は以上だ」
◼
「以上!」
「そ、そうか...ご苦労であった...」
「じゃ、オレは他の国にも行ってくるから」
「うむ、無事帰って来るのじゃぞ」
「帰らないけど」
「は?なんで?」
話聞いてねぇのかボケナス。
「話忘れたのか痴呆」
「いっ、嫌じゃ!それだとこの国はどうなる!?」
「知った事じゃねぇな。それじゃ」
「待てっ!貴殿に旅の仲間を付けよう!せめてそれくらいなら良いだろう!?」
「怪しまれるんだけど」
必死すぎてキモイな。
「アーデリア帝国にまた行って仲間貰ってきたらグローバルな感じで良いじゃろうが!」
「うーん、このジジイ」
これは滅びていい。
「でも仲間か...」
いつまでも1人遊びはキツいっす...
「どこまで行っても自虐だぞそれ。そうだな、おい、Have notsさん。一緒に行こうぜ!」
「嫌です!」
「よし!リング師団長よ!その者の仲間として着いて参れ!」
「人の事を無胸とかdisって来る人と旅とか嫌ですよ!」
「そこまで言ってる」
まぁまぁ仲良くスケベしようや。
「リングよ!これは命令である!」
「あぁ...王は人の心がわからない...」
テレレレレレレ、テレレレレレレルルルレレレレレレェーテーテー。女騎士が仲間に加わった!
「長い」
◼
「...それで、またここに来たと」
「そういうこと」
「...本当に連れてこられてしまった...」
「なんというか...こう...そちらの騎士に同情します...」
「...ありがとうございます」
和解出来たな。
「これで俺達、友達じゃん?」
「「絶対違う」」
◼
「で、私が付けられたと」
「そういうことだ。片腕とってごめんね?」
「許そう。仕方の無いことだ」
「...あの氷結のミストラルが仲間になるとはな」
「そういう貴殿はネスト王国聖光騎士団第11師団団長リングか。貴殿の軍団には何度も煮え湯を飲まされた」
「皮肉のつもりか?あの時、本来なら確実に我らの敗北であった」
「貴殿に暴れられるのはこちらも大損害は免れなかったのでな、出張らせて貰った」
「...まったく、恐ろしい男だよ。たった1人であれだけの数を殲滅するとは」
「真に恐ろしいのは一瞬で倍の数を屠り、私を倒したあの男だろう」
「呼んだ?」
「貴殿の力、筋トレと悪魔との契約によって得たものであったな。同じことをすれば、私もああなれるのか?」
「HAHA!お前、面白いな!」
やっぱヒーローって憧れるんすわ。
「悪魔なんて全員クソだぞ?やめとけ」
「承知した。別の方法で力を得よう」
「...一体なんの話だろう...」
◼
「で、ネスト王国と敵対してんのはあとどのくらいだ?」
「北方のミドナ皇国と南方のイール教国です」
「ミドナ皇国はどんな国だ?」
「まずこの大陸は現在戦争をしているネスト王国、アーデリア帝国、ミドナ皇国、イール教国、そして中立の立場であるバーロル王国の5つの国で構成されています」
「ミドナは科学と商業が発展しているが、国全体で福利厚生が損なわれており、よく亡命する人間が多いな」
「実はマナを吸い尽くした我が国の兵器もミドナから亡命した科学者が設計したんですよ」
「最近は亡命されないように、『シャチク』と呼ばれる教育を施しているらしい」
「仕事だけでなく国もブラックとかやばいな」
この世界欠陥だらけじゃないか。
「ちなみに国旗は赤色で紙とソロバンが装飾されており、紙は科学、ソロバンは商業で赤色は国民のち肉を表しているらしい」
こっわ。
「えっぐ」
「だから、あの科学者も栄養剤を要求していたんですね...」
骨身に社畜精神が染み込んでんな。
「なるほどねぇ...イール教国は?何となくわかるが」
「その名の通り、イール教が誕生した地がそのまま国となっています。イール教はこの大陸では3番目に信者の多い宗教です」
「生と死を司る神、イールを信奉しており、厳しい戒律で有名だな」
「そのせいでよく他宗教といざこざが起きることもあるそうです」
「この国のトップは王ではなく教祖と呼ばれており、神の次に崇拝されている」
「中々興味深いな。だが、先にミドナ皇国から行くか」
近いしな。
「理由を聞かせてもらおうか」
「最近になってから亡命者が少なくなってんだろ?つーことはまだ亡命したがってるヤツもいるんじゃないか?ソイツらに協力してもらおうと思ってな」
「確かにいいかも知れませんね」
「だろ?よーし、そうと決まればミドナ皇国に出発だ!」
「馬車はこちらで用意した」
「アーデリア帝国の国王陛下は慈悲深い方なのだな...まったく、我が国の王も見習って欲しいものだ」
「いや、これは彼の機嫌を良くするためのものだろう」
「...そうか」
こうして俺達一行はミドナ皇国に旅立った。
それよりも相棒、面白い事考えてるな。
「オレはただ働き方改革しようとしてるだけだぜ?」
そいつは革命って言うんだぜ?
「まぁ楽しみにしとけよ!」