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屁理屈先生と女の子なぼく・わんもあ。

「で、だ。この子、名前どうするの?」


 再び、初めまして。語り部の双咲一葉(そうざきひとは)です。再びってなんですかね。

 あれから――筑利先生が犬を拾って来てから――二日が経ちました。結局成り行きでそのまま育てることになった犬コロさんですが、まだ名前を決めていませんでした。その時点で既におかしいですが、とりあえず筑利先生は白いプラカードに「筑利双咲」と大きく書いて掲げるのはやめてください。どんな名前ですかそれ。

「えー! いい名前じゃないか! 筑利篇介&筑利ちずな、プラス双咲一葉で筑利双咲」

 何処のお笑い芸人ですか。飼い犬の名前に飼い主の苗字って痛過ぎるでしょう。

「んっ? じゃあヘンチー」

 名前の由来が下らな過ぎます。確かにぼくの名前に伸ばし棒みたいのはありますが、其れは漢数字です。ちなみに小学生三年生の頃のあだ名は「ソウザキーハ」。ぼくは日本人です。

「それなら会議でも開くかハーキザウソ」

 最早人じゃないです。


 と言う訳で。

「……第一回、犬コロ命名会議〜」

「おー」

 極まった語呂の悪さです。第一回って、こ、事あるごとに変える気ですか……。

 やる気なさそうなちずささんの音頭とともに、会議が始まりました。

 と、おもむろに、犬コロさんが、口を開きました。

「……うむ? 私の名前か? 別にそんな物は必要ないと思うが、頑張って考えるのじゃぞ」

 ……。

 全員の眼が、一斉に犬コロさんに向けられました。

 すると犬コロさんははっと何か気付いたような顔をして、直後、

「わ……ワン!」


 ……鳴きました。



「……えーと、色々と人智を超えたアクシデントがありましたが、気にしないで続行です」

 はい。要は諦めが肝心ですね、ちずなさん。

「其れは違うかな」

 見事に否定されました。何と言う恥ですかこれは。

 自らの羞恥に身悶えていると、筑利先生が手を挙げました。

「はい、お父さん」

 直後に、ちずなさんが筑利先生を指名します。な、なんだか会議っぽいですね……。

「気の所為でしょ」

 ですよね。

 ちずなさんに発言権を貰った筑利先生が、ニコニコしながら口を開きました。

「折角の会議な訳だしねー、三人で一つずつ名前を出し合って、その中から決めるってのはどうかな?」

 おお、筑利先生らしかぬ素晴らしい提案。素晴らしい? うん?

 ぼくの隣の席に座るちずなさんが、うん、と一言。ちなみに筑利先生はぼくの真正面の席に座っていて、犬コロさんはこたつに半身だけ潜らせて寝転がっています。猫ですか。

 ……あれ? そう言えばなんでぼくら、わざわざこたつから出て会議してるんですか?

「一葉、この会議に関係ないこと言わないで」

 すいません。けど、なんでです?

「まあ、お父さんの意見でいいと思うよ。それじゃ、一葉から」

 軽くスルーされました。

 自分に対する風当たりが日々強くなっていくことを自覚しながら、ぼくは犬コロさんの名前を考え始めました。

 そして一分後。複雑に組み合わされた思考回路の果てに得た真実。ぼくは、今考えうる限り、最強最大の名を口にしました。

「ポチ」

「却下」

 ですよね。



 一分後には、全員の考えた名前が出そろいました。いや、全員と言っても三人しかいないし、しかもぼくの意見は既に却下されているので、実質出た名前はたったの二つです。

 ちずなさんの「もう有る」と、

 筑利先生の「まだ無い」。

 二人とも恐らく正気じゃないです。

「平気でポチなんて言ってのける人に言われたくはないなー」

 そりゃちょっとあれですけどね筑利先生。

 けど、それでも……っ!

「あなたたち父子揃ってどういう思考回路してるんです!? もう有るって、何がもう有るんですか!? 名前ですよ!? れっきとした犬の名前ですよ!? と言うか、まだ無いって何処かで聞いたことが――」

「それは≪名前はまだ無い君≫の事じゃないかな? 今回は≪まだ無い≫だよー」

「ほとんど何も変わって無いじゃないですか――!?」

 ぼくは思わず叫びます。これなら絶対ポチの方がましです。ええ絶対。

 これでもぼくは犬好きなんです。自分と犬のどちらが好きと言われたら絶対犬と答えます。嘘です。

 ……そかし、ぼくの激昂は、突然発せられた犬コロさんの言葉に止められました。

「……のう、少女二人と紳士一人よ。少し聞きたいことがあるのじゃが」

「どうでもいいですけどぼくは男です。いや、良くない。全然良くないです。……で、なんです?」

 ぼくはためいきを吐いて――そう言えばまだぼくたち名前を教えて無かったですっけ――、席から立ち上がって犬コロさんのもとへと向かいます。

 犬コロさんは体をこたつの外に完全に出して、半身だけこたつのテーブルの上に載せています。そしてそこに置かれている≪其れ≫を、とてもくりくりした瞳で見ていました。

「……この柔らかくておれんじ色をした球体は何じゃ?」

 ――犬コロさんが見ていたのは、数日前筑利先生が友人からもらってきたという、みかんでした。

 はあ、成程。それが気になっていたんですか。

「これは、みかんと言います。正式名称は、≪みるくれっど・かのん・んーてすと≫というんですよ」

「一葉、帰れ」

 ごめんなさい。

 ぼくがちずなさんに平謝りしている間に、犬コロさんがみかんを一つ選んで手でころころころがし始めました。なごみます。

 なんだか凄くなごむ光景です。

「で、一葉君って結局女なんだよね」

 なんでそうなるんですか。


 と、不意に犬コロさんがみかんで遊ぶのをやめ、嬉しそうな声で言いました。

「みかん……。みかん、か。初めて聞く言葉じゃ。それでいて、何と甘美な響きか……。よし、決めたのじゃ! 私の名前は、みかんにするぞ!」

「……」

 その言葉に、ぼくたち三人は。

 たがいに曖昧な表情を見せ、笑ったのでした。



 こうして。

 ぼくたちの家族に、人語を喋る犬、みかんさんが改めて加わりました。

 十二月中旬、まだまだ寒さが厳しいある一日の事でした。



「……それにしても私たち、何か途中からみかんの人語に自然と対応しちゃったよね」

 …………。

 まあなんですかね、はい。あれですよ、あれ。

 はい。

という訳で、屁理屈先生と女の子なぼくの続編でした。

今回は見ての通り、前作で筑利先生が拾ってきた犬コロさんについてのお話です。ちょっとだけ笑い要素が増えたかな? しかし、先生の屁理屈が書けてないという悲劇。しかも先生の影が薄い。なんてことだ。

まあ何の解決も出来てませんがそんな感じですこしでも笑って頂けたなら幸いです。ではでは。

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