上を向いて歩いた
上を向いて歩こう。
いつだってそれを心がけてきた。どんなに下を向きたいときも、どんなに立ち止まりたいときも。目頭に溜まった熱い水が溢れないように、顎をぐっと上げて。後ろにいる誰かに怯えながら、私はずっと歩いてきた。
声が言う。もっと上を向けと。
声が脅す。もっと速く歩けと。
果てしない鉛色の空。何もない灰色の道。首の骨がみしみしと呻く。ふくらはぎが悲鳴をあげても、ただ前に進み続けた。
あるとき、足先に何かがぶつかった。同時に、鼻先を何かが掠めた。空ばかり見ていた私は、咄嗟に首を仰け反った。
あ。
ばきり、と嫌な音がして、地面に叩きつけられた。気がつくと、まっさらな道にひとつ、赤い花。
灰に咲く花。