第5話 望月団子の昂り その①
あたし、望月団子は昂っていた。
理由は新入(する予定の)部員。名を、近藤・シャーロット・和姫という。日本人の父親とイギリス人の母親を持つ、ハーフの少女だ。煌めくプラチナブロンドの髪と、それに負けないほど白く輝く肌。小さな顔の中には、目の前でのぞき込んでみたくなる大きな碧い瞳をもつ。あたしには及ばないが、それでも170近くの身長はあるだろう。そして胸!外人は全員Zとか下品なぐらいの巨乳かと思っていたが、大変失礼した。あたしは、彼女のようなD~Fぐらいのサイズが特に好みだ。金髪の女性に、“スタイルが良い”というのは、セクハラになるんだったかな?あたしの愛人あたりに言ったら喜ぶのだろうが、彼女には言わないでおこう。地雷を教えてくれてサンキュー、ト〇ンプ。あなたの奥さんも、とてもスタイルが良いよ。
結局、作戦会議の結果、勧誘は私1人ですることになった。優穂は、富士愛以外で人にものを推すことは向いていないし、雪菜は、勧誘するには押しが弱すぎる。今回の相手は聞いた限り、数十の部活動の延べ百回以上にものぼる勧誘を、断り続けている難敵だ。私がやるのが一番いいだろう。まあ、決まった活動内容も大した活動実績もない部活の紹介は、優穂と雪菜には難しかった、というところが一番大きいのだが。あの2人はあたしと違って、とっさの嘘とか適当なでまかせを言うことが苦手だからな。そこが大好きなんだけど。
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あたしの大切な、愛しい愛しい団員達、大高優穂、四咲涼、古泉雪菜。
リョウが引っ越すと知ったときは、どうなるものかと思ったが、案外、優穂も雪菜もしっかりとやっていけている。それでも、寂しそうではあるがな。あの子たちはよく似ている。きっとリョウも同じだろう。長い付きあいの私にはわかるんだ。今度、親友同士の純愛ものを送ってやろう。寂しい夜には、性欲を満たすに限る。
『ユウとユキのこと、よろしくね。団子』
引っ越し前、最後に唇のひとつでも奪ってやろうとしたとき、すれすれでかわしたリョウは、あたしの唇を頬で受け止めながら、優穂にも雪菜にも気づかれないように、そっと耳元でそうつぶやいた。あたしの頬にキスも返して。
「まったく・・・・・。任されよう」
前払いにしては、破格の報酬だ。きっと、成功報酬はもっとすごいに違いない。今度こそ舌を入れてやろう。うん、まあ、いや、冗談だけど。ハヘッ
頼まれなくてもやってるさ。君も含めて、彼女たちは、あたしのすべてなのだから。
私の実家、望月家は、雪菜の古泉家のような、室町だか鎌倉だかから続く、由緒正しいお金持ちではない。戦後の混乱にかこつけて、密貿易やら闇市やらで荒稼ぎした、的屋の成金一家だ。元々、富士の街は、富士山の豊富な湧水を利用した、製紙業が盛んだった。戦後、壊滅的なダメージを受けていた、それらのこの街の工業につけこみ、稼いだ金で投資をして、現在に至るまでで、かなりの富を築いている。働かなくとも、結婚せずとも、私の老後は安泰だ。
ちなみに、富士の街はトイレットペーパーの生産量が日本一である。今テレビに出ている美人女子アナが、もしかしたら、私の息のかかったところのトイレットペーパーで、自慰の後に股をふいているかもしれないと思うと興奮する。
この街において、工業と物流のほとんどを掌握している私の家の力は絶大だ。だが、あたし自身が、それらに関わり始めたのは、小学校高学年になってからだ。それまでは、ほんと、無力なアホ女だった。
『おんなのこが好きでなにがわるいの!ユウもリョウちゃん大好きだもん!もちこちゃんも大好きだもん!みんなだって大好きだもん!なんもおかしくないんだもん!』
あの時、そう言って、あたしのファーストキスを奪った彼女。あたしにファーストキスをくれた彼女。馬鹿で意気地なしな変態をかばって、その意味も大切さも知らないで、あたしなんかにファーストキスをくれてしまった彼女。あの時の唇の感触が、あたしは今でも忘れられない。
あたしに、キスと友達と親友と、あと妹とか後輩とか思い出とか、他にもいろいろと。そして何よりも、初恋をくれた彼女が、大高優穂が、あたしは、今でも愛おしい。
別に、抱きたいとか、自分のものにしたいとか、そういうわけじゃない。あたしはただ、彼女を愛して、ただ、彼女と彼女の周りの幸せを、永遠のものにしたい、ただ、それだけでいいんだ。ま、求められたら抱くけどね。
彼女と彼女の周りの幸せのためにつくったこの団子団は、リョウが引っ越し、精神的には4人でも、物理的には明らかに1人減ってしまった。長い間続いていた当たり前が、初めて変わってしまった団子団は今、まだ、3人になりきれずにいる。今の彼女には、いや、あたしたちには、何かが必要なんだ。何かが。そして、その何かは多分これ。
こういうと、なんだかミス近藤がリョウの代わりのようだけど、別にそういうわけではない。
今の時代、故きを温ねても新しいものは知れないのだ。竹取物語にスマホのスクショの仕方とか書いてないだろ?新しいことは、新しいものから知るのが一番なんだ。今までの思い出は残したまま、新しいものを足して、また一歩踏み出そう的な?そしたらきっと、月に行ったかぐや姫が、最後スマホで爺さん婆さんに仕送りお願いする的な、未知の楽しい未来が待っているはずだ。
大丈夫、優穂も雪菜もリョウも、そして和姫も、何があってもあたしが絶対に守るから。絶対にね。
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しかし、今日は意外だったな。雪菜が自分から団子団に新入団員を大勢入れたいなんて言い出すとは。まあ、あたしのはじめの悪ノリが悪いのだろうけど。リョウというツッコミ役が消えたせいで、ボケの回収が大変になった。学校だとこまちゃんもいないし。早くツッコミ役を勧誘しないとね。
『後輩さん、増えた方が楽しくないかな?』
とっさに下を向いてごまかしたが、あの時は、嬉しくてうっかりよだれがたれそうになった。高校生になって半月で、雪菜の成長がひとつ見られるとはね。何とか適当にインチキ宗教まがいの言い訳でまとめたけど、ほんと危なかった。優穂も優穂で変なとこツッコんでくるし。なんだよ、団子団の輪って。目も耳も口も手もなくたって、あたしは優穂とも雪菜ともリョウとも繋がれる。危ない宗教は、富士市じゃなくて、おとなりさんのお株だ。あんなので丸め込まれてるうちは、あの2人はあたしが守んないとな。にしても、抱きしめた時の雪菜の首筋のにおい、忘れられないな。また、スーハ―スーハ―したい。
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「団子、電話だよ」
録画しておいた再放送の『〇棒』をみていると、おばあさまが呼びに来た。礼を言って、家電へ向かう。
基本、あたしのスマホは、団子団とAV鑑賞用だ。家電にかかってくるのはそれ以外から。電話の主はわかっている。まあ、あたしに電話がかかってくること自体が珍しいからね。例の“依頼”のことだろう。報酬はもらっているんだ。しっかりと仕事はして見せよう。他の部活に対しては、すでに手を打ってある。けれども、一番の目標は彼女だ。絶対に口説いてみせる。
さ、とっととすましてさっさと寝よう。月曜日からの勧誘作戦の前に、あたしには、明日明後日と、沼津での回収作戦があるのだ。優穂と雪菜がくる日曜まで、入場者プレゼント、残ってるといいけどな。まあ、今のメンバーだけで遊ぶのもこれが最後だろうし、なくても思い出にはなるか。あの2人と映画を観に行くなんてのも久しぶりだな。楽しみだ。さて、電話電話――――――――――――
「やあ、こんばんは。ご機嫌いかが?近藤君―――――――――――」