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ふじおこしっ!  作者: 炉氷方奏
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第4話 団子団の輪 ※危ない宗教ではありません。 

 「そんなわけで諸君。この娘を勧誘したいと思う」

 

 決起集会の数分後、さっそく作戦会議が始まりました。


 団子さんの持ってきた紙袋の中身は、バウムクーヘン。緑茶とあうでしょうか。

 自動販売機で紅茶を買ってこようかな、と悩んでいると、団子さんが、そう言って1枚の写真を取り出しました。

 写っているのは見覚えのある、といいますか、一度見たら忘れられないほど美しい、同級生の女生徒の写真でした。

 

 「どうだ。美少女だろう?入学式の後、一目見た瞬間から、この娘っ子を勧誘しようと思っていたんだ」

 「ああっ!この子知ってる!みたみたみたっ!写真撮った!」

 「近藤さんですよね。私たちと同じ新入生の。私も何度かお見かけしたことがあります」

 

 金色の長い髪に、碧色の大きな瞳。そして、その美しい特徴を、遠くからでも見つけることができる、高い身長。

 入学してから、まだそれほど時間も経っていませんが、この学校で、彼女のことを知らない生徒はいないでしょう。それほどの有名人です。

 

 「よく知っているじゃないか。13HRの近藤・C・和姫君。日本人の父親とイギリス人の母親を持つハーフだ。今は、父方のおばあちゃんと2人暮らしだそうだ」

 「すっごくかわいい子だよね。どこの中学から来たんだろ。これだけの美人さんなら、街中の人が知っていそうだけど」

 「彼女のお父上は、貿易関係の仕事をしている。生まれは日本だが、育ったのはお父上の勤務先のベルリンがほとんどだそうだ。学校も向こうのに通ってたのだと」

 「そうなの?この前、演劇部の人としゃべっているとこみかけたけど、すごい日本語上手だったよ。少し驚いちゃった」

 「まあ、今は世界中どこにいっても日本人はいるからな。そんなに不思議なことではあるまい。ハグハグ」

 

 切り分けたバウムクーヘンを、一口で食べてしまう団子さん。それにしても、流石は団子さんです。いろいろなことをよく知っています。

 

 団子さんのご実家、望月家は、第二次世界大戦後に、富士の団子浦港において、積み卸しをはじめとする交易で財を成した、運輸業を生業とするお家です。その力は、富士の地に強く根づいており、この街の工業は、望月家で成り立っているといわれるほどだとか。

 

 その力に裏打ちされた団子さんの情報収集能力は、このように並外れています。

 

 「近藤さんから勧誘するってこと?」

 「うん?いんや、勧誘するのは彼女だけだよ?」

 「あれ?新入部員いっぱい勧誘するんじゃないの?」

 「ああ、やっぱやめた。どうせ、たくさんいても、相手にしきれないだろうしね。今のあたしには、たくさんの新入部員よりも、優穂と雪菜、そして、このお姫様さえいてくれれば、それだけで十分だと気づいた」

 

 あれから30分も経たないうちに、私の夢は潰えてしまいました。いや、まだです。団子さんに考え直してもらいましょう。

 

 「後輩さん、増えた方が楽しくないかな?それに、きっと大勢いた方が、近藤さんも入りやすいと思いますし、賑やかになった方がスズさんも嬉しいんじゃないでしょうか」

 「へ?・・・・・うーん、そうだね・・・・・」

 

 私の言葉に団子さんは、口元に手を当て、少し下を向いて考えるそぶりを見せました。そして、次に顔をあげた時、その表情はとても真剣なものでした。

 

 「雪菜。これはあたしの勘なのだけれどね、多分ミス近藤は、雪菜君の言うような賑やかな部活より、なんというか、少人数の物静かな部活の方が、入りやすいタイプなんじゃないかと思うんだ」

 「物静かな部活、ですか?」

 「そう、彼女はみんなでワイワイするよりも、部屋で1人で本を読むほうが好きなのではないかとあたしは考えている。何度か彼女を見かけたが、いつも彼女は違う生徒と話をしていた。帰国子女、ということもあるのだろうが、多分、彼女には特定の友人はいない」

 「うーん。確かに、言われてみればそうかも。私、前に近藤さんが、屋上の隅で1人でお昼食べてたのみかけたんだ。そういうの、たくさん誘われてそうなんだけど」

 

 2人の言葉は、私の記憶とも合致していました。放課後になると、近藤さんを勧誘するために、たくさんの部活やサークルが、いつも13HRの前に押し寄せています。けれども、いまだに近藤さんがどこかの部活に入った情報を聞かないということは、団子さんの意見の表れなのでしょうか。

 

 「それにだ、雪菜。私たちは今、この部室に3人だ。私は君と手をつなぎ、そして、優穂とも手をつなぐことができる。けど、腕が2本しかない以上、君たち2人としか繋がることはできない。10人20人増えた時、私は団長なのに、みんな等しくかわいい団員なのに、同時に繋がることができる人とできない人がでてくるんだ。これは、とても悲しいことだとは思わないか?」

 「でもそれって、近藤さんが増えても一緒じゃない?もちこちゃんは、私と雪菜ちゃんとしか手を繋げないよ?」

 

 団子さんは少し笑って、ユウさんの問いに答えました。


 「確かにそうだ。でもね、彼女を“見る”ことはできる」

 「見る?」

 「そう。左手を雪菜の手を握るためだけに使っているように、右手を優穂の手を握るためだけに使っているように、あたしはこの目を、彼女を見つめるためだけに、彼女と繋がるためだけに、使うことができるんだ。その時、彼女の両手は、あたしの代わりに君たちが握ってくれればいい」

 「なるほど」

 「それにだ、その時、あたしたちはどんな状態だ」

 「状態?」

 「そうだ、状態だ。あたしは雪菜と優穂と手をつなぐ。そして、ミス近藤を見つめる。優穂は?」

 「私?えっと・・・・・。私ももちこちゃんと雪菜ちゃんと・・・・・」

 「優穂はあたしとミス近藤と手をつなぐんだ。そして見つめるのは雪菜だ。雪菜君、君は?」

 「私も団子さんと近藤さんと手をつないで、それで、ユウさんを見つめます」

 「そう、そしてミス近藤は、君たち2人と手をつないで、あたしを見つめる。その時、あたしたちは、どうなっている?」

 「えっと・・・・・・あっ」

 

 頭の中に浮かんだ私たちの姿は、

 「あたしたちはね、ひとつの団子団という輪になっているんだよ」

 一人一人が手をつないで、つなげない相手と見つめあって、ひとつの輪になっていました。

 

 「おおー」

 

 ユウさんが、驚いたような、そして、感動したような声を出します。声には出ませんが、私も同じ心境です。


 「それだけじゃないぞ、私たちは、まだつながることができる。どこでだか、わかるか?」

 「えっまだ?・・・・・えーっと・・・・・足、かな?」

 「足でどうやってつながるんだ。踏んでくれるのか?舐めさせてくれるのか?どっちも大歓迎だぞ?」

 「えーっと・・・・・それじゃあ・・・・・」

 「耳、ですか?」

 

 煮詰まっている様子のユウさんの代わりに私が答えます。

 

 「そう、耳だ。そして口、声、言葉だ。相手と繋がるためだけに声を出し、相手を受け入れるためだけに言葉を聞く。私たちには、見つめることも手をつなぐこともできない、けれども、声を届けて、声を聴くことはできる、今は遠い地で生きている、大切な団員がいるだろう?」

 「―――――!!!」

 

 ポケットから出したものを見せながらそう言った団子さんの言葉に、今度こそ私も、驚いたような、感動したような声を出しました。

 

 今ここにはいない私の天使。親友。団子さんの手にしたスマートフォンを使えば、私たち4人だけではなく、スズさんともつながることができる!

 

 「リョウにとっても、そっちの方が良いはずだ。自分の家に帰ったら、知らない人だらけ、なんて君たちも嫌だろう?葬式じゃあるまいし。故に、今回勧誘するのは、近藤・C・和姫君1人とする。どうだろうか?」

 

 私は自分を恥じました。自分の夢を叶えるために、大切な親友のことをちゃんと考えていなかった。団子さんへの協力、スズさんを喜ばすためなどと言って、本当は、寂しさを紛らわせたかっただけなのかもしれません。

 

 「わかった。私はそれでいいよ」

 「ありがとう、優穂。・・・・・。雪菜。君は――――――――おおうっ!?」

 

 私は、団子さんに駆け寄って、彼女の両手を握りしめて答えました。

 

 「お願いしますっ!私、古泉雪菜、近藤さんの勧誘に、全身全霊をもって協力させていただきますっ!」

 「そっそうか・・・・・。うむ。ありがとう」


 団子さんは、私の返事にお礼を言って、そっと抱きしめてくれました。少し首元がくすぐったいです。

 

 「ね!決まったなら、今度こそ作戦会議!急がないと近藤さん、他の部にとられちゃうかもよ」

 

 抱きしめあっていた私と団子さんに、ユウさんも加わりました。円陣というやつです。どこか、少し残念そうな顔の団子さんをよそに、ユウさんがこの場を仕切ります。

 

 「それじゃあまず、どこに落とし穴掘る?」

 『・・・・・・・・・・』

 

 作戦会議、長くなりそうですね。




 ちなみに、緑茶でもバウムクーヘンとあいました。やはり、富士の緑茶は日本一ですね。


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