第20話 真・はじめての友達
「ねえ、優穂。私もあなたに、言わなければならないことがあるの」
今まで黙って聞いていた私からの呼びかけに、優穂の体がビクッとはねた。小さな体がさらに小さくなっていくように見える。それでも彼女は、言葉を紡いだ。
「うん。聞く。何でも聞く」
「うん」
彼女の今までの告白の内容とその態度から考えれば、その返事は勇気がいるものだっただろう。それでも彼女は、真摯な瞳で私を見据え、「何でも聞く」と言ってみせた。なんて強い友達なんだろう。そんな彼女だから、私は助けられたのかもしれない。
私は震える彼女に、言い忘れていたお礼の言葉を述べた。
「ありがとう。あなたがいてくれたおかげで助かった。本当にありがとう」
私の言葉に、一瞬こわばった表情を見せた優穂だったが、すぐにきょとんとした顔になった。力が抜けて開いた口から「へ?」と気の抜けた声が出る。
「ありがとう。一昨日の写真のこと。あなたのおかげでおばあちゃんも安心してくれたし、あなたのおかげで私もひとりじゃなくなった」
重ねられた小さな手に私の手も重ねた。きょとんとした顔からは、もう何の言葉も発せられない。私の感謝、届いたのかしら?
「ありがとう、優穂」
少し不安になって、もう一度。彼女の目をしっかり見据えて感謝を示した。
私のその言葉で、ようやく彼女の口に言葉が戻る。
「へ?」
「何?」
「え?」
「・・・・・どうしたの?」
「はん?」
「優穂?」
「はい」
「いや、返事じゃなくて」
「へ?」
「戻っちゃった」
「うん」
「気づいているの・・・・・」
「うん」
「え?何?どうしたの?優穂」
「へ?」
と思ったら、今度は人間らしい会話が消えた。くりくりと宙をさまよう彼女の瞳を私の視線で捕まえて呼びかける。
「優穂!聞いてる?」
「・・・・・。あ?えっ?はいっ!聞いてるよ」
言葉と会話を取り戻した優穂は、生き返ったかのように、大きく息を吸った。
「優穂、ありがとね」
「うん。どういたしまして」
「これからも、よろしくね」
「うん。こちらこそ。・・・・・・・・・へ?」
「?何か疑問?」
「あ、いや、だって、さっきまで、私――――――――」
まだあまり本調子じゃないらしい彼女に、とりあえず要点だけをまとめて問いかける。
「うん?ああ、ごめんなさい。あなたの懺悔、唐突だし、何を言いたいのかよくわからないことが多いし、あまり理解できていないのだけれど、要するにいろいろまとめて、これからも仲良くしましょ、ってことでいいのかしら?」
「え、うん。いい。あ、でも、その、私、あなたにひどいことをして―――――――――」
「しようとして、でしょ?」
まだ何か言葉を続けようとする優穂を私はさえぎった。少し強めの私の口調に、優穂も押し黙る。
「話を聞く限り、私にひどいことをしようとして、でも私が金髪だったから直前に思いとどまったってことでしょ?『全然ちがーう!』ってなって、ひどいことやーめたってなった後に、あの、仲良くしよっ!って感じになったってことでしょ?」
「いや、別に金髪だけじゃなくて、シャルちゃんが――――――――」
一昨日の部室での優穂たちとのやり取りを思い出し、彼女の懺悔と重ねながら確認をする。
「わかったわ。私は私。あなたの幼馴染の代わりじゃない、あなたの新しいお友達の近藤・シャーロット・和姫。こんにちは、改めましてよろしくお願いします。大高優穂さん?」
まくしたてる私の言葉に優穂の思考はまだ追いついてこないようだ。
「え、えーと。ごめん、あの、ちょっと待って」
「何でかしら?待たないと答えられないの?それとも何?さっきの懺悔はお友達終了宣言だったのかしら?」
「そっそんなことない。嬉しい。嬉しいよ!でも私、あなたにひどいこと――――――――」
「知らないわよ、そんなこと。それより質問に答えなさいよ。あなたは私のお友達?それともお別れなの?」
「いや、だから――――――――」
「友達?絶交?」
「友達!!!」
大きな声でそう叫んだ優穂が、ギュッと私に抱きついてきた。乗客は誰もいないとはいえ、壁を一枚隔てた運転席には運転士が1人いる。気づかれていないか確認してから、私は抱き留めた彼女の頭を撫でた。
「そう。良かったわ。ただでさえ少ない友達を失わずに済んで」
「うん。でも、でもねえ、私、あなたにひどいことを」
「知らないわよ。私がいいって言っているんだから。あなたもいいにしなさい」
「シャルちゃん・・・・・・・ムチャクチャ」
「そうもなるわよ。そりゃ会って半年くらいたってから、とかだったら、私も思うところがあったかもしれないけれども、私たち、一昨日知り合ったばかりよ?そんな仲で、そこまで変に考え込みすぎてるあなたの方がよっぽどムチャクチャなのよ」
だってぇだってぇ、と私の胸の中で震えた声で連呼する優穂。私は優しい声を意識して、彼女の耳元で改めて礼を述べた。
「ありがとう、優穂。まだあって間もないけれども、私はあなたが大好きよ。それは、これからもずっと。だからもう許してあげて。あなたは、私の大切な友達なんだから。お願い」
私の声に優穂の連呼が止まる。荒い呼吸が落ち着いていくのがわかる。
「それと、改めて。これからもよろしくね」
そう言って、さっき私が団子先輩にされたように頭をポンポンと叩くと、彼女はようやく顔をあげてくれた。もうあの悲痛に満ちた顔ではない。けれども満面の笑みというわけでもない。それでも、十分にそれ以上の気持ちが伝わってくる顔だ。
「うん。よろしくお願いします。こちらこそ、ありがとね。私もあなたが大好きです。ずっと・・・・・・・ずっとね!シャルちゃんっ!」
そんな、表情豊かな彼女の、何とも言えない微妙な照れ笑いが、私に初めてできた親友の、最初にみた顔だった。




