第1話 素敵な街 富士
私はこの街が好きだ。「何で?」と聞かれると少し困るけれども、好きなものは好き。ただそれだけ。生まれ、そして育ったこの街で、私はこの先もずっと楽しく生きていきたいと思う。
でも同じクラスの子たちは、
早く卒業して、東京でも大阪でも名古屋でも、どこでも良いからとにかく都会に出たいっ!
名古屋は別にそうでもなくない?
だよね、どちらかと言えば横浜らへんの方がいいでしょ
関西だと神戸とか今どうなの?
どこ神戸?
まあどこでもいいよ、PA〇COでも城〇ラスでも、うちのイ〇ンよりいいもん売ってるところがあれば
だねー。最低映画館さえあれば、少なくとも富士よりはランク上だかんねー
それなー。宮にも沼にもそのせいで負けてる説ある
なんもねーホント。宮とか沼にアクセスいいのが富士の良さなんじゃー
それ良さ?
アハハハハハ
・・・・・・・etc
と、この街への不満は止まらない。なんでだろ。私はこの街から出たいと思ったことがないからわからないや、みんなの気持ち。確かに小学校の時の修学旅行で行った東京はすごく楽しかったし、中学校の修学旅行で行った京都もすごく魅力的だったけれども、社会見学で行った富士市の市場も良かったと思うけどなー。人参・ジャガイモ・玉ねぎをみんなにタダでくれたし。シチューかカレーかで迷ったよ。梅雨だったからほぼカレー一択だったけどね。
それに、PA〇COはなくても、パルプは山のようにあるし(文字通りだよ!)、城テ〇スはなくても、もうシラスは山のように獲れるし(生で食べられるよ!)、夢の国はないけれども、こ〇もの国はある(ビ〇クサンダーにもス〇ラッシュにもス〇ースにも負けない、日本一の山が目と鼻の先にあるよ!)。富士にも結構色々あると思うけどな。
まあ、彼女たちが何もないって言ったら、彼女たちには何もないのだ。自分の好きなものでも、価値観のおしつけは良くないよね。
どうか、彼女たちが“都会”へ行く前に、何か一つでも、この街を誇りに思えるものを見つけられますように。そして、都会に出た後も、たまにはこの街に戻ってきてくれますように。今の私がこの富士の街のためにできることは、そんな小さな願いを祈ることぐらいだ。
北に富士山、南に太平洋と、山と海に挟まれた、同じクラスの子たちは“田舎”と称すこの街でも、森と茶畑に囲まれた富士山側ではなく、海側の窓に目を向ければ、窓の外に広がるのはマンションに工場に電車に新幹線等々、人の手で作り上げられた人の住むための街の姿だ。“都会”とまではいわないけれども“田舎”とも呼べない。そんな“程よい田舎”であるのが、私の住む富士市という街。
私の通う高校、私立東富士女学院は、富士山側の海抜の高いところに立っている。晴れた日には、いや、晴れていなくても、見晴らしの良いところに立つこの高校の3階からは、富士市の街並みとその先の海、そして水平線まで見渡すことができる。
何で好きかはわからないけれども、そんな好きがあってもいいんじゃないかな。だってこんなに好きなんだから。
この、何もないかもだけど、何かあるかもな街が。