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ふじおこしっ!  作者: 炉氷方奏
15/23

第14話 望月団子の昂り その②

 あたし、望月団子は昂っていた。


 理由は新入(したばかりの美人)部員。名を、近藤・シャーロット・和姫という。

 

 『団子さん、今回は本当にありがとう。母もとても喜んでいたよ』

 

 今、あたしと電話をしている男の娘である。

 

 「いや、近藤君、こちらこそ感謝するよ。おかげさまで、あたしの部活はより一層華やかになった。とても良い友人ができて、あたしも団員も喜んでいる」

 

 彼――――――和姫君のお父上から依頼があったのは、まだ桜が咲きはじめたばかりの、3月のことだ。東海地方での陸路の物流で力を持っている望月家の息のかかった企業のひとつと、和姫君のお父上が役員として働く貿易会社は、長い間、持ちつ持たれつの良好な関係を保っている。彼とは私も何度か食事の席で一緒になったことがある。彼の奥さんはとても美人だからよく覚えている。

 

 そんな彼からの依頼は、“娘と仲良くしてやってほしい”というものだった。詳しい事情を聞き、私はすぐに了承した。大切なおばあさまのために、たった1人で遠い東の小国に立つ、その勇気や優しさに、一目惚れ?一耳惚れ?をしたのだ。写真を送ってもらってもっと好きになった。彼は、いつも食事の場には、美人の奥さんとの2人だけで来ていた。てっきり子供はいないものと思っていたが、まさかあれほどの至宝を隠し持っていたとは。

 

 『本当に嬉しい誉め言葉だよ。重ねてありがとう。どうか、和姫とこれからも仲良くしてやってほしい』

 「ああ、もちろんだ。団子団の一員になった以上、和姫君の幸せな学園生活はあたしが責任をもって守ろう」

 『その言葉を聞いて安心した。やはり、君に頼んで正解だった。お礼にまた何か送ろう。欲しいものはあるかい?』

 

 断ったのだが、彼はお礼にといろいろな報酬を送ってくれた。この間食べたバウムクーヘンは特に美味しかった。やはり、本場ドイツで焼かれたものは違う。雪菜君が淹れてくれた緑茶とも意外にあっていた。

 

 「またお菓子にしようかな。ああ、そうだ。前にクマの形をしたグミを送ってくれただろう?あれをまたお願いしようかな。うちの団員の約一名が、可愛い可愛いととても喜んでいた」

 『ハ〇ボーか。ドイツ土産の定番だね。日本でも売っていると思うけど・・・・・わかった。すぐに送ろう』

 「楽しみにしているよ。まあ、そんなところかな?」

 『そうだね。改めて、今回の件、本当にありがとう。そして、これからもよろしく』

 「ああ、任せてくれよ、近藤君。あなたの大切な娘さんは私が代わりに大切にしますから・・・・・」

 『おいおい。少し心配な言い方だな』

 「ふはは。変な虫がつかないよう、頑張って女子校のみを勧めまくったんだったかな?和姫君が聞いたらなんていうか」

 『それだけは勘弁してよ。和姫には、おばあちゃんの家から近いって理由しか言っていないんだ。まあ、それも大きな理由のひとつではあるのだけどね』

 「ほお、それじゃあ、こっちに戻ってきたとき、あなたの奥さんと和姫君とあたしの3人で食事に行かせてもらえるのなら、黙っていよう」

 『はあ、わかった。考えておこう。それじゃあ、今日はこれで』

 「ムッフン。和姫君のことは、安心してくれ」

 『ああ。それじゃ、また』


 通話が切れる。基本、男との会話は父親とでさえ面倒に感じるが、彼との会話は不思議と不快さを感じない。面白い男だ。ふた回り以上も年上だが、女だったら間違いなく団子団に入れていただろう。さすが、あの美人な奥さんをおとしただけのことはある。今度会った時にでも、女の口説き方について訊いてみようか。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 受話器を置いて、自分の部屋に戻る。今週は忙しかったから、録画した再放送の『〇棒』が溜まっている。まったく、テ〇朝は『相〇』に頼りすぎだ。ミ〇チーいるかもだしみちゃうけど。久しぶりに『は〇れ刑事純情派』の再放送やらんかな。


 『〇棒』をみながら、今回の作戦を反省する。まあ、おおむね作戦通りうまくいった。良かったな。



 4月。登校初日の朝。同じ2年生に、期待の新入生、近藤・シャーロット・和姫君のあることないことを大量に吹聴した。バスケ選手の娘なだけあって背が高い、とか、有名な女優の娘なだけあって綺麗だ、とか。バスケ部と演劇部は目の色変えてその日のうちに勧誘に行っていたな。


 お父上の予想通り、やはり彼女はどこの部活にも入ろうとはしなかった。彼女は、勧誘の嵐から、あの手この手を使って逃げ続けた。可愛くて思わず写真を撮ってしまったよ。

 

 勧誘に疲れてきたところを見計らって、他の部活には和姫君への勧誘をやめるよう生徒会の知り合いに頼んで圧力をかけてもらい、団子団の団員を説得し、作戦を開始した。まあ、半分ネタだったし、どれも失敗したけど。一応、帰りがけやお昼休み、家にいるときとか、彼女が比較的隙を見せる時間帯を狙って実行したんだが。誘い文句が悪かったのかな。欧米人はブラックジョークが好きかと思っていたが、間違いか。いや、そもそも元ネタを知らなかったか?次からはどストレートな下ネタでいこう。


 結局、ネタも尽きたし飽きたので、本命の作戦を木曜日に実行した。


 第1段階は、彼女のサインをもらうことと、優穂と雪菜の2人に会わせること。優穂に突っ込まれたのも想定内。あたしを非難し、和姫君をかばったことで、敵の敵は味方、の形をつくり、優穂と雪菜、そして和姫君の間に関係を作ることに成功した。さすがに、あの短時間でその関係が“お友達”にまでランクアップするとは思ってはいなかった。優穂だからこそなせる技かな。さすがは、あたしの惚れた女だ。


 第2段階は、一応、あたしの名誉回復が目的だった。自分の悪い点を認めて素直に謝り、団員を大切にすることを彼女に示した。まあ、どちらかと言えば、優穂への、あたしのせいで頭を下げさせてしまったことの謝罪の気持ちの方が大きかったが。愛する人たちへかけた迷惑は細かいところまで気にし続けてしまう、あたしの悪い癖だ。あ、悪い癖と言えば、和姫君の家におしかける術は『相〇』から学んだ。「これ、お忘れですよ」「あなたの落とし物ではありませんか」などと言って相手のところへおしかける。どれだけおかしくても、相手が自分のためを思って来たと言っている以上、「うそつけ」「帰れ」などと言って無下に追い返しづらいのだ。さすがは、杉〇右京。計算されたいやらしさ。おかげで、家にあがりこむところまで行きつくことができた。

 

 最終段階は、彼女の説得だ。いろいろ考えてはみたが、彼女がおばあさまのために日本へ来ている以上、おばあさまを味方に引き入れて勧誘するのが一番だという結論に至った。

 作戦では、おばあさまに学校で和姫君が1人でいる姿を見せ、不安にさせることで、「私には団子団のみんながいる」と和姫君に言わせるところまで行くことを考えていたのだが、予想外の抵抗にあい、気づけば優穂がつくった流れに乗っていた。まあ、あたしとしても、あの優しそうなおばあさまに嫌な思いをさせることは本意ではなかった。結局おばあさまは泣かせてしまったけど、その涙の理由が嬉しさからきたもので良かった。優穂がいなかったら、あたしは今の電話でも感謝されていなかったかもしれない。あの子は本当に天使のような娘だな。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 さて、もう桜はほとんど散ったが、あたしの花園にはとても美しい花が新しく咲いた。この先にどんなことが待っているのかはまだわからないが、彼女たちとならきっと退屈はしないだろう。

 

 画面の中ではクライマックス。馬鹿な男達に大切な女性を殺された、花園の守り神のボンバーおばあちゃんが、ミ〇チーに涙目で説得されているシーン。何度見ても感動できる、あたしが好きな話のひとつだ。

 

 「・・・・・ふはは。おや、妙だな。ははは」

 

 ふはは。ふはははははははははははははははは。

 

 感動できる、泣ける話のはずなのに、あたしの口からはとても幸せそうな笑い声しか出てこなかった。


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