表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ふじおこしっ!  作者: 炉氷方奏
14/23

第13話 未来への約束  

 「あ、ホントに来た」

 「・・・・・・・・」

 

 扉を閉める。

 

 「あっあっ!シャルちゃん!ごめんっ!シャルちゃん!」

 

 もちろん立ち去らない。扉を出たすぐ横で待っていると、彼女が私を追って出てきた。

 

 「待って!シャルちゃ―――――――――――っあ」

 

 前につんのめりながら、彼女――――――――優穂は私を見つけて笑顔を向けた。

 

 「こんにちは、よかった、来てくれて」


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 「シャルちゃん・・・・・・・・おばあちゃん―――――――――」

 

 何もできない。写真を見られた。今まで私が学校でどんな生活をしていたかを知られた。きっとこれからは楽しい毎日。でも、おばあちゃんの心の奥には、これまでの私のみじめな姿がずっと残り続けてしまう。固まったままの私に、おばあちゃんは昨日こう告げた。

 

 「おばあちゃん、安心したよぉ。よかったねぇ、シャルちゃん」

 


 優穂の見せた写真には、確かにどれも私が写っていた。けれども、それらに写っていたのはどれも、団子先輩の持っていた写真にはない私の姿だった。


 少し困ったような顔で、でもすごく嬉しそうに自分を囲む多くの生徒と話をしている私。

 バスケのミニゲームでシュートを決め、チームの仲間とハイタッチをしている私。

 木琴で奏でるラインの着信音の生演奏に感動している私。

 お茶とお菓子を貰いながら、他の生徒と演劇のビデオ観賞を楽しんでいる私。

 そして、右腕に優穂、左腕に雪菜、頭の上から何気に首を伸ばしていた団子先輩。できたばかりの友達に囲まれて、笑顔で写る私の写真。

 先輩と同じ、どれも部活の勧誘に囲まれていたころの私の姿なのに、優穂の撮った写真に写る私は、どれも笑顔で、楽しそうで、嬉しそうで、とても幸せそうな顔をしていた。

 

 「おばあちゃん、嬉しいよ。安心したよぉ。信用していないわけじゃなかったけんどもぉねぇ。ひとりじゃないか。寂しい思いをしていないか。泣いていないか。おばあちゃん、心配だったんだよぉ。ごめんねぇ」

 

 おばあちゃんの目には、まだ涙が残っている。けれどもそれが、悲しみからきているのではないことはわかった。だっておばあちゃん、すっごい笑顔。私がこっちに戻ってきたときよりも、私が高校に入学したときよりも、すっごく晴れやかな笑顔。

 

 おばあちゃんも心配だったのだ。ひとりで海外から来た私。誰も知り合いのいない学校への入学。私が1人で暮らすおばあちゃんを心配したように、おばあちゃんも1人でこの街に来た私を心配していた。

 まったく、今まで滅多に会うことができなかったのに、どうして家族ってものは、こんなにも似通ってしまうのだろう。


 「ばかだなぁ・・・・・。大丈夫だって言ってるじゃん。私だってもう高校生なんだから」

 

 流れそうになる涙と、震えそうになる声を抑えて、私は今、おばあちゃんに最後の嘘をつく。でも、私が今おばあちゃんにつくこの嘘は、今までの嘘とは違う。もう過去の1人だったころの私を隠すためのものじゃない。逃げて流して、ごまかすためのものではない。これは誓いだ。もう大丈夫だって、1人じゃないって、この先で私を待っているのは、友達と笑顔と幸せで満たされた学校生活だっていう、必ずそうしてみせるっていう、未来への約束。

 

 「ふははっ!大丈夫。和姫君は学校でも元気ですよ。心配性ですな、おばあさまは」

 

 スマホをポケットにしまい、私の手を離した先輩がおばあちゃんに近寄り、そっとハンカチで涙をふく。

 

 「それに、彼女には私たちがいます。優穂君に雪菜君にこの私、望月団子も、ね」

 

 そして、スマホをしまった方とは逆のポケットから1枚の紙を取り出した。丁寧に折りたたまれた、けれども少ししわくちゃになったそれは――――――――――

 

 「それに彼女は、また新しい自分の居場所を、未来を、切り開こうとしていますよ」

 「なんですかぁ?それは」

 「入部届です。私たちの部活動―――――――といっても、半ばただのお友達グループみたいなものですけれどもね。『団子団』って言います」

 「っ!!!」

 

 取り返したはずの入部届!?どうして!?

 停止していた思考が、遅れを取り戻そうと活発に働きだす。

 瞬時に蘇る記憶。私服に着替え、返してもらった入部届を胸ポケットに入れたまま、ワイシャツを洗濯かごに入れてしまったこと。私と優穂で洗い物をし、雪菜がおばあちゃんと話をしながらお茶を淹れていたとき、手伝いもせず、ゆっくりとトイレに行っていた先輩のこと。1番奥の風呂場とそのすぐ隣にあるトイレのこと。

 あの時!?

 

 「入部届には、ご家族のサインも必要なんです。ほら、和姫君からは既にサインをもらっています」

 「あらホント、シャルちゃんの字ぃ。シャルちゃん、部活はやらないってぇ。隠さなくてもいいのにぃ」

 「いや、ちが、それは―――――――」

 

 おばあちゃんは、嬉しそうに先輩から渡された私の名前の記入済みの入部届を見つめた。出てくる言葉はいじけたような内容だが、声ははずんでいる。そんな姿に何も言えないうちに、おばあちゃんは、すらすらと家族の了承の欄に自分のサインを書いてしまった。

 

 「団子さん、優穂さん、雪菜さん、シャルちゃんと、仲良くしてやってください。この子は、本当に良い子なんです。よろしくお願いします」

 「おばあちゃん・・・・・・・」

 

 サインを書き終えた入部届を先輩に返しながら、おばあちゃんは、団子先輩、優穂、雪菜の顔をそれぞれ見て、そう言い頭を下げた。3人とも慌てて頭を下げて、こちらこそ、と返す。なんとなく雰囲気で、私も3人に頭を下げてしまった。

 

 頭をあげ、お互いの顔を再び見た時、こみ上げてくる笑いをこらえることができるものは、その場にはいなかった。はめられたはずの、私も含めて、ね。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 「ごめんね。シャルちゃん、いろんなところに声かけられていたし、入ってくれたのが信じられなくて」

 「そう?昨日、また明日ねって手を振ってくれた子は気のせいだったのかしら」

 「気のせいじゃないよ?来てくれるって思ってたよ?嬉しい!」

 

 そういって優穂に抱きつかれる。彼女は小柄だから、自然と体が少し前かがみになる。強いわね。というか首いってない?首。まあ、団子先輩と違って優穂は素なのだろうけど。

 

 「ほら、ここ廊下よ。中に入れてもらえるかしら?」

 「あ、うん、ごめんね。雪菜ちゃんももちこちゃんももう来ているよ」

 

 少し照れくさそうにして離れる。本当に、たった1日の仲なのに、十年来の親友のよう、なんて感じてしまうのは図々しいのかしらね。優穂にはそんな、人を惹きつける何かが感じられる。

 


 4月も下旬。窓からは少しだけまだ残っている桜が見える。あの木がまた満開になるとき、私はどんな生活を過ごしているんだろう。つい先日までは不安だった。でも今私の顔には笑みしか浮かばない。


 部室の中から雪菜と団子先輩の声が聞こえる。私の顔に浮かぶ笑みを見て、優穂も笑顔になった。

 

 「シャルちゃん。団子団へようこそ!」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ