第11話 最後の一つにご用心
「やあ、ミス近藤。グーテ ナハト」
「・・・・・。グーテン アーベント、先輩。ここでは寝ないでくださいね」
訪ねてきたのは集金人ではなく、団子団の面々だった。団子先輩の後ろには、すまなそうな顔をした優穂と雪菜の姿がある。優穂は何故か胸にテディベアを抱えていた。
「今日来た時、この子を置き去りにしていっただろう?可哀想じゃないか。寂しそうに部室で泣いていたぞ」
先輩が優穂から人形を受け取り、私の前にかざす。シ〇タイフ。高級ブランドのものだ。
「・・・・・何の御用ですか?」
「どうした?放課後に比べて随分ととげとげしいじゃないか。わざわざ先輩が忘れ物を届けに来てやったのだぞ?感謝したまえ」
「私のじゃありません。こんな大きな人形、学校に持っていくわけがないでしょう」
「だよねー。ごめんね。もちこちゃんが、絶対シャルちゃんのだっていうから・・・・・。ほら、やっぱり違ったじゃん。迷惑だよ。帰ろ、もちこちゃん」
「いきなり押しかけてしまってごめんなさい。帰りましょう。団子さん」
「そうか。和姫君のものでもないとなると、あとはリョウかこまちゃんか。いや、勘違いだ。突然すまなかったな」
そうそうに引き下がる団子団。止めはしない。何がしたかったのだろう。というか、電話番号のこともそうだったけれども、どうして私の家の住所を知っているのかしら。引き止めかける質問の言葉を口に含んで飲み込む。
「あっ、すまない。最後に、もう一つだけ」
「はあ、何かしら」
「今日はごめんなさい」
「・・・・・ヘフ?」
腰を折り、頭を下げて謝罪の言葉を述べた先輩の姿に変な声を出してしまった。
「今日は、いや、今週はごめんなさい。ちょっとなんか、他ではやらないようなインパクトのある勧誘をしようかと思ったんだ。全部あたしが勝手にしたことだ。優穂も雪菜も悪くない。すまなかった」
「もちこちゃん・・・・・」
「団子さん・・・・・」
その姿に彼女の幼馴染の2人も驚いているようだ。目を丸くして団長を見つめる。
「優穂も、あたしのせいで頭を下げさせてすまなかったな。後でまた話そう」
「ううん。もちこちゃんだけに全部任せちゃった私にも責任はあるよ」
「そうです。私も何もお手伝いできませんでしたから。シャルさん。ごめんなさい」
「え、いや、あの・・・・・・・」
優穂も雪菜も団長に続いて頭を下げる。謝罪で頭を下げられるなんて、これが初めてではないだろうか。それも、あったばかりの先輩と、できたばかりの友達2人に。私はそんな驚きからか、許すことも無視することもできずに固まってしまう。
「シャルちゃん?お友達、帰っちゃったの?」
「あ、や、おばあちゃん。ちょっと、あの、もういいですから。気にしてませんから、あなたたち、頭をあげて」
おばあちゃんが近づいてくる声でやっと我に返った私は、急いで3人に頭をあげさせた。
「さっきも言ったけれど、確認しなかった私にも非はあるから、ね。この件はもう終わりにしましょう?」
私の言葉でようやく頭をあげた3人の顔には、安堵の笑みがあった。
「あら、みなさん。そんなところに立ってないで、あがったら?」
奥から顔を出したおばあちゃんが笑顔でそう告げる。危なかった。謝罪の場面は見られてはいないみたい。
「おばあちゃん。違うの。今日はそういうのじゃなくて――――――――――」
孫の友達が遊びに来たとでも勘違いしているのだろう。おばあちゃんに、彼女たちの目的をどう説明しようか迷っていると、
「お邪魔します!いやあ、海外育ちは気が利かなくて困る!まったく、いつまで立たせるんだ。あ、おばあさま、なんか甘いものとかあります?あと、お手洗いお借りしてもいいですか?」
「・・・・・・・は?」
さっきまでの神妙な面持ちはどこへやら。あの怪しい光を目に宿した団子先輩が、ずかずかとあがってリビングへ向かおうとする。まくしたてて反論を許さない。先輩にかける言葉に詰まっていると、私に代わって、先輩の幼馴染の1人が怒った。
「もちこちゃん!ここは日本!靴は脱がないと!」
「そっちじゃないでしょ!いや、それもそうだけど!」