第10話 洗濯物失敗あるある(未遂)
「ただいまー!」
「あ、お帰りぃ、シャルちゃん」
家に帰ると、ちょうど奥のトイレから出てきたおばあちゃんが、迎えてくれた。
「ただいま。何か手伝うことはある?」
「そうねぇ。今、夕飯の支度をしてるけんども、もうすぐできるから。テレビでもみて待っててぇ」
「そう?お風呂はもう洗ってある?」
「あぁごめんねぇ、まだ洗ってないの。先お風呂入る?すぐ洗うからぁ」
「あはは、まだお風呂には早いわよ。洗ってないなら私が洗うから。おばあちゃんは夕飯をお願い」
「そうかい?ごめんねぇ。いつもありがとぉ。いい子だねぇシャルちゃんはぁ」
「はいはい、いい子ですよ。どういたしまして」
2階の自分の部屋にカバンを置き、動きやすい私服に着替えて、1階のおばあちゃんが出てきたトイレのすぐ横にある一番奥の扉、風呂場へ向かう。まとめて洗うため、ワイシャツやタオルを洗濯かごに突っ込んで風呂場に入った。この家のお風呂はそこそこ大きい。おばあちゃんが洗うのには、少し大変なのだ。
「そろそろスポンジ、換えた方がいいかしら」
そんなことを考えながら、洗う前にシャワーで軽く湯舟を濯いだ。
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「シャルちゃん。お風呂ありがとねぇ、冷たくなかった?」
「大丈夫だよ。いただきます」
お風呂を洗った後、テレビをみながら少し待っていると、すぐに夕飯となった。今日の夕飯は、ご飯に納豆に味噌汁、そして、焼き魚に煮物。ザ・和食といった献立だ。
おばあちゃんの作る料理は、ほとんどが和食である。ベルリンにいたころは、肉料理を食べることの方が多かったが、日本に来てからは、魚料理を食べることの方が圧倒的に多くなった。和食は簡単なようで、意外と難しい。おばあちゃんが作ったものを食べた後に、自分が作ったものを食べるとよくわかる。醤油だとかみりんだとかの分量が、ホントに大事になってくるのだ。今はまだ、修行中の身であります。
「シャルちゃん、今日は学校どうだった?お友達はもうできた?」
高校がはじまってからというもの、おばあちゃんはいつも、二言目にはそれを聞く。私を心配してくれる。私が違うといっても、おばあちゃんは思ってしまうのだ。自分が頼りないばかりに、孫は友達のいない国の学校へ行くことになってしまった、と。自分が孫に迷惑をかけてしまっているんじゃないか、と。そんなことはない。これは私がしたいからしていることであり、おばあちゃんに非はない。むしろ、私がおばあちゃんに迷惑をかけていないか心配になってくるくらいだ。
今日は学校どうだった?お友達はできた?
先週までの私は、楽しかったよ、大丈夫だよ、そんな言葉で流していた。変に嘘をついて、掘り下げられたり、ボロが出たりすると困るから。
でも、今日は大丈夫。
「うん。今日も楽しかったよ。放課後、友達と少しお茶してきた。優穂ちゃんと雪菜ちゃんっていう同級生の子と団子さんって1つ上の先輩」
「そうなの、良かったねぇ。その子たちは、クラスの子?それとも部活の子?」
「どっちも違うかな。クラスは違うし、部活も誘われたけど、断っちゃった。でも、友達になろって。そういう優しい友達だよ」
「そう、いい友達ができて良かったねぇ」
そういっておばあちゃんは笑った。やっと安心できたみたい。団子団には感謝だ。
「でも部活、断っちゃったの?シャルちゃん、まだどこにも部活入ってなかったでしょ?」
「・・・・・・」
と、思っていると早速掘り下げられて、ボロが出た。まずいわね。どうしようかしら。
「まあ、むこうの学校でも部活はやってなかったから。こっちの学校でも一緒。別に帰宅部の子も普通にいるし、やりたいことも特にないし」
「・・・・・そうなの?シャルちゃん漫画大好きだったでしょ。漫画の部活とかないの?」
「あったけど・・・・・。私が好きなのとは違うタイプだったから。いろいろと種類があるんだよ。種類が」
私は、読むのは好きだが書くことに興味はない。消費型なのだ。ちなみに、おばあちゃんの言う漫画は、一般的に言う漫画だけではなく、アニメやラノベやフィギュアなども指す。おばあちゃんにとって、それらはイコールなのだ。
「うちの手伝いなんかやってないで、部活やったら?おばあちゃん、そうしてくれると嬉しいよぉ」
「はーい。考えておくわ」
「心配だよぉ。シャルちゃんいい子だから、おばあちゃんの相手ばっかりしてくれてぇ。お友達と遊んできていいんだかんねぇ」
「おばあちゃんも、そんな気を使わなくていいんだからね。私も高校生だし、ちゃんと考えて行動してるから」
参ったわね、この話の流れ。部活、一応考えておこうかしら。
今日出会った、団子団のみんなの顔が思い浮かぶ。活動内容も活動予定もない部活。名前を貸すだけでも・・・・・いや、団子先輩はともかく、そんなことをするのは、優穂や雪菜に失礼だ。
『ピンポーン』
そんなことを考えていると、玄関のチャイムが鳴った。
「ん?お客さんかしら?」
「ああ、今日カ〇ダスのお金集めに来る日だったねぇ、お財布お財布」
おばあちゃんが、自分のカバンにお財布をとりに行く。ほっ、と一息ついて、私は食べ終わった食器を集めた。
「これ、もう片付けちゃって大丈夫?」
「ああ、いんよいんよ。おばあちゃん戻ったらやっておくから」
『ピンポーン、ピンポーン』
「ほら、カ〇ダスの人待ってるよ。運べる分だけやっておくから」
「ありがとうねぇ。いい子だねぇ、シャルちゃんはぁ」
焼き魚の食べかすをひとつの皿にまとめて捨て、食べ終わった残りの食器をまとめて台所へもっていく。しまった、納豆の皿の上に重ねちゃった。手間が増えた。
「シャルちゃん」
「ん?ああ、終わった?こっちは私がやっておくから、おばあちゃんはテレビでも―――――――――」
「お友達」
振り返ると、おばあちゃんが、満面の笑みでそう言った。