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蝕・イクリプス  作者: 観月
Reunion
49/59

憧れの君・3

「へー。中学にはいなかったな」

「うん。新しい友達だね。大神って……もしかして……あの大神?」

「え? 涼、知り合い?」


 涼はガクッと肩を落とした。

 大神といえば妖の中でもかなり格の高い一族ではないか。特に関東より東ではその力が強い。


「多分、この学園の理事にも、大神一族の長が入っていたはずだよ」

「へえええー! そうなんだ」


 響は机についていた肘を上げると、机自体は他の生徒のものと何も変わらないというのに、感心したように眺め回した。


「……別に、その机の格が高いわけじゃないんだけど……」


 しょうがないやつだなあ。と小さくため息を付いて、涼はクラスを見回した。

 ほとんど見知った顔の中に、緊張した面持ちの見たことのない顔がいくつか見える。多分今年から学園に入学することになった生徒たちだ。

 と、ちょうど教室の後方の入口から、生徒が一人、教室の中に入ってきた。何気なく涼はその生徒の顔を確認する。

 

 ひゅ!


 息を呑んだ涼の視線が、今入ってきたばかりの少年の上で固まってしまう。

 

 ――かかかかかか! かっこいいいい!


 涼の、美しい顔好きセンサーど真ん中に引っかかるような、綺麗な顔立ちの男子だった。昨年度まではこんな美形の男子生徒は学園にいなかったので、今年から入学してくる生徒ということで、間違いない。

 こんな綺麗な男子生徒がいたら、絶対チェックしているはずだ。

 

「外……人?」


 つぶやきが思わず漏れた。

 堀の深い顔立ち。光に透けそうな茶色い髪の毛は、ふわっと優しい癖がある。触ってみたらきっとサラサラとして気持ちがいいに違いない。瞳の色も薄い。とてもバタ臭い顔立ちなのに、眉はキリッしていて、精悍な雰囲気を彼に与えている。そのせいだろうか、意外と学生服が似合っている。

 あんまり夢中になって彼の顔を見上げていたものだから、すぐ目の前に彼がやってきているのにすら、涼は気が付かないでいた。


 涼と響の前までやってきた男子生徒は、眉をハの字にして、困ったような表情をしている。


「あ、もしかしてこの席か!」


 響はそう言うと、弾かれたように立ち上がった。


「ああ……。どうやらそこが自分の席らしいと思って……いや、すまない」


 涼は、お互いに恐縮して謝り合う響と男子学生をぼんやりと見上げていた。

 男子学生はチラリと涼へと視線を向け、机の上に真新しいスクールバックを置くと、片手で自分の口元を覆った。


「ええっと……なんというか……僕の顔に、なにか付いてるかな……?」


 困ったように、口元をおおった手を何度か往復させ、顔になにかついていないか確かめているような動作をする。


「あーっ、違うよ。気にしないでやって!」


 ぼうっとしてしまった涼の代わりに響きが答えていた。


「なんつーか、こいつ。多分あんたに見とれてんの」


 二人の会話は、耳に入ってくるのだが、意味を理解するための脳みそが、開店休業状態だ。


「悪いやつじゃないんだけど、ちょっと、何ていうか、きれいな顔したやつが好きなんだって」


 響の説明に、目の前の美男子学生が僅かに頬を赤くした。


「きれ……い?」


 面食らったようにぱちぱちと瞬きをする。

 

 うわあ!


 涼はいま、感激に打ち震えていた。

 べっこうあめみたいにとろりと甘い瞳! それを取り巻く茶色の長いまつげ。


「ああ……こいつのことはいいから……おれ、長野響」


 そういって響が手を差し出す。


「ああ、僕は大神秀一だ。よろしくな」


 秀一は差し出された響の手をしっかりと握り、絵に描いたようなスマイルを浮かべた。


「俺っ! 俺俺っ!」


 出遅れてはならない。涼が慌てて二人の手の上に自分の手を重ねる。


「オレオレ詐欺か」


 ボソリと響が呟き、大神秀一がぶっと小さく吹き出した。だが、秀一の顔面に夢中になっている涼には二人の会話など届いていない。


「俺っ! 一ノ瀬涼!」

「ああ……」


 大神秀一の視線が、改めて涼へと向けられる。

 

「なあ、秀一。君、外人なのか!?」


 聞いた途端にスパーン! と、涼の後頭部が景気のいい音をたてた。


「いでな! 響! なにすんだあ! 本気で殴ったな!」


 殴られたところをさすりながら響を見上げるが、あまりの痛さに涙までうかんできそうだった。あまりのびっくりしたものだから、思わずなまってしまった。


「あほ! 失礼な質問だろが!」

「……え? なんで?」


 涼と響のやり取りを聞いていた秀一がうつむいて肩を揺らしている。

 どうやら笑いをこらえているらしい。

 堪えているつもりなのだろうが、ぶぶ……という堪えきれない破裂音が聞こえている。


「いや、別に構わないんだけど……」


 笑いの発作がようやくおさまってきたらしい秀一がコホンコホンと咳払いをしながら言った。


「僕は、ハーフだよ。生んでくれた母親が、フランス人なんだ」


 涼は、いたく感動してしまった。

 何しろ涼は、日本の中でも、岩手とこの九十九学園くらいしか知らないのだ。それ以外の場所になど行ったことがないのである。


「スゲー……」


 と呟いたものの、心の中でフランスって、どこだっけ? と、首をひねっていた。

 外国になんて少しも興味を持っていなかったが、今日寮に帰ったら地図帳を開いて確認しよう! と、固く決意したのだった。

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