泡にならなかったキミ
彼女は泣いていた。
人魚姫はなぜ、泡になって消えてしまう
そんな悲しい終わり方しかないのかと。
「だから私は人魚姫に幸せになって欲しかったの。」
彼女の手には破かれた絵本。
千切られたページには、何が書いてあるのかも
分かりかねるような、拙い絵で綴られた、新しい物語。
彼女の手によって生まれ変わったそれは、
王子に気持ちが通じ、泡になることなく
城で暮らす、幸せな"人魚姫"だった。
「とても素敵だと思うよ。」
彼女は頬を染め、微笑んだ。
僕には見つめることができなかった。
次の日、彼女はいなくなった。
彼女がいた水辺には、
破かれたページがあるだけ。
彼女の絵本の中の人魚姫は、
お城で王子と幸せになれたのに。
泡になれなかったキミは、
城の水槽で孤独を生きる。
これは最高のバッドエンドだ。