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color's  作者: 佐藤海空陸
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color's 第3話

第3話 急接近


しかし、それもつかの間のことだったのであった。それは次の日のことだった。

 朝、学校に行って自分の席につき、誰にも話しかけられないまま時間が過ぎていくところまでは今までと何も変わったところはなかった。…こんなのが普通なんてなんて悲しい子なのでしょう。


 しかし、4限目が終わり昼休みになった時、それは突然訪れたのだ。

 いつも通りぼっち飯を楽しもうと自分で作った弁当を自分の席で開いた時、


「あ、西野くん!一緒に食べよ!」


 なんだろう、妄想と現実の区別がつかなくなったのかな、変な幻聴が聞こえるよ。はぁ、とうとう俺の中二病も末期症状だな。

 そう思ってると


「おーい、西野くーん?」


 おいおい次は肩に手で触られたような感触があったぞ?あ、あれ、おかしいな。こんなことあるはずない。そう、ないんだ。何を期待している西野駿太!ダマされるな!俺は強い子、俺は強い子、現実逃避をしちゃダメだ!

 するとまた、


「おーい、にーしーのーくーん?」


 また肩を叩かれた。これ、現実じゃね?うん現実だよね。振り返っていいよね?行くよ、振り向くよ、もう振り向いちゃうんだからね!


 そうして俺はゆっくりと振り返ろうとした。しかし振り返れなかった。あれなんでだ?そして俺はあることに気づいた。さっきまで肩にあった手の感触が消え、1本の鋭い棒のような感触が頬にある。きっとこの棒が振り返れない原因なのだろう。さらに、その棒の影響で後ろには振り返れなかったが、真横は見れた。すると今まで目も合わせてこなかったクラスメイトが、俺に注目している。


俺、何かしたかな?

 そんなことを考えてると俺の振り向きを妨げていた棒が俺の頬から離れる。ここぞとばかりに素早く後ろを向くと、美少女が人差し指を俺の顔に突きつけながらイタズラな笑顔で俺を見ていた。


「えへへ、引っかかったー!」


 俺は思考が停止した。その場に鏡があったならきっと自分の顔は口が開いたまま目が点になっているに違いない。


「あ、あれー?西野くん大丈夫?」


「...」


「お、おーい」


「あ、ごめん、俺今夢見てたみたい」


「え?夢?」


「うん。女の人に肩を叩かれて、振り返ろうとしたら人差し指で頬を突き刺される夢」


「いやいや、それ現実。今私が西野くんにやったんだよ」


「…まじか」


「…マジです」


 お気づきかもしれないが、美少女でありながら俺にそんなことをやってきてくれる心優しいクラスメイトは1人しかいない。川井結衣だ。


 けど、あれ?俺川井さんとそんなに仲良かったっけ?いや、そこまで仲良くないよな。てかまだ1、2回しか喋ってないよな。え?え?

 そんな感じで俺が混乱していると


「あっはっは!西野くん面白すぎ、お腹痛い!」


 ...すごい勢いで笑っている。


「夢って。ちょ、ふふっ」


「あ、えっと、で、何か用?」


「あ、うん。一緒にお昼どう?」


 右手で自分の弁当箱を持ち上げ、左手でお腹を抑えながらニコッとした顔で言ってきた。

 俺は戸惑いながら


「あ、えっと、あの...」


「もしかして誰かと食べるの嫌とか?」


「あ、いや、その...」


 決して嫌ではない、というか食べたい。それも川井さんと食べれるとか夢みたい。はやく「うん」と言え、俺!今すぐ!こんなチャンスは二度とないぞ!


「う、う、」


「う?」

 そして俺は思いっきり立ち上がりながら言った。



「うんこ!」



 その瞬間、教室、いや世界全体が凍えた空気に変わったのは言うまでもないだろう。

 川井さんは口をへの字にしたまま固まっている。目線をそらして見ても周りの人みんなが冷たい目で俺を見ている。この冷たい目は、川井さんと話している俺に対する嫉妬の目ではなく、俺のさっきの失言に対する軽蔑の目である。


 俺はその空気に耐えかねて、ダッシュで教室を出た。おそらくその光景を見た人はこう思っただろう。どれだけ我慢していたのだろう、と。


 教室を飛び出した俺が向かった先は


 ーートイレの個室だった。


 い、いや、本当にしてるわけじゃないよ?ていうかしてないし!

 ただ俺は、誰にも見られない場所でひたすらにさっきのことを後悔して反省したかったのだ。

 食事中に、あんな下品な言葉絶対ダメだろ。それも川井さんの目の前で…。

 きっと今頃、教室内で〝うんこ駆け込み乗車〟的なあだ名をつけられて笑われてるんじゃ…。

 いや、もしかしたら〝快速西野運行しております〟とかいうイラストを黒板に書かれてるかも…。


 あー、終わった。俺の学校生活オワタ。

 そう考えてると、またしてもあの黒いもやが襲いかかってきた。しかし俺はあることに気づいた。

 いや、待てよ?確か俺の川井さん以外のクラスメイトは俺の存在なんて忘れてるんだよな。それってつまり既に俺の高校生活終了してるのでは…?


 そうだ!終了してるに決まっている!


 なんだ、簡単な事じゃないか!もう既に終わっているんだから気負う必要なんてないじゃないか!

 一瞬、視界がぴかっと光ってまるで天国にでも行ったかのような快楽が俺を包み込んだかのように思えた。けど、それはほんとに一瞬のこと。

 そうだ!もう、既に…終了…して…る……。

 あ、あれ?何故だろう、涙が出てきたな。

 俺は開き直ったつもりがただ自分の傷を広げていただけみたいだな、うん。全く、なんて悲しいヤツなんだ、俺は。光が闇に飲み込まれた瞬間だった。


 このままでは俺はダークサイドに引き込まれてしまうかもしれない!何か免れる方法を探さねば!けどそんなのすぐに見つかるはずが、はずが…あった。


「よし、決めた」


 俺は便座から立ち上がる。あ、俺はアレがしたかった訳じゃないからズボンを脱いでないので下半身がスッポンポンであることはないのでご安心を。


 俺はトイレの個室から出て、周りに誰もいないことを確認してから今入っていた個室に向かって、俺はこう言った。


「これから3年間、毎日弁当持って来ると思うからよろしくな、相棒」


 俺はこの時、3年間この個室と共に昼飯をとることを誓った。ぼっち最高!いっその事ダークサイドに引き込まれてやる!さらば、青春!さらば、楽しい学校生活!


 しかしこの誓いは、すぐに破られることになった。ごめんね、相棒。


 俺は「何があっても開き直ってやる!」と決心して教室に戻った。

しかし、俺が予想していた教室の光景とは全く違うものだった。


「あ、西野くん戻ってきた!トイレ間に合った?」


 そうやって俺に話しかけてくれるのはやっぱり川井さんである。しかし、予想外の光景、というよりもおかしな事になっていた。それは川井さんその他大勢の女性軍(と言っても5人)の座っている場所である。


「あ、あの、なんで俺の席囲んでるの?」


 そう、なぜか女性軍が俺の席の周りに椅子を置いて、そこに腰掛けているのだ。


「あ、えーっと…」


 そう言って俺から目線をそらす。なので俺はそらした方を向いていると、


「あ」


 なんと俺の弁当箱が空っぽだった。


 え?え?なんで?俺一口も食べてないはず。なんでないの?


「いや、これは違うの」


 川井さんが慌てて言う。それを見て俺はあることに気づいた。もしそうなら、なぜ俺の席を囲うように椅子を座っているのかも合点がいく。


「...落とした?」


 俺の弁当をひっくり返してしまったから、俺の席の周りに椅子を置いて落ちたものを隠そうとしているのだろう、と思った。


「落としてないよ!絶対に!」


 川井さんの焦り方的に絶対そうだと思っていた。しかし、


「本当に落としてないんだけど?」


 女性軍の1人がそう言った。その人物は、昨日俺が川井さんとぶつかった時に陰キャ野郎と言ってきた奴ーー大谷沙弥だった。


「てかさ、唯一アンタに話しかけてくれるの結衣の事信じないとか、ただのクソ野郎じゃん。結衣に謝れ」


「え、あ、はい!ごめんなさい川井さん!」


 ...言われるがままに謝ってしまった。


「え?あ、うん!いえいえ…って!沙弥!西野くん何も悪くないじゃん!」


「結衣を疑うとか、それだけで罪だし」


「…全く、沙弥、西野くんに謝りなさい!」


「え!?なんで私が!?」


「悪いのは私たちでしょ!」


 何やら喧嘩?が始まってしまった。けど俺はそんなことをしてほしい事わけじゃない。


「あのー、別に謝らなくていいから俺の弁当の中身どこ行ったの?」


 1番聞きたいこと、やっと聞けた。


「あー、えーっと、そのぉ…」


 川井さんが申し訳なさそうな顔で目をそらした時


「食った」


 俺、川井さん、その他の女性軍の目線が一点に集中する。俺は口をへの字にして固まる。川井さんとその他は今にも何か言いたげた顔をして大谷さんを見ている。


「ん?どうかしたの?」


「ちょ、ちょっと!何さらっと言ってんのよ!」


「みんなで言おうって言ったじゃん!」


「だってみんな言おうとしないし、こいつが知りたそうにしてたし、今言わないでいつ言うの」


「確かにそうだけど…」


 大谷さんと川井さん以外の女性軍が揉め始めた。あー、女子ってすごく小さい約束破っただけでめっちゃ揉めるのとかよく見るわ。でもあれ何であんなに揉めるんだろ。うーん…

 あはは!ボク、ぼっちクソ野郎だから女の子のことわからないや!

 もめているのを見ながらそう思っていると、川井さんが、


「食べちゃってごめんね!あと、すぐに謝れなくてごめん。最初に食べたのは私なの!西野くん、弁当箱開けたまま廊下でていったじゃん?なんかすごく美味しそうで、一口だけもらおうと思ったらこれがビックリ!すごく美味しくてみんなを呼んじゃったの。あまりの美味しさで気づいたら弁当全部食べちゃってたの!ほんとごめん!」


 そう言って川井さんは頭を下げた。それを見た女性軍も頭を下げて各々ごめんと謝罪してきた。大谷さんもそっぽを向きながらだけどごめんと呟いたように聞こえた。


 ...あれ待てよ?これ傍から見たら俺が女の子達に頭下げさせてるようにしか見えなくない?やばい、この状況はやばい!そう思った俺は


「いやいや、全然大丈夫だよ!俺今日ご飯食べれそうになかったし、美味しくいただいてくれたならそれだけで良かったよ!」


 そう笑いながら言った。ただ、本心を言うとめちゃくちゃお腹空いた…。


「え、でも…」


「ほら、俺今トイレ行くくらいお腹痛くなってたし!捨てるより食べてもらった方が食材も嬉しいよ!」


 そう言うと、さっきまで頭を下げていたみんなが頭を上げ始めた。川井さんは終始申し訳なさそうな顔をしている。けど、それ以外は「だよねー」とか「てか私らいいことしたんじゃね?」とか言いながら笑っている。こういう姿を見ると、やはり川井さんは他の人とは一味違うなとか感じる。


 あ、もしかしたら、昨日川井さん〝他人の色が見える〟って言ってたし、俺のお腹減った色でも見えてるのかな。そんなふうに思っていた。


 女性軍が笑いながら話し始めると、弁当勝手に食べられ事件によって少しピリついていた教室に和やかさが戻った。すると大谷さんが


「てかさ、あんたの親すごいね。こんな美味しいの弁当で毎日食べれるとか、あんた超幸せ者じゃん。その弁当みんなに配ればぼっちクソ野郎引退できるんじゃない?」


「そうかもねー...って、え?」


 今親って言った?


「なによ」


「この弁当作ったの俺だよ」


 .........沈黙が続いた後に



「「「「えーーーーーー!」」」」「おぇーー!」



 川井さんと女性軍がとても驚いた。そんなに変かな?


「え、えっと、あの卵焼きは?」


「もちろん俺が」


「唐揚げは?」


「俺が」


「きんぴらごぼう」


「俺」


「盛り付けも全部?」


「全部俺1人だよ」


 聞いてきた人達は目を丸くして俺を見ていた。そんな見つめないではずかしい///


 しかし、その中で1人、変な悲鳴をあげた奴がいた。その後にいち早く気がついたのは川井さんだった。


「ちょっと、沙弥!どうしたの!」


 見ると川井さんが喉を抑えてうずくまっている!あれ?俺、なんかやばいの入れてたかな?これって俺のせいにーーー


「ぼっちクソ野郎が作ったの食べちゃった!ぼっちがうつる!」


 グサッ!


 あ、あかん。これはあかん。今までにない衝撃が俺のヒビだらけのハートを打ち砕いた。目の前が真っ白になっていく。だんだん耳も遠くなっていく。ん?なにか聞こえる。意識が飛ぶ前に聞いておこう。


「ちょっと!西野くん!?さ〜〜〜や〜〜〜!」


「おぇーってちょ!結衣!暴力はんtぐわっ!」


「西野くん?にしのくーん!!」


 ああ、完全に目の前が真っ白になった。意識飛んだな。なんか不幸多いな、最近。

 今俺が見ている世界はただの白に包まれた空間。何もなくてつまらない。まるで俺みたい。この景色を見て改めて実感する。この世界は無色だ、と。

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