1話 『少年少女の旅立ち』
―――聴こえる・・・
暗闇の中、どこか遠くから誰かの声が木霊する。
最近になって聴こえるようになったその声は日に日に大きくなっているのにまったく聴き取れない。
言葉なのかすら分からないけど、これだけは分かる。
あの声は私を呼んでいる。
―――貴方は誰?
呼びかけても返事はない。いつものことだ。
いつも一方的にこちらに呼びかけてくるだけ・・・だけど、今回は違った。
声はないけど遠くに光が視えた。
まるで天に輝く満月のような黄金の瞳を。
◆ ◇ ◇ ◇
「・・・また、あの夢・・・」
休日の晴れた朝、自室で夢から覚めた白銀の髪の少女――神月セーラは眠気で未だ頭がはっきりしないままで服を着替えリビングに向かう。
神月セーラは混血、所謂ハーフである。白銀の髪と藍色の瞳は生まれつきのもので北国出身の母からの遺伝である。ちなみに血を引いていると言っても育ちは殆ど日本で、母もこちらに住んでいる間は母国語ではなく日本語で接していたので、外国語は話せない。外国語を話してと振られても適当にあしらってきた。
「そういえば今日からだったかしら・・・」
セーラが部屋から出てくると家の中は静寂に満ちていた。
この日、セーラ以外の家族は朝から予定があり、母は急用で海外に出向き、妹は友だちの家に泊まりがけの勉強会と言っていた。時計を見るともう11時を回っているので皆、出かけたようだった。
セーラに声をかけなかったのは、例の夢を見た日は必ず起きるのが遅く、揺すっても起きないらしく、それを知った上で声をかけなかったのだろう。この夢を見るのは決まって休日の為、まだ学業に支障が出たことはない。
「それにしても・・・あの夢に何か意味はあるの・・・?」
淹れたインスタントコーヒーを飲みながら、今日見た夢のことを考える。
いつもは何もなく一方的だったものが、今日に限って変化があった。あの黄金の瞳・・・あの全てを見透かされているようなあの眼が忘れられない。
いつもは深く考えようともしなかったけど、さすがに考えてしまう。
まぁ、夢に何か意味を求めてもしょうがないのかもしれないけど。
―――――――――!!
―――っ!
突然、耳に高い音が響き、歪むような妙な感覚に囚われる。その正体を探ろうと周囲を見渡していた時、あるものに気付いた。空には雲ではない薄くて白い輪が浮かび上がっていた。
その輪はすぐに消え、先程の音ももう止んでいたが、何かを感じたセーラは正体を探しに出かけた。
◇ ◆ ◇ ◇
セーラが白い輪の正体を探りに出かけた頃、別の場所では近所の子どもたちと遊んでいた青年が妙な感覚に気付いていた。
「兄ちゃん、どうしたの?」「ボール取っていい?」「今いい流れなのに」
「・・・なぁお前ら、今、なにか感じなかったか?」
「何も感じなかったけど」
青年は子どもたちに確認するが何もなく、体調になんの変化もないところを見ると何も感じなかったようだ。だが、気になった青年は子どもたちに別れを告げてその場を立ち去る。
さっきの感覚はなんだ、弱かったとはいえ今迄感じたことのない感覚だった。まるで空間に穴が開けられたような不思議な感覚。何かが起ころうとしているのだろうか?でもそんな漫画みたいなことがあり得るのか?というかなんで俺は感じ取れたんだ?
そんなことを考えながら走っていた青年は不思議とある場所に辿り着いていた。
そこは人気のない廃材置き場だった。
「こんなとこになにかあるわけねえか」
そう言いながら探してみる青年は廃材置き場の奥の廃材の陰に"あるもの"を見つけた。それを見た瞬間、おそらくこれが原因なのだろうと青年は察した。それはこの世のものではないと分かるほど不思議なものだった。
◆ ◇ ◇ ◇
白い輪の正体を探るセーラは街中を歩きながら一つのことに気が付いた。
街の人々が先程のことをまったく気にしていない。そこまで気にするようなことではないのかもしれないが、誰一人そのことに触れないのは何か妙だ。まるで初めから何も起こっていなかったかのように。
私しか感じてない?それともやっぱり私の気のせいなの?
「―――――」
「また・・・聞こえた」
あれこれ考えているとまた何かの音が響く。先程とは違う、今度は何かの声のようなものを。
その音を頼りに歩みを進める。歩道を離れ、路地を通り、少しずつ人気の少ない場所へ
すると、街外れの古びた神社に辿り着く。
その神社からは弱いとはいえ初めに感じた歪むような気配を感じる。
―― ―――――。
その前に立った瞬間、さっきまでの気配とは別の、見られているような感覚がした。
この感じを私は知っている・・・この感じはまるで・・・。
セーラは呼ばれているような気がしてその神社に足を踏み入れる。
◇ ◇ ◆ ◇
「あそこか・・・」
そしてまたある場所では、黒に身を包んだ少女が建築現場の鉄骨の上から一点を見つめていた。
少女は街中を彷徨っていたところに妙な気配を察して、同世代と比べて高めの身体能力を活かして高い所に上って周囲を見晴らしていた。そしてその視線の先には古びた神社があった。
少女は鉄骨から飛び降り、所持していたワイヤーを絡めて落下の衝撃を和らげて着地、目的地の方角に駆けて行く。
時折、高い位置から方角を確認しながら向かっていると、目的の場所に入っていく人影を認識した。
見えたのは、この辺りじゃ珍しい白い髪の人。その人物がこの件に関わっているのかは分からないが、どちらにしろ会えば分かると判断して駆けた。
そうして目的地の古びた神社に着いて早々、鳥居の陰から中の様子を伺う。
だが、入り口から見えた範囲ではおかしなところはなく、それどころか先程入って行った人物がどこにも見当たらない。
少女は隠し持っていたナイフを取り出し、警戒しながら境内に入っていく
特にこれと言って問題はない・・・ん?
進んでいくと入口からの死角、敷地の右奥の辺りに先程見かけた白い長い髪の女性を見つけた。
身長は自分よりも高く、纏う雰囲気や日本人離れした外見からは分かりづらいけどおそらく高校生ぐらい。
きょろきょろしているところを見ると観光とはなにか違う。なにかを探しているようにも見える。
自分と同じ目的なのだろうか問い詰めようかと思い、確かめるためにも、言語が通じるか分からないが言い放った。
「止まれ、貴女は何者だ?"コレ"は貴女が原因か?」
◆ ◇ ◇ ◇
な、なに、急に!? 女の子!? というか刃物持ってる!?
突然背後から呼び止められただけでも驚きなのになんで刃物持ってるの!?
というかコレ?コレってもしかしてさっきの現象のこと?じゃあこの子も感じ取って正体を探りに来たってことなの?
「"コレ"って変な音とか感覚のこと?」
「そう、やっぱり貴女が」
「それは違います!私も探しに来たんです。」
そう言うと警戒を解いたのか、少女は手に持っていた刃物を収めた。
やっぱりこの子も同じなんだ。私の気のせいじゃなかったのね。
そうなると例の現象が普通じゃないのだと謎が深まる。
「それで原因は解かったんですか?」
「それを今探してるの。けど何もなさそう・・・」
―― ― ――― ―。
周辺を探しているとまた聴こえた。・・・奥に行けってこと?
そう言っているような気がして、敷地の奥―――神社の裏に向かっていくとそこには"渦"があった。
ドリルかなにかで空間を直接こじ開けたような、人ひとり容易く入れそうなぐらいの大きさの渦。空間の歪み。
この渦が関係していると分かるほどに異様な、不思議な、違和感。
「多分、これが原因よね。・・・どうしようか」
「・・・・・」
ここまで現実離れしたものだと、どう対応すればいいかも見当がつかない。
どうして生まれたのか分からなければ、なにが起こるのかも分からない。
下手に触れるわけにもいかないから、何も出来ない。
そう考えていると変化が起きた。
『―――だ――――こ―――すか―――』
声?それもよくある音声通信みたいな途切れ途切れの声。
聞き間違いではなかったようで後ろでは少女が「だこすか?」と呟きながら首を傾げてる。
声の場所はかなり近く・・・正面の渦から聞こえた気がした。
「・・・さっきの・・・ここ?」
「・・・多分」
「だよね・・・・・あのーすみませーん」
・・・・・・・・
なぜか呼びかけてしまったけど反応あるわけないよね。なにやってるんだろ私。
きっとさっきのも気のせいよね。この渦も天気や湿度などのいくつもの条件が重なって出来てるのよ、きっと。そう自分に言い聞かせ、自己完結しようとしていた時・・・
『この声が聞こえている方々にお願いがあります。』
やっぱり気のせいじゃなかった!?
声の感じは幼い印象を受ける。けど雰囲気はどこか真剣だ。
『助けてほしいのです。あなた方の内に秘める力を貸してはもらえないでしょうか?』
内に秘める・・・力?
力がなんなのかは分からないけど、1つわかったことがある。
この声はどうやら、こことは違う、遠い場所からのSOSのようだった。
◇ ◆ ◇ ◇
「つまりはSOSってことか。まぁいいや、どうすりゃいいんだ?」
『この要請を受けてくれるのならその渦を通るといい。この渦は所謂"ゲート"だから、そのゲートを通ればこちらの世界に来られるよん』
なんか急にノリが軽くなった、というより、人が代わったのか。
それにしても"こちらの世界"って、やっぱり別世界の話だったのか。別に信じたってわけじゃないが、どこだろうと子どもが困ってるんなら大人として助けてやんねぇとな。変に突き放すと変に育ったりするからな。
そんなこんなでゲートという名の渦に向かって歩き出す。
渦に触れた途端、光に包まれた。
◆ ◇ ◇ ◇
「・・・あなたはどうするの?」
「依頼なら受ける」
「変わってるわね」
そういう私も異世界に行こうとしている。
今日に限って例の夢が違ったのも偶然じゃないのかもしれない。前兆だったのかもしれない。
それに、ここに来る前だって・・・
おそらく答えは扉の向こうにある。そう思ったセーラは隣の少女と共に光の渦に触れ、異世界へと飛んだ。
異世界へと旅立つ光の中でまた何かの声が聴こえた気がした。
その声は旅立ちを歓迎しているようにも、どこか悲しんでいるようにも思えた。
◇ ◇ ◇ ◆
「扉か・・・」
3人が異世界へと旅立った少し後、とある場所では消えようとしている光の渦の前に一人の青年が立っていた。その青年は何の躊躇いもなく消えかけのゲートに触れた。その眼からは何らかの意思が感じ取れた。
舞台裏話。
◯「この段階で名前決まってるの2,5人程度らしいわよ」
◇「まじかよ、だから俺たち名前出てないのか。てか,5ってなんだ?」
◯「そこの娘の名前が大体が決まってるけど下の名前が2択で悩んでるとか。あとの人はしっくりこないとかなんとかで全然決まってないらしいわ」
△「先に出てた2人も実はまだ」
◇「なんか見切り発車だな」
△「あと、みんなキャラが定まってない」
◇「あ、それは分かってる」
◯「そろそろ締めるわよ。てなことで、後書きでは気まぐれでこんな裏話をお送りします」
◇「たまに次回予告したりな」
◯「それではまた次回、次のお話で会いましょう」