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冬の女王が塔に立てこもっています

挿絵(By みてみん)


 ここは季節廻る国。

 春になると、山は新緑に染まり、野には色とりどりの花が咲き、爽やかな風と暖かな春の日差しの中を、ひらひらと蝶が舞います。

 夏になれば、陽の光を満面の笑顔に受けるひまわり達の立ち姿や、精いっぱいの声を張りあげる蝉たちの力強さに心ふるわせる。青い海と白い砂浜での楽しい時を享受するも良いでしょう。

 秋には人々が穀物や果実の収穫に勤しみ、美しく染められた山々の紅葉をめでる。澄み渡る夜の空に浮かぶ、月や星たちに想いを馳せるのもおもしろいでしょう。

 そして冬に降り積もる雪は、街も野も山も一面の銀世界へと変えてゆきます。人々は雪上のスポーツに興じ、子供たちは雪合戦や雪だるま作りに笑顔を見せます。若いカップルは、美しいイルミネーションに心を弾ませています。いやいや、イルミネーションは添えもので、心は彼氏彼女で満たされてしまっているのかも知れません。

 ここは四季折々を満喫できる美しい国です。


 今では四季折々を楽しめる、美しい国になりましたが、最初からそうだったわけではありません。大昔には、それぞれの精霊たちが勝手気ままに行動していました。

 大雪の直後に真夏の太陽が雪を解かして洪水を引き起こす。

 春の花に集う蝶たちが、冷たい木枯らしに舞い飛ぶ。

 などなど、季節は入り乱れ、混沌とした世界でした。


 精霊たちは、乱れた世界をととのえる為、季節を四つに分類しました。そして、それぞれを統括する者を任命しました。それが春・夏・秋・冬を司る、四人の女王でした。

 精霊たちは、最も高い山の頂に季節を司る為の宮殿を造りました。宮殿には高くそびえる塔も建てました。

 四人の女王たちは、それぞれの季節ごとに交代で塔に入ります。そして、季節の精霊たちを統括し、美しい季節を作り上げていました。



 今は冬の女王が塔に住んで、冬の季節を司っています。

 季節はもうすぐ春になります。と言うよりも、もう既に春の女王が塔に入る時期を過ぎてしまっているのです。それなのに、冬の女王によって宮殿の門は固い氷で閉ざされたままなのです。塔から望む世界は雪と氷に覆われ、近付こうとする春の気配を打ち払っています。このままでは春の女王が宮殿の塔に入ることが出来ません。


 春が来なければ、植物も芽吹く事が出来ません。春の暖かさに目覚める筈の虫たちも眠ったままです。いずれは食べ物も尽きて、国の民たちは飢えに苦しむ事となるでしょう。美しい春を楽しみに訪れる、観光客たちの期待も裏切ってしまいます。


 困った王様はおふれを出しました。

『冬の女王を春の女王と交代させた者には好きな褒美を取らせよう』

 しかし、冬の女王と春の女王を交代させる名案を持った者はなかなか現れませんでした。



 冬の女王は、四季の女王たちの中でも一番年下の女王でした。今まで王様や他の女王たちの言うことに逆らったことなど、一度もありませんでした。そんな冬の女王の突然の暴挙に王様は激怒しています。

 王様は季節の宮殿の前に、春・夏・秋の女王を呼びました。そして、「この状況を一刻も早く解決しろ! すぐに冬の女王を塔から引きずり出すのだ!」と、女王たちに命じたのです。


 まだ幼さの残る冬の女王は、塔の窓から外の様子をうかがいました。門の前では、顔を怒りで真っ赤に染めた王様がこちらを睨んでいます。冬の女王はあわてて顔を引っ込めました。

 季節の流れを狂わせることが、いけない事だと言う事くらい、冬の女王にもわかっています。自分のしている事がどれだけの人々に迷惑を掛けているかもわかっています。事の重大さに身体の震えが止まりません。

 それでも、もう少し……。もう少しだけこの塔に居続けなくてはならないのです。



 王様の命を受け、春の女王が冬の女王への説得を始めました。

「冬の女王、そろそろ塔を明け渡してくれないかしら。あなたがここに居座っていたら、国内の食べ物も底を尽いてしまいます。困るのは民衆たちなのですよ。さあ、今すぐにこの門を開けなさい」

 冬の女王は答えの代わりに、宮殿の門を更に分厚い氷で閉ざしました。

「な、何をしているのですか! あなただって、もう力はあまり残っていないでしょう? 無理をするとあなたの命にも係わるのですよ! あなたが死んでしまったら来年の冬が来なくなってしまいます。いい加減にしなさい!」

 それでも冬の女王はなにも答えません。


 春の女王は宮殿の門を閉ざしている厚い氷の壁を、春の温かな風で解かそうとしました。

 春の女王は若草色のドレスの裾をひるがえしながら、宮殿の門を閉ざす分厚い氷に温かな春の風を吹きつけました。

 分厚い氷の表面が春の温かな風で解け始めましたが、氷の壁はなかなか解けません。


 イライラした王様の声が響きました。

「そんな悠長な事をしていても仕方が無い! 夏の女王よ。お前の力であの氷を解かしてしまいなさい!」

 王様の命令で、鮮やかなオレンジ色のドレスから小麦色の肌を惜しげも無く露出させた夏の女王が前に進み出ました。


 夏の女王によって、辺り一面が真夏の強い日差しに包まれました。すさまじい熱風が氷の壁に吹きつけます。氷の壁はみるみる解けてゆきます。

 あわてた冬の女王は、残り少ない力を振り絞って吹雪を呼びました。厚い雲が真夏の太陽を覆います。熱風を打ち消す様に冷たい吹雪が吹きつけ、宮殿の門に雪が降り積もります。


 ひと冬を司って来た冬の女王にとって、もう残っている力はほとんどありません。

「もう少し……、もう少しだけ頑張れば、きっと……、きっとあの人が……」

 薄れゆく意識の中でそう呟いた冬の女王は、その場に倒れ込んでしまいました。





お読みいただきありがとうございました。


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