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ロード・オブ・ミーリア(仮)  作者: くらうでぃーれん
第1章 西ガルネンブルク
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2.さいきょーの騎士

――ルチルがガルネンブルクに併合されてから、早数ヶ月。


 ルチルが国権を譲らざるを得なくなった主な理由は、生産力不足であった。

 現状を保てたとて数年、異常気象などの自然災害にでも見舞われてしまえば、すぐにでも食糧不足が発生することになるだろうと予測した元ルチル国女王エルフリーデは、数年前からすでに少しずつ対策を講じていたが、努力及ばず生産を向上させることは叶わなかった。

 そして先月、事態が深刻になる前に、エルフリーデは国と女王という地位を捨て、国民の生活を優先したのだった。


 エルフリーデは事前に国民にその旨を伝えていたが、特に反論する者は現れなかった。それは一重に、エルフリーデの能力と人望ゆえの同意であった。彼女は誰もが認め誰もが敬愛する女王であり、エルフリーデがそうすべきだと思うならそれが最善なのだろうと、国民の大半が納得したのだった。


 ちなみに、ルチルには国王は男でなければならないという決まりはなく、エルフリーデは女性でありながら国のトップを務めていた。エルフリーデの夫、アヒム=リーネルトが国王という地位を持ってはいたものの、控え目な本人の性格と人柄もあり彼が表に出ることは少なく、大抵はエルフリーデの補佐を担っていた。


 国の併合におけるガルネンブルクとの話し合いは、先代からのつながりがあり、友好国である以上に王同士と国民同士の交流も深く、施策の規模のわりにはかなり円滑に進められた。

 ガルネンブルクとしてはそのまま援助を増やしても良かったそうだが、そうするとルチルにばかり贔屓していると見られ、周辺諸国との軋轢が生じかねない。それらの問題を避けるために、ルチルという国の全権をガルネンブルクに委譲し、援助ではなくあくまで自国への供給という形になるようにしたのだった。


 ガルネンブルクとしては自国の領地を広げられるうえ、エルフリーデの治世のおかげでルチルには質の高い国民がそろっていることも分かっている。拒否する理由などあるはずもない。


 そしてエルフリーデの代わりに据えられる新王は、エルフリーデも文句なしに受け入れられるほど秀逸な人物だったため、ルチル側にも交渉というほど譲歩を求めることもなかった。


 そうして「ルチル」という国は歴史上からその名前を消し、新たに「西ガルネンブルク」という名がそこに刻まれた。


 もちろん本当にただ形だけの併合にしてしまえば、やはり周辺諸国からの不満が出る可能性は高い。そこでガルネンブルクがルチルに要求したのは――エルフリーデとクラウスハルト、両名の提供だった。


 非常に優秀な女王でありながら、ルチル国騎士団総団長を務めていたエルフリーデ。同じく副団長のクラウスハルト。この2人は数多の戦場で数々の功績を上げてきた、国内最強、世界的に見てもトップクラスの実力を誇る騎士であった。


 つまりその両名の要求は、強大な軍事力の要求ということである。国の援助の対価としては、十分すぎるものだといえた。


 ――が、クラウスハルトはその要求をあっさりと拒否。自らの目的のため、これ以上の城仕えなどしたくない、と言って。


 完全なる我がままなそれは――しかし結果的に容認されてしまった。


 その理由の1つは、ガルネンブルク側の人間もクラウスハルトの性格をよく理解していたから。彼が大人しく国に仕えるような人間ではないことは誰もが知っていたし、それを認めさせるだけの力が彼にはあった。

 現役時代のクラウも、騎士の身でありながら国にも王にも忠誠など誓うことなく、出兵の命以外でまともに言うことなど聞く男ではなかった。


 もちろん無条件に自由を許したわけではなく、形式上クラウはガルネンブルクの騎士ということにはなっている。

 与えられた役職は、ガルネンブルク騎士団遊撃兵。明確な部隊に所属させないことにより、少々かまたはそれ以上の勝手の言い訳も利くというガルネンブルクの配慮である。


 元々クラウスハルトがルチル騎士団に入団した理由は、強者との戦闘を思う様楽しむことができるから、という一点に尽きた。

 クラウスハルトの性質は戦闘狂と言うに相応しく、恍惚の笑みを浮かべながら戦場を駆け巡る様に、「悪魔」という呼称が定着するのにさして時間はかからなかった。 


 先の演説でも述べていた通り愛国心など持ち合わせない彼が、仕える国が変わることに抵抗を抱くはずもなく。

 騎士団に属していれば戦闘の機会も増えるにもかかわらず、クラウがそれを拒絶した理由はただ1つ。


 そんなクラウは現在どうしているかというと――


 

  


「よく分かってるじゃないか、ミラ」


 楽しげに会話を繰り広げるミリとミラの間に、1人の青年が割って入った。そしてそのまま、ミリの小さな体を後ろからぎゅっと抱き締めた。

 それこそ、最強の名を冠する武人、元ルチル騎士団副団長クラウスハルト=アイブリンガーその人であった。


 金色の髪を揺らし、翡翠色の瞳を愉快げに細めながら、クラウはミリの体をもにもにと弄る。ミリはくすぐったそうに身をよじり、恥ずかしそうでありながらも楽しそうな笑顔を浮かべている。


 2国間の話し合いの場でミリが「農業がしたい」と申し出たが、当然ながら元王女でありまだ10歳という幼女をたった1人で暮らさせるわけにはいかない。誰かがミリの保護者として生活を共にすべきだろう、という話になった途端「ミリと2人暮らしだと――!?」と血相を変えたのがクラウである。


 国の変化に伴い煩雑な仕事が増えた他の農民にミリを一任するというのも様々な理由で憚られる中、ミリの世話役をクラウが買って出た。一部から絶大な反対を受けながらもミリ自身それを望んだことにより、この農村の一角に2人の愛の巣を設けた2人暮らしが始まったのであった。一部というのは、また後述。


「ミリがいるだけでここは天国であり桃源郷だ。見ろ! この愛くるしい姿を!」

「今日もお2人は仲がよろしいのですね(棒)」

「はは、当たり前じゃないか。オレとミリは将来を誓い合った仲だもんな」

「‥‥えへー」


 ミリは恥ずかしそうに頬を染めながらも、緩んだ笑みを浮かべてくれる。なにこれ、めっちゃ可愛い。

 クラウのミリに対する態度を一言で表すならば、溺愛。


「んー、ミリは可愛いなー。なでなでしていい? すりすりしていい? ぺろぺろしていい? よーし、許可されなくてもするゾ~」


 ミリに対しているクラウを一言で表すならば、変態。

 それが悪魔とまで称され他国にも恐れられた、最強の騎士のなれの果ての姿であった。いや、別に果ててはいないが。


「ミーリア様も、毎日大変ですね」

「なー、確かになー。毎日毎日畑の世話して、分担してるけど家事もこなして、こんなちっちゃくて可愛いのに、すごいよなー」

「クラウス様も、大変ですね。頭の中が」

「そうだな。頭の中はミリでいっぱいだから大変だよ」


 念のため確認しておくと、ミリは現在10歳である。対するクラウは、現在21歳。

 が、これは決して犯罪ではない。断じてない。だってそこには愛があるから。愛があれば年齢なんて関係ないから!


 近衛騎士としてミリに仕えるようになってから、クラウは誰憚ることなくミリにいちゃいちゃぺたぺたし続けてきた。頻繁に町に遊びに出ながら「ミリがめっちゃ可愛い!」と声高に言い続けていた前科もある。

 そのため2人の関係はルチル最後の演説のあの日の前に、すでにおおよそ国民全体に伝わってはいた。


 が、ここまで極端なものだとはほとんど知られておらず、ここに住み始めた当初はみんな困惑していたものだが、あんまりにも毎日毎日主にクラウがいちゃいちゃいちゃいちゃしているものだからいつしかすっかり周囲も慣れてしまいクラウに残念な視線を向けるようになってイマココ。


 周囲の呆れ顔も意に介さず、クラウはミリのほっぺたをむにょんむにょんと揉みしだく。

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