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ロード・オブ・ミーリア(仮)  作者: くらうでぃーれん
第2章 ヴァルトノルト
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1.ヴァルトノルト

「ミーリア殿、クラウスハルト殿、本日はようこそおいで下さいました。急なことで大したおもてなしもできませんが、どうぞおくつろぎ下さい」

「こちらこそ急な申し出に応えていただき、ありがとうございます。身に余るご厚意、誠に恐縮です」


 その日の夕刻前。2人は広い室内で大きなテーブルを挟み、ヴァルトノルト国王、ディルク=ヒューゲルラントと向き合っていた。ディルクの背後に3人ほど警護の兵がいるだけで、部屋の中にいるのはそれだけだ。

 机の上には紅茶とケーキが一切れ用意されていて、やはり元とはいえミリの王女と言う身分は大きな影響力を持っているらしく、こんなにもあっさり国王に謁見ができるというのはそれだけで破格の待遇と言える。


 正面の椅子に構えるディルクは、確か齢は30過ぎだっただろうか。身長は高めで、体格はがっしりとしており余分な肉がついていない。単に権力にあぐらをかいているだけの男ではないようだ。やや威圧的な態度はしかし堂に入っており、傲慢と言うよりは王としての威厳を感じさせる。丁寧な口調ながらも堂々たる姿勢は崩すことなく、国王としての素質は十分であるように見える。


「まずご存じとは思いますが、ルチル国の全権はガルネンブルク国に移譲され、ルチルは西ガルネンブルクとして新たに歴史を刻むこととなりました。訪問が遅くなってしまった謝罪と、これまで様々なご助力を頂いたことへの深い感謝を申し上げます」

「いえいえ、世話になったのはお互いさまでしょう。ルチルの作物は非常に質がいいと評判でしたから」

「お褒めに預かり光栄です」


 対するミリも小さな体とは対照的にどっしりと落ち着いた態度を持ち、相手が誰であろうと物怖じしない王としての風格を感じさせる。そのうえ顔も声も可愛らしく、行儀よく座っている様はまさにお人形さんのよう。肌はぷにぷにのすべすべで唇はぷるんぷるん。今すぐ抱き締めてすりすりしたりぺろぺろしたい。そう思わせるミリは女王として最高の資質を備えているって言えるよね。

 そんな悶々とした内心とは裏腹に、クラウはミリの隣でわずかに態度を崩して静かに腰を落ち着けているのみ。ディルクはなぜかミリにハァハァすることなく、簡単な社交辞令だけを済ませてすっと瞳を鋭くした。


「‥‥それで、本日はわざわざ挨拶に来て下さった、という解釈でよろしいのでしょうか?」


 明らかに他意を含んだ問いに、ミリは一旦返答を保留して黙り込む。

 ミリが考える間を空け、クラウは紅茶を一口すする。王室にあるにしてはやや葉の質が劣るように思えるが、一般のものと比べれば十分上質な香りがした。

 やがてミリが何か言おうと口を開こうとする気配を感じたが、その前にクラウが道を作ってやることにする。初めてだから、というよりは今回の場合、口火を切るのはクラウである方が自然であり、順当だ。


「いや、もう1つ目的、というよりは疑問がある。率直に聞かせてもらう。知りたいことは2つ。どこへ、となぜ。――戦争をしかけようとしているんだ?」


 クラウの言葉通り率直な質問に、ディルクは分かりやすく表情を硬くした。駆け引きはあまり得意としていないようだ。

 ミリもクラウが先に口を開いたことに驚いただろうが、態度には表すことなく両の瞳をディルクに向けたまま、静かに開きかけた口を閉じた。


「‥‥なぜ、そのように思われたのかな? 確かに少々物々しく見える部分もあったかもしれんが、それだけでそう断じるのは早計でしょう。戦いに慣れているから、悪魔だから、などという漠然とした理由では納得しかねますが?」


 皮肉も冴えない。というか、クラウが断じた理由は、経験論という意味で限りなくその通りなのだが。

 クラウは話し合いの目的だけを明確にすると、「ミリ」と、そのひと言だけで後の全てを丸投げする。ミリは表情を動かさないまま、ちらりとだけクラウに視線を向けた。少なからず恨めしい感情が込められているのだろうが、それを表に出さないミリは駆け引きにおいてディルクよりも上手のようだ。


 これは決して責任放棄とか面倒だからではなく、あくまでミリの力を試すためであり、高めるためだ。

 王たるもの、たとえ咄嗟だろうと正しく判断を下し、決して〝間違ってはならない〟。

 たった一度の間違いが国を滅ぼす。ミリが目指しているのは、そういう場所なのだ。

 クラウの課す試練は、すでに始まっている。

 ミリもそれを理解しているのだろう、わずかにだけ考える時間を空けて、やがて内心の迷いなど一切感じさせない、真っすぐな視線を国王へと向けた。


「一番にそう思わせた理由は、確かにそれです。ですが、確信を得た理由は他にあります」

「ほう。確信、ですか。では何をもってそう思われたのです?」


 発言者が変わったことをさして気にした様子もなく、ディルクはミリに視線を移す。


「簡単な話ですよ。この国の人々に教えてもらいました」

「‥‥国民の噂話を鵜呑みにした、と」

「毎夜兵士の方々が酒場で愚痴を漏らしているそうですよ。略奪なんてしたくはないと」


 ミリの言葉に、ディルクの顔色が明らかに変わった。

 焦りや怒りではなく、これは恐らく苛立ちだ。ミリに対するものよりは、緘口令(かんこうれい)でも強いていたのであろう兵たちが、王に背いたことに対しての。


「‥‥略奪とは、少しと言わず言葉が悪い。宣戦布告はするつもりですし、正当な理由もあります」


 諦めたようなディルクの言葉に、ミリはくすりと頬笑みを漏らした。嘲りや見下しではなく、勝利を示す合図として。


「やはり、本当だったのですね」


 ディルクは眉根を寄せた後、驚きに目を見開いた。ようやく、自分が誘導されたのだと気がついたようだ。


「‥‥なかなか、やってくれますな。子供だからと油断していたようだ」うそつけ。本気で引っ掛かったくせに。

「申し訳ありません。どうしても、気になってしまったもので」


 ディルクの気配がわずかに変わったのを見て、クラウはカップを傾けながら周囲の気配を探る。

 この野郎、警護をつけながらもきっちり伏兵を仕込んでやがる。ヤツの背後の壁と、こちらの背後の廊下。さらに隣室と、ご丁寧に天井にも忍ばせていやがる。

 たった2人で方や幼女とはいえ、もう片割れが悪魔と呼ばれるほどの騎士であるが故だろう。クラウは丸腰だが、素手だから油断できる相手でないことは理解しているようだ。

 今は手ぶらとはいえ、上質な椅子を使っているおかげで「変化」の魔法を使えば即座に武器として利用できる。そんなことにも気付けないあたり、防衛面においてやや発想力に劣ると言わざるを得ない。

 しかしクラウ1人なら余裕で全員ぶっ潰せるが、ミリを守りながらとなると少々面倒くさくなりそうだ。

 もっとも、それでも十分制圧は可能だが。


 確かディルクは、元軍人だったか。クラウに向ける警戒の視線は鋭く、それなりに高い経験値を感じさせる。

 いつでも動けるようにクラウも警戒心を高めながら、臨戦態勢を悟られないよう紅茶を飲みつつミリの動向を静かに見守った。


「それで、それを知ってどうするつもりですかな? 争いなど止めなさいと、我が国民でも王女でもない、部外者のあなたが仰るつもりか?」


 感情の乱れは冷静な判断を阻害する。この男、外交者としては二流か、悪くすれば三流だ。エルフリーデなど、クラウとケンカしている以外で激昂しているところなどほとんど見たことがないというのに。

 ミリはじわりと沸き起こるようなディルクの怒りに臆することなく、かといって無駄な反抗を見せることもなく緩やかに首を振った。


「いいえ、少なくとも今は、そのつもりはありません。私はこの国の現状を詳しく知りませんし、場合によっては争いも必要だと理解しています。ですが、避けられるものなら避けるべきだとも思っています。ですから、恐れながら一言だけ。本当にその侵攻は必要なものですか?」

「当然ながら、熟慮の末に出した結論です」


 やや意固地に胸を張る様な即答に、ミリは頷くとともに深く頭を下げる。


「なるほど、部をわきまえぬ発言、失礼いたしました。そのことで私が聞きたかったのはそれだけです。‥‥ところで、ご子息の方々もお元気でしょうか」

「ええ、まだまだ未熟者ばかりですが、ルチルの作物のおかげで皆体だけは丈夫に育っていますよ」


 ミリのその話題転換がピリオドとなり、ディルクもそこで苛立ちと緊張を解いたようだった。理由を聞くことはかなわなかったが、元々の情報量が少ない以上、引き際としては妥当だろう。

 そのまま無難な雑談を続けて漠然とした国の状態などを聞き、城に泊まるかと控えめに誘われたが、丁寧に断った。伏兵をしくような城になど泊まれるかと言いたい。

 退城する時は案内役として1人の兵士が先導してくれたが、どう見てもクラウに対する牽制だということは、その兵士の体つきを見て分かった。別に、城を攻め落とす気なんて無いってのに。

ついに新章突入だやったぜフォーーーーーゥ!


と、せっかくなので(?)テンション高めでお送りしています

果たしてクラウスとミリの運命やいかに――! とかいって盛り上げておこうと思います

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