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ロード・オブ・ミーリア(仮)  作者: くらうでぃーれん
幕間
16/109

隣国へⅡ

 2人の前に現れたのは、簡易な鎧に身を包んだ2人の男だった。「げ、悪魔‥‥」と呟きが聞こえ、中年くらいの男と、まだ若い男がクラウの姿を認めて顔をしかめる。

 男たちは腰には短剣を携えており、目的地であるヴァルトノルトの兵士であることがその格好や諸々から判断された。

 2人ともイヌに騎乗しており、体格や反応からただのハウンドだと見てとれる。もっとも、ジャッカルなどそうそう見られるものではないのだが。


「ここは領地外だろうが。何してたって自由だろ」


 寝転がったまま答えるクラウに、中年の男は言葉を詰まらせる。相手が相手なだけに、威圧的な態度がとれないのだろう。無駄に態度がでかい相手には、クラウも態度を和らげるつもりなどさらさらない。

 とっとと去ればいいものを、それでもわざわざ近づいてくるとは、獣以下の防衛本能だと言わざるを得ない。


「あんたらこそ、こんな遠くまで来てなにしてんだよ」

「‥‥別に、自由だろう」


 先程の言葉をそのまま返され、クラウは綽々と「そりゃそうだ」と笑う。

 そこで腕の中に収まっていたミリが顔をあげ、若い男は眉根を寄せて、中年の男はハッと目を見開いた。


「おい、そこのガキは――「おいバカやめろ!」


 子供を見るや高圧的になった若い男に、中年が慌てて制止をかけた。


「お、知ってくれてるみたいだぜ。やったねミリちゃん」


 軽口を叩きながらミリを下ろしてやると、ミリは途端に姿勢を正して大人びた態度に切り替わった。


「も、申し訳ありませんミーリア王女。この者がとんだ無礼を‥‥」

「いえ、問題ありません。私はもう王女の身ではありませんので、平民として扱っていただいて結構です。ミーリアと呼び捨てて下さって構いません」

「そういえば、そうでしたね、‥‥ミーリア‥‥様」


 堂々たるミリの立ち姿に、男はひどく戸惑った様子で態度を決めかねている。

 それはそうだろう。身分としては没落したといえ、その立ち振る舞いは王族のそれであり、とても10歳の子供とは思えない。ミリを前にしてあっさりと態度を崩すのは正直難しい。


 ミリはちらりとクラウに視線を向ける。クラウは寝転がったままひらりと手を振って「任せた」と対応を丸投げした。

 ミリは一瞬だけ考え込んで、男たちに向き直った。


「‥‥ミーリア様、これからヴァルトノルトまで来訪される予定でしたか? そのような話は聞いておりませんでしたが」

「はい。特に用と言うほどではなく、観光のようなつもりでお訪ねするつもりでしたので。権威を失っている以上、事前にそちらにお伝えするのもおこがましいと思い、省略させていただきました。‥‥ですが、何やら物々しいご様子ですね。せっかくなので、と言ってしまうのは非常に無礼に当たるとは思いますが、かねてからの交流を頂いた礼も未だ済ませておりません。もしよろしければ、国王様にご挨拶させていただくことは叶いますか? もちろん、今すぐになどと言うつもりもございません」


 素晴らしい。さすがミリだ。

 クラウは胸中で惜しみなく称賛を贈った。丸投げしたクラウ自身唐突だと思うこの状況で、クラウの意図も、自分のやるべきことも、十分すぎるほどに理解してくれている。敢えて言うならば、1歩目から少々踏み込み過ぎだろうか、ということくらいか。


 男たちは黙って顔を見合わせる。若輩は幼女の口から放たれたとは思えない言葉に驚きつつ、判断を先輩に一任するようなすがる視線を送っていた。


「‥‥我々だけでは判断できかねます。一度国に戻って確認してきますので、返答はその後でもよろしいかな?」

「もちろんです。前向きにご考慮いただき感謝いたします。では我々はゆるりと参らせていただきますので」

「‥‥わかりました。では後ほど」


 2人の男はくるりとハウンドを反転させ、土を巻き上げながら姿を遠ざけて行った。

 クラウはそれを見送って「さっすがミリー! カッコ可愛いー!」「うひゃあぁあぁ」

 ガルムの背から滑り降りて、ミリを高々と抱えあげた。そのままくるくる回って人力メリーゴーラウンド。ばふー、とガルムの体に背中から倒れこんでミリを抱き締める。


「もー、大げさだよ」

「いや、正直コレがしたかっただけ」

「ぶれいものー」


 先程までの毅然とした態度は早くも霧散して森の養分となり、今はぽよぽよした声に戻っている。さっきのが森のお姫様だとすると、今は森の妖精さんって感じかな。うーむ、どっちのミリも可愛い。


「しかし、よくもまあ咄嗟にあれだけ喋れるな」

「お母様のやり取りをいつも見てたからかな」


 あの野郎、無意識に擦り込むほどの英才教育を施すとはやりやがる。そしてそれをしっかりと身につけて応用できるミリは、素晴らしい。そして可愛い。


「それで、お姫様の体調はよろしくなったのかな?」

「うん。ゆっくり行ってもらえれば大丈夫だと思う」


 笑顔で頷くミリは無理をしているように見えない。ミリに対してのみほぼ完璧に発揮されるクラウの観察眼がそう判断するのだから間違いないだろう。


 クラウはミリを担いで再びガルムの背に跨り、その横腹を優しく叩く。

 ミリはガルムの首元にさばりついて、わしゃわしゃと喉を撫でた。


「ありがとねガルムくん、私の調子に合わせてもらっちゃって」


 ガルムはぐるぐると心地よさそうに目を細めてから、立ち上がってのしのしと歩行を始める。特に指示をしたわけでも無かったのだが、しっかりと状況を把握してくれているようだ。


 ヴァルトノルトに向けて歩き始めてからも、ミリはガルムの首元から離れない。どうやら抱き心地が気に入ってしまったらしい。


「くそー、なんか嫉妬しちゃうからあまりくっつくのはやめなさい」


 クラウはガルムにさばるミリの首元をくすぐってやると、「いやはーん」と身をよじりながら死ぬほど可愛い声を漏らした。


「ほらミリ、抱きつくならオレにだろ。さあ、さあ! おいで! 全然怖くないよ!」

「なんか怖いよ‥‥」

「オレのほうが絶対気持ちいいから! ガル×ミリ本とか誰も求めてないから!」

「うーん何言ってるのか全然分かんないなー。いつも分かんないけど輪をかけて分かんないなー」

「えっとな」「教えてくれなくていいです」


 早ければあと1,2時間で着くだろうと思っていたが、このペースだと到着は夕方ごろになるだろうか。

 これ以上ガルムにさばっているのはイロイロ危険だと判断したらしいミリは、再びクラウの脚の間にちょこんと収まった。


「昼飯はイルマにもらったパンでも食べるか」

「うん。でもクラウは1個食べるごとに、私にキスしてくれなきゃダメだよ?」


 お? 可愛く言ってるけど、これは多分ちょっとだけイルマに嫉妬してるな。なんだよこれ、めちゃくちゃ可愛いじゃないか。


「ん、そんなもん喜んでするけど。食べなくてもするけど。するなって言ってもするけどー!」

「にゃー! 節度ある行動を心がけなさーい!」


 弛緩した空気の中、2人は最初の国を目指して歩みを進める。

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