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ロード・オブ・ミーリア(仮)  作者: くらうでぃーれん
第1章 西ガルネンブルク
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13.想いを胸に2

 微笑むイルマを見下ろしながら、クラウは苦い表情を浮かべて首を捻る。


「ありゃ、バレてたのか。むむむ、これは策士としては失格だな」

「何がむむむだ!」

 とガルムの上からミリに突っ込まれる。いや、何がと言われてもなあ。


 そんなやり取りをしながら、先程始まりかけていたバトルシーンはあっという間にスキップされて終了していた。この程度のいがみ合いなどいつものことで、戦場だろうとお構いなしで殴り合っていたほどだ。1つ1つのケンカに執着がないとはいえ、放っておくと手足くらいなら飛びかねないから厄介なのだそうだ。(ミリ談)

 息を荒くするイルマを見下ろしながら、クラウはうーむと頭をかいた。


「もしかして、他のみんなも気づいてる?」

「いえ、見送りの準備を進めていたので、気づいてないと思いますよ?」


 やっぱり何かしてたのか、とクラウはミリと顔を見合わせて苦笑いを浮かべる。


「あー、悪いけど適当になだめといてくれるか?」

「はい。でも、大丈夫だと思いますよ? お2人のことですし、みんな納得してくれるんじゃないでしょうか」


 それはそれで、どうなんだろう。信頼されているというべきなのか、迷いどころだ。


「それでクラウス様。これ、もしよろしければ、道中のお腹の足しにでもしていただければと思って」


 そう言ってイルマが差し出したのは、小さな麻袋。中を見ると、そこにはいくつかのパンが入れられていた。


「焼きたてはご用意できなかったので、あまりご満足いただけないかもしれませんが」

「いや、心遣いだけでも嬉しいよ。ありがとう、イルマ」


 クラウが笑顔で受け取ると、イルマは嬉しそうに胸の前で手を握った。

「あの、クラウス様‥‥わたしは‥‥」


 ぴくりと、ミリが反応を示したのが視界の端に映った。ミリはよじよじとガルムから降りると、べしっ、とクラウの背中を叩いて2人から距離を置いた。空気が読めすぎるのも、いいことなのか悪いことなのか。

 イルマは頬を上気させて、じっとクラウを見つめる。クラウは何も言わず、イルマの言葉を待った。


「わたしは、クラウス様のこと‥‥」


 イルマが、勢いこむように一歩近付いてクラウを見上げる。クラウは促すことも止めることもせず見守る。


「わたしは‥‥‥‥‥‥


 ‥‥‥‥‥‥クラウス様の無事をお祈りしています」

「ありがとう。イルマも、幸せに暮らせよ」

「‥‥はい」


 結局イルマはそれだけを言って、瞳を伏せる。

 不自然な沈黙が生まれた。クラウとて、イルマが言いたかったのはそんなことではないのだろうということくらい、気づいている。かといって、ソレに応えてあげることはできない。


 どうしよっかなあ、としばらく迷ってちらりとミリに視線を向けると、やや不機嫌そうにぷいっと顔を逸らされた。芳しい反応ではないが、拒絶しているわけでもなさそうだ。

 悪いね、ミリ。

 頭の中でだけ軽く謝ってから、クラウはイルマの頭をそっと撫でた。イルマが驚いて顔をあげ、クラウは柔らかい笑顔を向けた。


「‥‥でもまあ、もらいっ放しってワケにもいかないからな」


 急なクラウの言葉に、イルマは困惑したようにぱちぱちと瞬き。


 クラウはそっとイルマに顔を寄せると、頬を擦り合わせ、額を突き合わせ、唇を重ねた。


 それはルチルの風習で、親愛を示す行為の1つだった。

 イルマは目を見開いてから、唇に指を触れさせて頬を赤らめる。

 そして柔らかく笑顔を浮かべると、一筋の涙が頬を伝った。


「‥‥ありがたき、幸せです」

「ありふれてるよ。そんな特別なものじゃないさ」


 流れた涙は柔らかな陽の光を受けてきらりと光り、イルマの表情を大人びて見せる装飾のように輝いていた。

 ミリはやはり不満そうだったが、特に何を言うこともなくそのやり取りを見つめていた。イルマはミリに向き直ると、少し慌てたようにぺこりと頭を下げる。


「あ、そのっ、みっ、ミーリア様も、お気をつけていってらっしゃいませっ」

「ふーん、私はクラウのついでですか?」

「い、いえっ、決してそのようなつもりは‥‥!」

「ふふ、ごめんなさい、冗談ですよ。お気遣いありがとうございます」


 ミリの笑顔にイルマは少し態度を和らげて、同じように微笑みを浮かべた。イルマは肩の強張りを解いて、再びぺこぺこと頭を下げていた。


「ご帰還は、いつごろのご予定ですか?」

「分かりません。少なくとも数年は帰ってこないでしょうし、帰って来られなくなる可能性も十分にありますから」


 ミリの言葉に、クラウとエルフリーデは胸中で、へぇと感心の唸りを上げる。

 国外に出るということが、治安も不明な国へ向かうことがどれほど危険なものであるかを、ミリは十分に理解している。これから出る旅のことを、決して軽んじていない。

 分かってはいたことだが、ミリの言動や思想に触れる度、この子がいかに聡明であるかを思い知らされる。


 ――まあ、もっとも。


 しかしクラウとエルフリーデは、そんなミリに対して同時にそれを思う。


 ――他の誰がどうなろうと、ミリは絶対にオレが守るけどな。

 ――ミリを守れなかったら、たとえ死んでてもぶっ殺してやるけどね。


 2人は視線を合わせて、ニィ、と不敵に笑い合う。決して背を預けることはなく、しかし互いの強さを認めあった戦友だからこそできる、剣呑でありながら愉快でもある意志の疎通であった。


「それじゃあお父様、お母様、行ってきます」

「ああ、とっとと行きな。愛してるよ、ミリ」

「次にミリに会う時が楽しみだね」


 両親に向き直ったミリに、2人は思いの外さっぱりとした言葉をかけていた。


「次にお前は『湿っぽいのは嫌いでね』と言う」

「言わねーよアホ」「‥‥湿っぽいのは、嫌いでね」「なんであんたが言ってんだよ!」


 スパン! とエルフリーデがアヒムの後頭部を引っぱたいた。

 うーむ、いつものことだが、アヒムさんは意外なテンポでボケてくるな。地味に遊び心がある。ホント、かなり地味なんだけど。

 クラウはミリを再び肩に担いで、ひらりとガルムの背に跨った。ミリを脚の間に座らせ、やんわりと体を固定する。


「じゃ、ミリはもらっていくぜ。全身オレ色に染めて帰って来てやるよ」


 エルフリーデに向けて中指を突き立て、アヒムとイルマに軽く手を振って、くるりと3人に背を向ける。ミリはやや名残惜しそうに後ろを振り向いて、父と母に視線を送った。


「‥‥お母さm「っしゃー! 行くぜガルム!」にゃああああ!」


 クラウの号令に応えてガルムは天高く吠えると、ガリッ、と地面に爪を掛け、力強く地を踏みしめてその巨体を大きく跳ねさせた。

 尾を引くようなミリの悲鳴を残して、2人と1匹の姿はあっという間に地平の彼方に消えて行ってしまう。

 3人はその場に立ちつくし、苦笑いを浮かべることしかできなかった。


「はは、あの変態の阿呆らしい門出だ。ミリもこれから大変だろうね。あんなのと一緒じゃあ」

「クラウスくんなら安心だろう。きっと、エルを越える最高の王として帰ってくるさ」

「変態を感染(うつ)されなきゃいいけどね。‥‥さて」


 ほんのわずかの寂寥を振り払うかのように声をあげて、エルフリーデはくるりと振り返る。


「ミリもあの変態悪魔も、もういないよ。だから気の済むまで泣きな。付き合ってやるよ、イルマ」


 立ち尽くしていたイルマを、エルフリーデは正面からふわりと抱き締めた。

 ――途端、イルマの口から小さな呻きが漏れ、それはすぐに大きな泣き声へと変わった。


「イルマの人を見る目が心配だね。あんなのは早いとこ忘れて、もっとあんたを幸せにしてくれる素敵な男を探しな。良い男なんざ、少し探せばいくらでも見つかるさ。

 ――だってココは、良い国だろう?」


 大声で泣くイルマを抱き締めて優しく頭を撫でながら、エルフリーデは静かに囁きかける。その姿は母の姿であり、民を率いる女王の姿でもあった。

 

 

 ――旧ルチル国、現西ガルネンブルク国は、強く優しい元女王と、聡明な現女王に支えられ、今日も穏やかな1日を迎える。

彼らの冒険はまだ始まったばかり――

もしくは

国を出たッ!第一部、完ッ!

とかそんな感じのナレーションをつけたらいいんじゃないかと思います


ここまでがほぼ序章ですね。長い序章ですね。でも書きたかったもんね

まあ、そんな感じで一段落です。もうちっとだけ続くんじゃ、というか、まだまだ続くよ!って感じで頑張ります

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