20.迷走
ミリは1人、王城の一室のソファの上で膝を抱えてふさぎこんでいた。
クラウに怒られた。
それは想像をはるかに超えて、ミリの心を苛んだ。
目の前の机には空のお皿とティーカップ。
そこにあったのはクラウが言ったままの、紅茶とケーキ。
差し出されたものを拒絶するのは礼を欠くから、それだけの理由で早々にケーキと紅茶を胃に収めて、何をするでもなくじっと自分の膝を眺めていた。
自分はいったい、何に落ち込んでいるのだろう。
己の弱さか、全能ではなかったクラウへの失望か、単純に怒られたショックか。
自分でも良く分からない。誰に、何をどうして欲しいのか。
――信じすぎるな。
その言葉が、頭の中を何度も何度も巡っている。
分かっているつもりだった。誰か1人の言葉を盲信するのは危険であると。
だから今日まで出会って来たたくさんの人々の言葉を聞き入れてきたつもりだった。
だけど実際はそうじゃなかった。
結局自分はいつだってクラウと母の背中しか見えていなかった。
いや、見ようとしていなかったのかもしれない。
ほとんどの場合において、2人が正しかったのは確かだから。
信じるとか、疑うとか。
これから先、いったいクラウにどう向き合えばいいんだろう。
自分では分からないから、他者のことを思う。
母は、クラウのことをどう思っているだろう。
嫌っているけど、強さは認めているし、そういう意味で信頼している。
そういえば、いつか言っていた。強さ以外は何も信じていないと。
では、ディアナはどうだろう。彼女もクラウの何かを疑っているのだろうか。
想像がつかない。ディアナはクラウに心酔して、全てを捧げているようですらあったから。
けどディアナは、彼女だけは例外としても構わないような気がする。ディアナはクラウを信頼とかじゃなくて、全てを把握しているようですらあるから。
それ以外についても、ディアナは特殊すぎて参考にならない。彼女は、あまりにも頭が良すぎる。
けど結局は、母もディアナも関係ない。
これは自分自身の問題だから、自分がどうすべきかを考えなければならない。
そうすると、思考はやがて今日まで考え続けてきたことを再びなぞり始める。
思考が巡って巡って、同じ道を何度も何度も通って、気づけば大きな壁に阻まれ、行き詰まる。
自分はいったいどうすればいいんだろう。何をすればいいんだろう。
「‥‥私には分かんないよ。クラウ‥‥お母様‥‥」
気づけば、何の進歩もなく同じ人に助けを求めていた。
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