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ロード・オブ・ミーリア(仮)  作者: くらうでぃーれん
第5章 ゼーシュタット
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17.事後処理


 場所は変わって、王城のクルトの執務室。

 執務机にはクルトが着き、正面のイスにはクラウとミリ。後方には警備兵の隊長数人と、事件の場に居合わせた者たち。

 状況報告を行って、後の対応を話しているところである。


 先ほどは少々取り乱したがクラウも今は落ち着いており、不機嫌だけを残して横柄に腰を下ろしていた。

 クルトもダルそうに姿勢を崩しているし、おあいこだろう。


 一通り話を聞き終えて、クルトはなるほど、とひとつ頷いた。


「クラウスハルト、お前は阿呆か」

「うるせー」

「ふむ、言い返せぬか。つまり間違っていないということだな」

「ケンカ売ってんのか」

「見合った対価を支払うのであれば売ろう。オレは面倒は嫌いだからな、高くつくぞ」


 鬱陶しい喋り方のクルトに、クラウは舌打ちをして黙り込む。

 ジークが憎らしげにクラウを睨んでいるが、相手にする気分ではなかった。


「話が逸れたな。もう一度言おう、お前は阿呆か」

「何度も言ってんじゃねーよドあほう」


 苛立たしげに剣を鳴らす音が背後で響き、ジークが一歩踏み込んだのが分かった。


「いい加減にしろクラウスハルト。貴様もう少し――」

「構わん。俺とクラウスハルトの話だ、黙っていろジーク」

「も、申し訳ありません」


 諫められ、ジークは慌てて身を引いた。

 それを茶化すこともせず、クラウはむっつりと押し黙ったまま。


「街中にジャッカルを連れ込むなど、ボケナスの所業ではないか」

「適切な判断だろ。オレ1人じゃ対応できねー状態だったんだよ」

「考えもせず突っ込むからだろう」

「悠長に考えてられる状況じゃなかったっつってんだよ!」


 目の前のテーブルに拳を叩きつけて、苛立ちのままに声を荒げる。

 周囲の警備兵にわずかに殺気が沸き起こるが、クルトは泰然たる態度を保ったまま、見下すような視線を向けている。


「犬小屋はぶっ壊すわ、貴様のイヌが道にした家の屋根は砕くわ、観光客は怯えさすわ、ずいぶんと国を乱してくれたな」

「元々の責任はあいつらじゃねえか。オレに押し付けんな」

「いや、お前の起こした行動によって生じたお前の責任だ。様々な状況を推測し、事前に構えていれば防げたのではないか?」


 間違ってはいないが、それは結果論であり限りなく暴論だ。

 可能だというより、不可能ではないというだけでしかない。


 だが無茶苦茶だろうと正論であることもまた事実。

 そして、国の警備とはそういうものだ。

 無理矢理だろうと報酬と対価が成立している以上、クラウはこの男の言葉に従わなければならない。


 クラウは言い返すことが出来ず、ぐしゃぐしゃと髪をかき回して机を蹴り飛ばしたい衝動を抑えた。

 その間、ミリはクラウの横でじっと俯いている。


 いつものクラウなら何かしらバカな言葉を投げかけているのだろうが、今ばかりはそんなミリに対して無反応を貫いていた。


「とりあえず、場の掃除はすでに行っている。一般の者への周知は、ある程度伝えれば後は勝手に広まってゆくだろう。誤情報を流さんために、数か所に掲示板でも立てておいてくれ。場所と内容は任せる」


 そのまま、クルトは兵たちに次々と別個の指示を出してゆく。

 指示を受けた兵は丁寧に応じ、数人は即座に事に当たるため部屋を出て行った。


 やがて、部屋にはジークを含めた数人の兵とクラウたちだけが残された。

 ジークを外さない辺り、クルトのクラウに対して警戒を解ききっていないことが窺える。


「さて、あとは貴様の処遇をどうするかだな」

「どーもしなくていいじゃねえか。どーせ明日でオサラバなんだからよ」


 投げやりなクラウの言葉に、しかしクルトは呆れたような深いため息をついた。


「バカを言うなよ。お前のせいでこうして仕事が増えているのだ。面倒だから帰るなど、無責任が過ぎるんじゃないかね」

「だから、別にオレのせいじゃ――「だから、結局はお前のせいなのだと、何度も言わせるなノータリン」


 クルトの悪態に思わず拳を握って立ち上がり――首筋に刃が突きつけられた。

 振り返るまでもない、ジークの抜いた剣である。

 当然、ただの脅しなどではない。このまま踏み込もうとすれば、この老兵は本当にクラウの首を飛ばそうとするだろう。


 今の状況は、何もかもがクラウにとって不利すぎる。

 苛立ちを発散する術もなく、クラウは乱暴に上げた腰をそのまま下ろすしかなかった。


「ふん、暴れたがりの大バカ野郎を御するのは一苦労だな。クラウスハルト、もう3日間仕事の追加だ。国の人間でないお前を罰したところで無駄だからな、使えるだけ使ってやる。たった3日の追加で済んでいるのは寛大な王の慈悲だ。喜べ」

「‥‥テメェのことが鬼姫の次に嫌いになったよ」

「基準が分からん。お前とあの女の関係など知ったことか」


 本当に、状況が違えば間違いなくぶん殴っているところだ。

 もちろんこの男のことだ。それが分かっているから、今言っているのだろうが。


「分かったら早く出ていけ。これ以上用は無い。ジーク、すまんが引き続き子守りを頼むぞ」

「畏まりました」


 最後の最後までクラウを馬鹿にして、クラウは反応するのも億劫にクルトに背を向けた。


 ××× ×××

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