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ロード・オブ・ミーリア(仮)  作者: くらうでぃーれん
第1章 西ガルネンブルク
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9.私の足をお舐めなさい。いえ、やっぱり舐めさせてもらえるかしら。

「ノックしてもしもぉ~し」コンコンガチャ。と、ノックと同時に返事も待たずに扉が開けられた。


 扉の向こうでは1人の少女が――一糸まとわぬ姿でこちらを振り向いた。


 どうやら着替えの最中だったらしく、少女は中途半端な姿勢でクラウと見つめ合う。

 少女は叫び声をあげて肌を隠し、声を聞き付けた人たちにクラウは取り押さえられ――という事態に陥ることはなく。


「きゃー、クラウスさんのエッチ」


 淡々とした声で、ほとんど表情を動かすこともなく、むしろ見せつけてくるくらいの勢いである。


「ふふ、クラウスに覗いてほしくて、未来デパートで198円も出してドアを新調した甲斐があったわ。まさにブタイ・オブ・キヨミズから飛び降りる勢いの買い物よ」

「あー、未来では物価が超安くなってんのかなー」


 染み一つない滑らかな白い肌に、肩にかかる飴色の滑らかな髪の毛。空色の双眸は澄んだ湖面のように美しく濡れ輝き、彼女の芯の強さを表すようなつり気味の両眼は、端正な彼女の表情を引き締めているようだった。


 彼女こそガルネンブルク王国元王女、そして西ガルネンブルクの新女王として任命された少女、ディアナ=フォン=ガルネンブルクであった。

 ルチル基準では今年、ガルネンブルク基準では昨年成人を迎えたばかり。若くして最高位者となった彼女は、しかしそれに見合うだけの能力を持っていた。


 ディアナもミリ同様、幼少期からすでに国政に関わっており、時には国王でさえ意表をつかれるような奇抜な策を提案してみせたそうだ。知識と経験を兼ね備え、少女とは思えぬ威風堂々とした態度と端麗な容姿に心酔する国民も少なくないらしい。


「それよりクラウス、もっといやらしい目でじろじろ見てもらえるかしら。せっかくのラッキースケベをもっと堪能しないともったいないじゃない」


 ――そんな彼女が今、目の前で素っ裸で突っ立って謎の会話を繰り広げている。


「そんな堂々と仁王立ちして言われても。全然ラッキー感ないんだけど」

「ならどんな立ち姿がいいのかしら。荒ぶるディアナのポーズはいかがかしら?」

「いかがかしら、じゃねえよ。ポーズの前に言動が荒ぶってるんですが」

「まあなんでもいいけれど、せっかくだからクラウスが一番可愛いと思う服を選んでくれない?」

「そうだなー、オレは全裸が一番だと思う」

「分かったわ! じゃあ今からこれで遊んでくる!」

「アホンダラ」


 放っておくと本当に行きかねないので仕方なく引きとめる。服がないので首根っこを掴んでやると、「首筋だけどびくんびくん」などとワケの分からない供述をしていた。

 しかも何気にクラウの手を引いて出ようとしているのだから気が抜けないというか。多分見つかったら全部クラウのせいにするのだろう。


「とりあえず服着ろって。ディーなら何着ても似合うから」

「あら、嬉しいことを言ってくれるのね」

「というかディーの服装とかたいして興味ない」

「うぜー」


 女王としてはエルフリーデも認めるほど優秀なディアナ。しかしその実、見ての通り彼女はアホである。

 場所や状況は正しく見極めているし、基本的には超がつくほど優秀な執政者である。


 が、根本的に絶がつくほどアホである。

 そもそも堅苦しい雰囲気は得意ではなく、だらだらするほうが性に合っているのだそうだ。だからといってここまで残念な言動を貫く必要もないと思うのだが。


 2人が今いる場所は旧ルチル城、現在は「ディアナブルク」というワケの分からん名前に改名された城内の、元ミリの私室。

 「せっかくの女王だもの。手始めに何か王様っぽいことがしたいわ」というディアナの発言により決定した、アホみたいな城の名前である。城の名前とかどうでもいいので、特に反論もなくすんなりとその意見が通ってしまうという、我が国ならではの緩さがうかがえる。

 ちなみに最初に提案された「風雲ディアナ城」は、満場一致で悲しい顔をされたため取り下げられることとなった。それはディアナの黒歴史、になってくれれば良かったのだが、本人は全く気にしていないのは誠に遺憾なことである。


 国内唯一の城であり元王女の私室だっただけあって、その部屋は個人に与えられるものとしては広々としており、調度品も質の良いものが揃えられている。しかし絢爛であることを良しとしない旧ルチルの王族とディアナ本人の意向があり、生活に不必要な装飾品はほとんど置かれていない。

 天蓋なんて付いていない普通のベッド(質はかなり良い)の上に着ていた服を放り、おっぱい+αを丸出しにしたまま、ディアナはびしりとクラウの背後にある大きめのクローゼットを指さす。


「さあ、私に服を着てほしければ、そこのクローゼットから一番素敵だと思う服を一着選びなさい。3分間だけ待ってやるわ」

「けっこう待ってくれるんだな」


 というか、なぜ服を選ぶ前に脱いでいるのか。と、突っ込むのは徒労だと知っている。クラウは仕方なく、クローゼットの中から適当に一着取り出し、ディアナに投げ渡した。


「ほら、これが超絶可愛いと思うぞ。40秒で支度しな」

「ああーっ! 40秒なんて短すぎるわっ! ふんふんっ、上手く着れないっ! ああっ、頭を出すところから腕が出てくるのはどうしてなのーッ!」

「オレが悪かったから普通に着てくれ‥‥」


 もぞもぞもぞっ! と奇怪に身をよじりながら暴れまわるディアナ。クラウが辟易するほどである。どれほどアホなのか考えてみてほしい。


「‥‥いや、つーかパンツ履けや」

「イヤよ。私はあの締め付けられる感じが嫌いなの。私は誰にも縛られず自由に生きたいのよ」

「‥‥もう好きにしてくれ」


 自由に溢れた発言をするディアナは、クラウの渡した服を滑らかな肌の上に直接身につけていた。本当に、黙っていれば文句なしの美少女なのだが。

 一見女王だとはとても思えない、非常にラフな私服に身を包んだディアナは、なぜかジョジョ立ちを決めながらビッシィ! とクラウを指差した。


「それで、私に会いたくて会いたくてたまらなかったという他に、ここに来た理由はなにかしら」

「お、おう、ディーに会いたかった他には、頼みがあって来たんだが」

「もう、クラウスったら何度言わせるの!」


 途端、ディアナは鋭くクラウを責めた。クラウはびくりとしてわずかに身構える。なにせ相手はディアナである。何を言い出すか分かったものではない。


「あなたを婿に迎える準備はいつでもできていると言ってるでしょう! わざわざお願いなんかしなくても大丈夫よ!」

「お前の頭が大丈夫じゃねえよ」

「クラウスが私を嫁にもらいたがる気持ちもよく分かるわ。できることなら私もあなたの支配欲に応えて、頭の先から脚の先から産毛の数まで管理されたいもの。けど、私が嫁に行ったらガルネンブルクはどうなるのよ。私の代でガルネンブルクの名を途絶えさせたくはないのよ。もちろん、クラウスがどうしてもというなら、父と母にもう1人子供を産んでくれと頼んでみるけれど。あ、もちろんあなたの子どもを私が産んでもいいのだけれど」

「もう突っ込みどころがわかんねえな」

「突っ込むならココに決まってるでしょう!」

「そーいうのヤメロ」


 ビシィ! と(自主規制)を指し示すディアナ。この女、本当に女王なのか疑わしくなる。いや、女王としての凛々しく毅然とした姿もよく知ってはいるのだが。


「それで、何なの? 私にかまって欲しい気持ちはよく分かるけれど、いい加減本題に入ってもらえるかしら?」

「‥‥そうか、オレにイジられてるミリって、こんな気持ちだったのかな‥‥」


 今後はちょっと自重‥‥はできそうにないから、より一層愛を注ぎながらイジるとしよう。


「‥‥あー、それで本題は、『ジャッカル』を1匹譲ってほしいんだけど」


 ――単なる移動手段としてだけでなく、戦闘手段としても使われる「イヌ」と呼ばれる家畜がいる。大型の獣で、ヒトを乗せたり荷を引いて歩けるだけの力があり、基本的には温厚で、頭もよい優れた動物だ。

 そしてその「イヌ」は種類や能力によって呼称が変わる。移動や荷運びに使役されるものをそのまま「イヌ」と呼び、騎士たちが使役する、より大型で機動力に優れた種類を「ハウンド」と呼ぶ。

 さらにそのハウンドの中でも、ひと際優れたほんの一握りが、「ジャッカル」と呼ばれているのだった。


「‥‥ああ、そういえば『悪魔の黒犬』はあなたのジャッカルだったかしら」


 クラウとエルフリーデが駆るジャッカルは特に『悪魔の黒犬と鬼の白犬』と並び称され、騎乗者共々恐れられている存在だった。

 ハウンドは大きく力が強いというだけでなく頭も非常によく、ジャッカルに至っては人語すら理解しているのではないかと思わせるような行動を取ることもしばしば(というよりは、それができるハウンドがジャッカルと呼ばれる)。


「けれど譲るも何も、どうせあなたにしか扱えないじゃない。勝手に乗り逃げされたところで、文句の言いようもないわ」


 だから、というわけでもないが、ジャッカルは心から信頼を寄せた相手にしか懐くことがない。

 自らが認めた人間以外をその背に乗せることはなく、世話をするだけでも困難である。ジャッカルは凄まじい機動力を誇る代わりに、扱いが非常に大変なことも特徴だ。


「それはそうなんだけど、一応ルチルの全権をガルンネンブルクに譲渡したわけだろ。だから一声かけとかないと、ディーの立場とかメンツ的に良くないかと思って」

「あら、心配してくれて嬉しいわ。けれどこうして、女王と庶民が愛し合っているということの方が問題じゃないかしら」

「そうだな。ミリが庶民に堕ちて本当に良かったと思ってるよ」

「けれど、愛があれば身分なんて乗り越えられるわ」

「ああ、オレも単なる騎士からミリの専属にまでのし上がったからな」

「ちょっと、ちゃんと私と会話してくれないかしら」

「普段のお前に言ってやりてえよ‥‥」

「いいわ何でも言って! クラウスの言うことならどんな恥ずかしいことでも聞くわよ! さあ、どんな願いでも1つだけ叶えて欲しければ私の要求を無条件で飲みなさい!」

「いつの間にかオレの立場が下に!?」


 ――と、その瞬間まで下らない会話をしていたと思ったのに、次の瞬間には、ディアナの表情は遊びが抜けた真剣なものへと変わっていた。


「それで、ジャッカルを使ってどこへ行くつもりかしら。譲れというくらいだから、国のお達しではないのでしょう?」


 どこか呆れたような声音でディアナが尋ねる。先程までのアホな会話など無かったかのように、放たれる雰囲気までひっくるめて態度が一転していた。

 美しく澄んだ表情でクラウを見つめ、早すぎる切り替えに即座には反応できなかったものの、すぐにクラウは苦笑いを浮かべた。


「そのお達しを出すのはディーじゃないのかよ。まあ、実はな――」


 ひと言だけ突っ込んで、クラウはミリの提案について、しばらく2人で国を出ることを説明する。それを聞いて、ディアナは「ふうん」と露骨に唇を尖らせた。


「気に入らないわね。旅に出るのなら、私との愛の逃避行にしなさい。ふん、あの淫乱雌豚、幼女のくせして何様のつもりかしら。お子様、なんて答えたら乳首を根こそぎ収穫してやるわ」

「お前口悪いな」


 念のため言っておくと、ミリとディアナは仲が悪いわけではなく普段は普通に談笑をしている。ディアナのこの性格のせいで、ミリが圧され気味なのはいつものことだが。


「考え直しなさい。ミーリアよりも私の方が絶対にいい女だと思うわ。おっぱいも大きいし顔もいいし、性格も最高でしょう。ついでに王族だから金だってたんまりあるわよ。足りなくなったら愚民どもから搾り取ればいいんだものね」

「言葉の端々に最悪が滲みでているんですがそれは」

 端々っていうか、端から端までだけど。


 ディアナはなぜか満足げに微笑み、そこで3秒ほど思考する間を空けた。

 それを見た瞬間、クラウは確証のない確信を得た。


 ――詰んだ、と。


「そうね、クラウスの頼みなら全て了承してあげたいところだけど、クラウスにしか扱えないとはいえ、あのジャッカルは西ガルネンブルク最強クラスの戦力だもの。それを失うのは痛いわね。いくらクラウスの頼みとはいえ、無条件で譲るわけにもいかないわ」


 いくら普段がアホだろうと、ディアナは誰もが認める賢王なのである。

 多分、今の数秒でクラウを追い詰めるだけの道筋を立てられてしまった。そしてそれに切り返せるだけの思考力を、悔しながらクラウは持ち合わせていなかった。


「‥‥条件はなんだよ」


 言い返せないことは分かりきっているので、クラウは諦観のため息とともに一足飛びに会話を進めた。

 ディアナは満足げににんまりと笑って、そんな交換条件を突きつけたのであった。


「――今から私を抱きなさい」

メイン以外では一番のお気に入りかもしれないディアナです。いやもう、ミリにも並ぶ勢いでお気に入りです。

ミリが素直可愛いのはかなり初期から決まってましたが、こういうキャラにしてもいいかも、と若干悩んだりもしてみたり‥‥。


モチベ次第では、ディアナのスピンオフ的なものが書けたらな~、とか思ったりもしてます。

まあ、読んでくださる人が増えたらの話ですが~‥‥

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