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たまご  作者: 辰野ぱふ
3/4

3.

 かなり汗をかき、熱が少し下がったように思えた。これなら午後には医者に行けるかもしれない。

 ふと気が付くと、美佳が寄り添うように甚三の隣に横になっていた。甚三はぎょっとした。

「ねえ、メールチェックしなくていいの? ジュンコさんからメールが来ているんじゃないの?」

 と言う、その笑顔が甚三には不快に思えた。

「ジンちゃん、ずっとインフルエンザだったらいいのに」

 と美佳が甚三の背中に抱きついてきたのだが、身体がぞっとしてしまい、思わずそれを遮ってしまった。

「ジンちゃん、あたしのこと嫌いになったんだ」

 と美佳が甚三の背中にぴったりと頬を寄せて言った。

「ば、ばかな。まだ具合が悪いんだ。もう少し休ませてくれるかな」

 つい嫌悪感が声ににじみ出てしまったような気がして、甚三はまたぞっとした。

「あのね。ずっとジンちゃんに言わなければな、って思っていたことがあったの」

 と美佳がまだ背中にぴったり寄り添ったまま言った。

「な、なに? 今じゃなきゃだめなの?」

「いつでもいいよ。だけど、今日ならジンちゃんが弱っているから、静かに聞いてくれるかな、と思って」

『弱っている?』、甚三はその言葉にひっかかったけれど、気を落ち着けて、静かに目を閉じた。

「また、たまごのことなんだ」

 と美佳が言った。

 甚三はうんざりしていたが、今腹を立てるともっと具合が悪くなりそうだった。甚三はむかつきながらも横になり、じっとしていた。

「たまごが黒いのはね、ミカがいけないんだと思うの」

「??」

 何の話なのか? 見当もつかなかった。

「あたし、赤ちゃんは欲しくなかったの。だって、赤ちゃんができたら、赤ちゃんのほうがかわいいだろうし、あたしの栄養を吸い尽くして大きくなっていくんだよね、赤ちゃんって」

 甚三はただじっと耐えて耳を澄ませた。

「だから、自分で始末したの」

「え?」

 と思わず甚三は声を上げた。

「だいじょうぶ。薬は飲んでいない。それに、そんなに形になっていない時だよ」

 甚三はまた具合が悪くなりそうだった。

「ジンちゃんが心配するからね、言えなかった。だけどわかるの。あたしは身体が丈夫なんだ。だからね、少しくらい痛い思いしてもだいじょうぶなの。最初は偶然だったけど、二回目からはコツがわかったの。いつも心を鬼にしている」

 甚三の動機が激しくなり、音を立てそうなくらいだった。

「ね、ジンちゃん、プラセンタって知ってるでしょ?」

 しばらく間があいた。美佳は甚三の返事を待っているらしい。甚三は言葉に詰まりながら、「え? なんのこと?」とやっと声を出した。

「胎盤エキスだよ、もちろん」

 と美佳が言った。

「たいばん?」

「そう。赤ちゃんがお腹の中にいる間にできるんだよ。知ってるでしょ?」

 甚三はまたむかむかしてきていた。

「お薬としても売っているもん。だから悪い物じゃないんだよ。ぜったい」

 と言いながら、美佳は泣き声になってきていた。

「それに、お薬で売っている物は動物のだけど、あたしの身体の中のものなんだから、もっといいものだと思うし、自分のものなんだからどうしたっていいんだよね、ぜったい」

 甚三には受け答えするエネルギーが残っていなかった。

「ね、でもね、ときどき夢を見るの。小さい黒い子たちが、ママ、ママってあたしの足元で足を引っ張ったり、スカートを引っ張ったりする夢なの。すごくいっぱいいるの。その子たちには顔がないんだよ」

 甚三は思わず両手で耳を覆った。

「だめ、聞いて」

と美佳がその手を押さえた。

「その子たちは、ぜんぶがあたしのたまごだったわけじゃないよ。あたしのたまごちゃんはあたしの身体の中にまたもどって、あたしの栄養になって、あたしを若くきれいにしてくれてるんだよ。だけど、もしかして…、あの子たちはあの子たちで生きたかったのかしら…? どう思う?」

甚三には返事の言葉が浮かばなかった。

「あの子たちはあたしのことうらんでいるから、たまごをクロミにしちゃうのかな? こうやってあたしたちは黒い子になったんだよって、そういうことなのかな? この間五つ目の子を下しちゃったから、だから五個がいっぺんにクロミになったんじゃないかしら。ジンちゃんが最後にあたしにしてくれた時のだよ。あの時は身体にこたえた…。ずっと若くいようと思っていたのに…。だんだん年をとって弱ってきているみたいなの。だからあれからあたしも少しこわくなってジンちゃんにあまり『して』って言えなくなったの」

 美佳は鼻をすすって泣いていた。

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