冬の決意
ガイアケロンの仕掛けた偽装後退の結果、皇帝国の公爵勢は二千人を上回る死者を出した。
アベルは戦闘の熱気が冷めた戦場を見渡す。
寒々とした冬の冷たい地面に無残な屍が、いたるところ転がっている。
すっかり準備を整えたガイアケロン軍団の精鋭に、成すすべなく殺された騎士や戦士たちの死体。
彼我の損害は歴然としていて、ガイアケロン側の戦死者は数十人にすぎなかった。
日没する。
惜しくなってしまうような冬の太陽が消えて、凍える夜が訪れる。
勝ってこの寒さならば負けた方はどれほど惨めな思いをすることになるのだろうと、アベルは考えてみる。
竦む思いがした。
松明の灯りが戦場痕を無数に蠢いていた。
炎で照らして戦死者から装備や持ち物を奪っていく。
戦利品を我が物とすることをガイアケロンは許していない。
一所に集めて、武器や防具は予備の物資などにする。
兵士たちは良く教育されている。盗みは非常に少ないらしい。
この時代にあって、ほとんど異常なほどの厳格な規律が行き届いていた。
傭兵ばかりでなく騎士とて戦利品を巡って諍いを起こすなど当たり前であった。
その難しいことを兵士に実行させる覇気がガイアケロンとハーディアにはあった。
また、百人頭が最下級の兵士たちに睨みを利かせているということもあるだろう。
ガイアケロン軍団は逆襲攻撃の中ほどで皇帝国軍勢を崩壊させ、さらには退路を断っていた
そのおかげで捕虜が大勢いた。
中に大物がいる。
ジブナル・オードラン副騎士団長。
オードラン公爵の弟だ。
騎士程度の身分ならば高額の身代金を払うことにより解放されることもあるが、ジブナル・オードランのような高位の身分となると話しは変わる。
もしかすると王道国へ送られるかもしれない。
アベルは相変わらず戦闘が終わった後は看護部隊に合流して、怪我人の手当てにあたる。
そこに意外な人物がいた。
「シャーレじゃないか!」
「アベル!」
幼馴染のシャーレはアベルを見つけると駆け寄って、抱き付いてきた。
エメラルド色の瞳が喜びで輝く。
「どうしてこんなところに」
「ポルトのお城で働いていたら看護部隊の人に誘われたのよ。合戦があって怪我人が出るはずだから、後方の安全なところで治療に当たらないかって」
「危険なことはやめてくれよ。もし君に何かあればドロテアさんや母さんになんて言えばいいのか分からない」
「分かっている。でも、居ても立ってもいられなかったのよ。一人で待っているあたしの気持ちも分かってよ!」
シャーレの必死の表情を見てしまうと、もう何も言えなかった。
カチェはそんな二人を少し離れた所から見ていた。
アベルが心配だというシャーレの気持ちは理解できた。
明け透けな好意の表れに少々嫉妬するが、我慢した。
すぐに治療を始める。
指揮をするセジャン・ロマヌスカは厳しい。
刺さるほど怜悧な指示が飛ぶ。
上手く熟せないと叱咤された。
勝ったとはいえ怪我人は多い。
最初の合戦で怪我をして後退したものの、容体が悪化した人も大勢押し寄せていた。
アベルほどの治癒魔法が使える魔法使いは滅多にいない。
一万人の軍団にも、一人いるかどうか。
しかも、そうした貴重な人材は重要人物のための取って置きなので、兵士の治療に当たることはあまりない。
そんな能力を持ったアベルがいれば、当然、人は頼る。
魔法で治してくれと、我も我もと群がる。
それを看護婦やセジャンらが怒鳴りつけて止める。
どうしても魔法で治さなければならない重傷者を優先するからだった。
戦場とそれほど変わらない過酷な看護が続く。
時間はあっという間に経過した。
真夜中近く、重傷者の手当てに一段落つけた頃、ハーディアとガイアケロンが予告なしにやってきた。
あまりに静かにやってきたのでアベルたちはしばらく気がつかなかった。
夢中で骨折した兵士や、高熱に苦しんでいる者の手当てをしていると、看護所のざわめきが止んでいた。
ぴんと張り詰めた緊張感のようなものが場を支配していた。
アベルが不思議に感じ、周囲を見回すとハーディアが臥せっている怪我人に励ましの声をかけていた。
激励されている怪我人は感動で涙を流している。
やがて兄妹がアベルの元に来た。
ガイアケロンが笑顔で話しかけてくる。
「アベル。我の兵を助けてくれているのだな。ありがとう」
「医者の息子ですから。当然のことです」
ガイアケロンの視線が隣の少女に注がれる。
「それから君は……シャーレだったかな。我が兵士への治療に感謝する」
「あたしの名前、憶えていてくださったのですか」
「我は配下の名前はなるべく記憶するようにしている。アベルの連れならなおさらだ。城でも良く働いてくれていたな」
それはガイアケロンにしてみれば、お世辞でもなかった。
陣幕の中に入り様子を見ていると、アベルと共によく働くシャーレが見えた。
怪我人や病人は、よほど豪胆な者でなければ、酷く不安を感じているものだ。
身体を引き裂かれ、大量の血を流すなどすれば当たり前のことである。
そんなとき介護者がいて励ましたり、痛むところをさすったりすると薬が早く効果を現すことがある。
シャーレはまさにそのように働いていた。
看護婦という仕事にも一流とそうでないものがある。
シャーレは良い仕事をしていた。
ガイアケロンはシャーレの偽物ではない優しさに喜びを感じる。
それに加えて幼い頃は庶民育ちだったこともあり、貴族の権高いばかりの女性より親しみが湧く
誰にも話しことは無いが、本当のところ女性には慈愛の心のみで行動してほしいという願望を持っていた。
魔力に豊富な女が刀槍を手に、並の男を圧倒するところを見続けて来たが、やはり女には女の役割がある……そんな風に思う。
もっともそれを言えば、恃みとしている妹のハーディアは矛盾した存在になってしまうのだが。
だから、誰にも黙っていることだった。
ガイアケロンの鮮烈な視線が自分に注がれているのをシャーレは自覚した。
見上げるような長身をした王子の口元には甘い微笑み。
溌剌とした覇気に満ちていた。
「シャーレ。これからも我が兵を助けてやってくれ」
「は……い」
シャーレの心臓は早鐘のように鳴っていた。
王道国の王族とは自分のような身分の低い娘に声を掛けるものだろうかと、信じられないように考える。
それにしてもなんと立派な男性だろう。
英雄とはこうしたものなのかしら……。
看護部隊を指揮するセジャン・ロマヌスカが王族兄妹に一礼して状況を簡潔に報告する。
それから訴えた。
「アベル・レイは極めて優秀な治療者です。私の配下につけていただけませんか。本人には断られているのですが、やはり諦められません」
「セジャン。悪いがアベルは攻撃部隊から外せない。治癒魔術に優れているのは知っているから自由にさせていたが、役割がある男だ」
「……残念です。私の勘なのですがアベルみたいなのはきっと長生きしないでしょう。私の手元にあれば立派な医者にしてやれるのに」
「許せ。セジャン」
兄妹はその後も慰問を続け、やがて去っていった。
傷を負った者や体調不良の者たちが二人の励まで元気になっている。
声を掛けられた看護人たちも、特に女性は喜びで興奮していた。
カチェは顔を赤くさせているシャーレを見て、ちょっとだけ意地悪したくなってしまった。
「ガイアケロン様にお声を掛けていただけて嬉しそうですねぇ。アベルはもう霞んでしまった?」
「うっ!」
シャーレは、しまったという表情をしている。
「そ、そんなこと! ありません……」
「ふふっ。隠しても分かってしまいますよ」
「カチェ様。意外と抜け目ないです」
「好きな男の人のためなら、いくらでも意地悪になるのが女というものでしょう」
少し離れたところから二人を見ていたアベルは眉を顰める。
何か小声で会話している。
二人とも笑顔だが、妙な緊迫感がある気がする。だいたい視線にどことなく凄味がある。火花が散っているように見えた。
前にもウォルターの家で似たような気配があった。
ああしたときには近寄らないに限る。
こそこそとアベルは別の場所にいる怪我人の元へ行こうとしたが、誰か寄って来た。
見覚えがある。
若草色の髪、知的な印象のある落ち着いた雰囲気の女性。たしかクリュテという名の治療魔術師。
いつも王族兄妹の傍にいて万一の時に備えている。
「あれ……貴方は」
何の用事と聞く前にクリュテは腕を絡めてきた。
至近距離。意外なほど艶やかな表情。
「昼は死ぬほど戦って、夜は怪我人の治療。なんて頑丈な人なのかしら。私の好みなんだよね」
「えっ? あっ。えっと」
「初心な反応ねぇ。おねぇさんと後で人体の不思議について探求しましょう」
カチェとシャーレは開いた口が塞がらない。
一瞬、目を離した隙にアベルが良く知らない女と腕を組んでいる。
いったい何が起こっているのか。
油断も隙も許されない。
とりあえずアベルには再教育が必要だ……。
~~~~~
アベルたちは夜明け前に短い仮眠をとり、それから本来所属している強襲偵察隊に戻る。
シャーレはセジャンの看護部隊に任せた。
天候が悪化しつつあり、粉雪が降り始めていた。
合戦になるわけでもないのに一か所へ数万人の兵士を集結させておくと不都合がある。
だから山道を千人ほどの部隊で封鎖すると、残りの軍勢は旧ハイワンド領の各地に分散していった。
これから本格的な冬となり、降雪も始まる。
この地域は豪雪地帯ではないが、それでも膝ぐらいまで積もるかもしれない。
一般的に冬は気候が厳しいため大規模な合戦は起こりにくいが、皇帝国と王道国の戦争がこれほどまでに激化している情勢下では、どうなるか誰にも分からないのだった。
アベルたちは周囲を壁に守られたポルトへ帰還した。
街にはガイアケロンの勝ち戦を祝福する民衆が犇めいている。
住人の約半分は中央平原や王道国からの移民なので、心から勝利を祝っていた。
複雑なのは元皇帝国の人間で、彼らはポルトの復興を聞きつけて戻ってきた者たちだった。
とりあえず戦禍に晒されなければそれでいい……、そう自分たちを納得させているようにアベルには見えた。
だいたい民衆にとって貴族はあまりに遠く、生きる領域が違うのだと考えている者も多い。
そういう人間にとって王道国と皇帝国の違いはあっても、貴族とは税金を納める代わりに世の中を統治してくれる権威集団だと、割り切った態度を示すものだった。
牛は牛、鳥は鳥、貴族は貴族。自分たちは民である……。
雪が降り続き、城下町の屋根は白く染まっていた。
石畳の路地は雪掻きしてあるので通行できる。
これが土の道路だけで、しかも誰も整備しないような街だとたちまち泥濘化して、歩くだけで靴だけでなくズボンまで泥まみれとなる。
アベルは単独行動になり、連絡員が商人を装っている店に行く。
商店街の一角に小さな雑貨店があって、これといった特徴のない中年男が一人で働いている。
「何かいいものは入っているかな」
「注文の品が入りました。どうぞ」
「……」
アベルは小包を受け取る。
そのまま黙って店を離れ、くれぐれも尾行されていないことを確認しながらポルトの城へ戻った。
与えられた部屋に入り、小包を開ける。
保存食である燻製肉や胡桃などの種子類、それに布が入っていた。
誰も不審に思わないような品物ばかりだが、アベルは布に注目する。
よく見ると色の違うところがある。そこを解くと折り込まれた形で紙縒りが出て来る。
開いてみると文字がびっしりと書いてある。
バース公爵が自らしたためた密書であった。
内容はテオ皇子とガイアケロンの会合についてと、派閥の戦争方針について。
冬の間、テオ派閥は戦線を意図的に大後退させるという。
村という村、街という街を破壊し、放火し、民衆と共に西へ移動する。
補給、休息が困難になったイエルリングとディド・ズマの軍団は困窮するはずだという……。
アベルは息を飲む。
なんという思い切った作戦だろうか。
また、本当にそんな計画が実行されるのだろうか。
農民や市民の故郷に対する執着は、凄まじいものだ。
無理やり引き剥がすような状況になってしまうだろう。
しかし、それでも傭兵の略奪と暴虐に比べれば、僅かにマシというところか……。
ますます戦争は陰惨さを増してきた。
そして、会合について。
これは打ってつけの場所があるという。
簡易な地図と説明があった。
軍にとって戦略的に価値の低い、戦力の空白地帯がある。
そこはリーマ湿地帯と呼ばれている場所で、その名の通り広域に渡って湿原があるらしい。
湖沼も多く、移動手段は小舟のみだという。
日時を決めて、そこに双方の使者を送る。
人質を交換し合った上で代理人が詰めの話し合いをして、春か晩冬にいよいよ密会するという計画だった。
皇子たちとバース公爵はいずれも軍団と共に帝都を起ち、距離的にはだいぶ接近したベリコの街に滞在しているという。
アベルは手紙を懐に入れて、ガイアケロンの元へと急ぐ。
廊下は暗かった。
昼だが、雪が降っているため窓の多くは閉ざされているせいであった。
かなり積もりそうだなとアベルは感じる。
アベルは廊下を歩きつつ、ふと一つの可能性を思い立ち、歩みを止める。
もし、この一連の秘密活動が壮大な罠だとしたら……。
ガイアケロンとハーディアを釣り上げるための、手の込んだ陰謀。
熟練しきった老獪な猟師による、完璧なまでに計算された舞台だとしたら。
アベルは祖父バースを思い出す。
冷厳で傲慢な顔つき。累代貴族の証しであるような秀でた額や、人を突き放つような知性の宿った瞳が印象に浮かぶ。
しかし、ノアルトやテオを相手にしたときは一変させた。
見るからに徳の高い、穏やかな老人に見えた。
どちらも本当の顔だ。
必要なとき、必要な方を使うだけ。
だが、一瞬だけ垣間見えた孫への感情は演技ではなかった。
バース公爵は少なくても別れ際まで罠を考えていなかったはず。
本気で戦争終結と統治の安定を願っていた。
しかし、テオとノアルトという皇族は分からない。
アベルは疑いを持つ。
もし、ガイアケロンに同盟者たりうるものが無いと判断したなら、その瞬間にやはり理解し合えない宿敵と認知するのではないか。
その段階となって仕掛けてくる可能性……充分にあると思わざるを得ない。
そのために密使一人が、あるいは適当な人質が死ぬことになっても多大な利益となる。
なにしろ、王道国の英雄と戦姫を始末できるのだから……。
裏を勘繰れば切りが無かった。
テオ皇子にはそこまでの冷酷な野望はないかもしれない。
ガイアケロンとハーディアに利点を見出し、コンラートを窮地に追い込ませる役割を任せようとするかもしれない。
アベルはコンラート皇子を思い出す。
残忍で臆病で欲深い、そういう面相をした男だった。
とても皇帝国の統治者たる器ではない。
早く死ぬべき男だ。
しかし、大勢の貴族があいつに群がっている。守っている。
自分たちの正統性の証しであり、利益の源であるコンラートを手厚く保護していた。
外国と戦争している最中、皇族たちが大戦力まで持ち出して本格的に争いを始めれば……皇帝国の混乱はますます激しくなる。
事実上、内戦となって王道国との戦いも、さらに深刻化するに決まっていた。
ガイアケロンは、つい先日の合戦でコンラート軍団に痛撃を与えてみせた。
コンラートを失脚させるのにはまだ足りないが、テオ皇子の陣営からしてみれば、やはり巨大な魅力がハーディアとガイアケロンにはある。
そこに賭けてみるしかないではないか……、アベルは結論した。
信用だとか良心など考慮にもならない。
お互いに利用価値があれば、取り引きはなる。
アベルは人払いをした執務室に招かれた。
さっそく小さな手紙を懐から出して、ガイアケロンに渡す。
彼はじっくりと文面を吟味し、ついでハーディアも読み込む。
全て暗記して、地図だけは書き取り、手紙は早くも焼却した。
遥々とやってきた密書は燃え滓になる。
三人の間に沈黙が溜まる。
ハーディアが全てを見抜いていた。
「人質は可能な限り高位の者を要求します。この交渉はもともとテオ皇子からの提案。そちらがまず信用に値することをしてください。といっても所詮は些細な保険にすぎません。人質が犠牲になっても攻撃する、ということは有り得ます」
「ハーディア様。その通りです。僕がまず死ぬ役目をしましょう。武器は貴方たちに預けた上で、もしテオ皇子がお二人を罠にはめる素振りを見せたら、僕が抵抗します」
「テオ皇子は貴方の主ではありませんか。主に逆らうというのですか……」
アベルの決意にハーディアは驚きを隠さなかった。
「仕方ありません。陰謀とはそうしたものです。密使の僕をすでに騙している……使い捨てにする、という可能性。否定しません。そうなったときは覚悟して、ガイアケロン様とハーディア様のために戦います」
「むしろ我々が相手を罠に落とすかもしれませんよ。私たちと、手練れの仲間を連れていけば戦って勝てない敵などいないと考えます。犠牲はあるにしても、皇帝国の皇子を殺せるまたとない機会です」
「ハーディア様がやれというなら、やりましょう。でも、損となる戦いはしない主義のはずです。密約がなればきっとお二方の利益になる」
「……」
再び沈黙。
アベルは想像した。
まだ最終合意はないが、お互い遠距離から確認できる場所で落ち合うことになるだろう。
このとき、随伴させる人数はできるだけ少なくする計画だった。
もし取り決めと齟齬があれば会合は即座に中止……。
最後はガイアケロンとテオが単騎で接近して、二人だけで正々堂々と語り合う。
互いの人物を確かめ合う。
アベルはテオ皇子がどのような強者を連れてくるか想像してみる。
最初に思い浮かぶのは武帝流のクンケルとルネの親子。
それからノアルトの側近ドット・ベルティエ。
出会ったことは無いものの派閥の有能な魔術師や戦士もいるだろう。
友達みたいになった奴らだが……しかし、ガイアケロンを罠に落とすというのなら反撃しないわけにはいかない。
そうならないで欲しい。
しかし、貴族の策謀は冷酷だ。
密使一人の願望など無視されてしまう。
無視させないためには、ガイアケロンと同盟するのがいかに利益となるか、正確に報告しなければならないとアベルは考える。
「ハーディア。あまりアベルを責めないでくれ。苦しい立場だぞ」
「別に……そんなつもりはありません。お兄様」
「バース公爵とアベルは祖父と孫の関係だ。しかし、勝利と権力の為なら子や孫を犠牲にする者もいる。アベルはもはや我に与してくれると信じる」
ハーディアは分かっていたことでも絶句するしかなかった。
今、兄ガイアケロンはアベルを完全な仲間として扱っていた。
そうとなればアベルに釘を刺しておくしかない。
「アベル。何があっても兄のために戦うと誓いますね」
「はい。僕はもともと皇帝国に戻るつもりはありませんでした。密約の成否に関わらずガイアケロン様とハーディア様についていきます」
「……我は政治的解決というものが嫌いではない。それは知性と駆け引き、弁舌による戦いだ。殺し合いは最後の方法である。アベル。返答の手紙を書こう。どうした内容にするか、今晩じっくりと時間をかけよう」
三人の話し合いが始まった。
音もなく、雪はさらに降り続けている。
お読みいただき、ありがとうございます。
次、なるべく早く投稿します。




