不器用な両思いのふたり。-亮Side-
「だーれだっ」
突然後ろから抱きつく柔らかい感触。それが誰かだなんて、考えるまでもない。
だってこの部屋には、俺とこいつしかいないんだから。
「ハイハイ。愛果だろ。」
俺はそう答えながら、サラリと愛果の両腕から抜け出した。
「もぉー冷たーい。せっかく2人きりなのにっ」
ぷーっと頬を膨らませて怒った真似をする愛果。
いや、冷たくしているつもりはない。だた、どうしたらいいのかわからなかっただけだ。
本当は・・・内心まだドキドキしている。ただ、それが顔に出ないだけなのだが・・・
今までも、こんな風に人から冷たい人だと言われてきた。
だから今まで、‘彼女’というものも いたことがなかったんだ。
それなのに、どういうわけか愛果に懐かれ、付き合うことになったのだが・・・
愛果は、こんな俺のどこがよかったのだろう。不思議に思いながらも、いまだに聞けないでいる。
そんなことを考えていると愛果が口を開いた。
「もぉーごめんってば。そんな顔しないでよ。読書の邪魔しちゃってごめんね?大人しくしてるから・・・
続き、読んで?」
「ああ」
別に邪魔されたとも思っていないし、怒ってもいないんだが、返す言葉も見つからない。
だからまた、俺は本の続きを読み始めた。
けれど・・・
やっぱり悪かったかな?そんな気持ちも芽生えてきたりして。
「なぁ、愛果。退屈か?」
そう、聞いてみた。
「え?」
少しキョトンとした表情で言葉を探す愛果。
鈍感な俺でもだんだんわかってきた。愛果がこういう顔をする時は、大抵俺に気を使って言葉を探している時だ。
考えてみればそりゃー退屈だろう。ここは俺の部屋なわけで、特に愛果が興味を引くようなものは何もない。
なのに部屋の主が本なんて読んでたら・・・
いや、しかし、ただでさえ口数の少ない俺。部屋に愛果と2人でいたって、いったい何をしたらいいんだ?
そんなことを考えていると、
‘帰るか?’
そんな言葉が俺の脳裏を過ぎった。その瞬間。
愛果が恐る恐るといった表情で話し始めた。
「あ、えと・・・。邪魔、しないから・・・隣、座ってもい?」
「どうぞ。」
淡々と答えつつも、愛果の言葉に驚いた。てっきり俺が言わなくても、愛果の方から‘帰る’と言い出すと思っていたからだ。
いったい愛果は何を考えているのだろう?こんな俺と居たって退屈だろうのに・・・
なのに愛果はへにゃりと嬉しそうな笑顔を見せた。
なぜだ?なぜ、俺の隣に座れることをそんなに嬉しそうにするのだろう・・・
ー ストンッ -
そんなことを考えていると、ストンと愛果が俺の隣に座った。
ドキッ !!!
ヤバイ。なぜだ。愛果が隣に座った途端、俺の胸が高鳴りだした。
なんだこれ、女子かよ。胸が高鳴りだしたって、俺、まるで女子みてーじゃねーか。
いや、男だってドキドキくらいするだろう。
って、
・・・・・!!!!!
俺の心臓はさらにドクドクと早くなった。
俺の隣に座る愛果が、俺の服のひじあたりの生地を軽く掴んで、目を泳がせつつも上目遣いで何か言いた気に俺を見つめている。
ヤバイ、なんだこれ。
ヤバイ、こいつ可愛い。
いや、待て。これは俗に言う誘われてるってヤツなのか?
ならば俺も男だ。このまま押し倒して×××…
って、オイオイ。俺ってば何を考えているんだ。
いや、それよりこいつだよ。愛果は何を考えているんだ?
俺に襲われたいのか?いや、そうじゃなくて・・・
あーくそっいろいろ考えてたら頭の中がグルグルしてきた。イライラする。くそっ
そんなことを考えていたら俺は・・・
「離せよっ!!!」
気付いたときには愛果の手を、振り払っていた・・・
「・・・・・・・」
一気に泣き出しそうな表情になる愛果。
・・・そんな表情するなよ。俺は愛果を泣かしたいわけじゃねぇ。ただ、どうしたらいいのか分からないだけなんだ。
なのに・・・
「帰れ」
俺の口からは恐ろしく冷たい声で、そう言い放たれていた・・・
「・・・・・」
愛果の顔が凍りついた後、愛果はそのまま何も言わずに顔を伏せた。
そして・・・
「ふ、ふぇ・・・・・」
肩を震わせながら、静かに泣き始めた。
「ご、ごめ・・・なさい。か、帰る・・・ね。」
「ああ」
あーなにやってんだ、俺。泣かせてどーする。
あーなんでこんな時まで気の利いた言葉のひとつも出てこないんだ。
つくづく俺ってヤツはダメな男だ。
愛果だって・・・きっとこんな俺に愛想を尽かせただろう。
・・・じゃあ・・・俺は?
俺はこのまま愛果を・・・帰らせてしまっていいのか?
このまま帰らせてしまったら・・・次は、あるのか?
そう考えていると、今度は急に不安になってきて
‘愛果’
そう、呼び止めようとした時。
「ねぇ」
愛果がくるりと振り向いてそう言って来た。
「え?」
思いがけずびっくりする俺に、愛果は言葉を続けた。
「今日は・・・ごめんなさい。えと・・・また、2人で会ってくれる?
それとも・・・私、嫌われちゃったのかな・・・」
泣き止んだばかりの切なげな表情で、そう、言って来た。
「え? いや、あー」
どう答えたらいいんだ。こういう状況に俺は慣れていない。
けれど、こうなったのは俺のせい。ここで愛果を帰してしまったら・・・
嫌だ。愛果を帰したく、ない。
ここは男らしく、‘帰るな、お前が、好きだ’ これだ。
よしっ!!
「あー・・・ごめん。」
「え・・・」
あー、なにやってんだ。俺。考えてる言葉と全然違うじゃねーか。
これじゃまるで、‘嫌われちゃったのかな’って言葉に、やんわりと‘そうなんだ’って言ってるみてーじゃねーか。ヤバイ、早くフォローしなくては・・・
「あ!えとっ!あーーーあの!その、なんだ、えー 嫌いになんて・・・なって、ない。
むしろ・・・その、逆・・・。」
俺から出た言葉は、精一杯の、そんな 男らしくない言葉。
俺の心の中は、今まで経験したことない、言い表せない気持ちが広がっていた。
そして、愛果の反応は・・・
「・・・・・・ほん、と?」
静かに、また、涙を流しはじめた。
そして・・・
「ねぇ、ホント?私、嫌われてない?その逆って、ホント?えっと、その、それは・・・
好きって・・・こと?」
「ああ」
俺の返事に、愛果は涙を流したまま、くしゃっと満面の笑顔になった。
「えへへ、嬉しい。私ばっかりが、好きなのかと思ってた。」
「いや、そんなことは・・・」
「だって亮くん、全然好きだとか言ってくれないんだもん。」
「あ、いや、それは・・・」
「ふふふっ。でもね、そんなところも・・・好きだよ。」
「え?」
「亮くんてね、言葉数も少ないし、何を考えてるのか分かんないし、
近寄りがたい雰囲気もあるんだけどね」
「ああ。」
「でもね、言葉数が少ないのは、要点をまとめる力があるからで、
ぶっきらぼうに見えるけど、実は心の中では、相手のことちゃんと考えてくれてて。
さっきだって・・・私を気遣って‘退屈か?’って、聞いてくれたんでしょ?」
「あー、まぁ、そうだな。」
「それにね。言葉数は少ないけど、いつもちゃんと私の言葉聞いてくれてて、必ず返事してくれて。
そして私のお願いとか・・・受け入れてくれるじゃない。
だからっていいなりになるわけでもなくて、ちゃんと自分の芯は持ってて。
そーゆー芯が強くてあったかいとこが・・・好き。 あとね・・・」
「え?」
途中から、愛果がイタズラな表情を浮かべて、言葉を続けた。
「今みたいに、時々、クールなフリして実は内心照れてるとこ・・・すごく・・・だいすき。」
「・・・・・・ごはっ///」
俺は言葉を失くした。けれど、もう、愛果を泣かせたくない。だから
俺は俺なりの言葉を探した。
「あ・・・愛果。やっぱり・・・もう少しうちに、いろよ。後で・・・送って行くから・・・」
「うん!」
愛果みたいに、言葉数も多くないし、好きだとかも言えない俺だけど、
俺は俺なりに、愛果を大切にしたい・・・そう、強く思った。
俺は・・・愛果を好きだからこそ、今まで不安だったんだ。
愛果は、こんな俺のどこが好きなんだろうって。
そのうち・・・嫌われてしまうんじゃないかって・・・。
けれど、俺も、愛果の俺を受け入れてくれるところや
女の子らしいしぐさ、喜怒哀楽が顔に出るところ・・・
他にもたくさん・・・こんなにも、愛果のことが好きだ。
だから、これからは泣かせたりしない。
「おいで、愛果。」
俺はソファーに座ると、愛果に隣に座るように促した。
そして・・・
「さっき、俺の隣に座ったとき、何か言おうとしなかった?」
「え?あ、あのね・・・」
そういうと、愛果は照れた表情で、俺の肩に寄りかかってきた。
「こうしてもいい?って・・・聞きたかったの。」
「そっか。」
俺は俺の肩に寄りかかる愛果の頭を優しく引き寄せた。
「え?亮くん、こーゆーの、嫌がるかと思ってた・・・」
愛果のびっくりした顔。
「いや、そんなことないよ。」
そして、愛果の幸せそうな顔。
そうか。ふたりで何をしたらいいんだって、そればかり考えていたけど
そうじゃない。
ただ、ふたりでいるだけで、こんなにも・・・心地いい。
俺の部屋のソファーが、
この日から ふたりのお気に入りの場所になった。
-FIN-
最後までお読みくださりありがとうございました。
愛果Sideも合わせてお楽しみいただけたら嬉しいです。