夕立ち
雨が通り過ぎるまで、と思い喫茶店の扉を開けた。
窓際に腰掛けると、髪を後ろに束ねた、小柄な二十二、三歳というところの娘がメニューを持ってきた。
水の満ちたグラスを差し出されるのと同じにして、コーヒーを頼んだ。
「かしこまりました」明るい声でそう言うと彼女はメニューを片手に奥に引っ込んだ。
注文を繰り返す声がきこえる。
目を落とすと、グラスには雨粒のような水滴がいっぱいについていた。透明の側面をしずくが落ち、テーブルとグラスの境界を滲ませた。
また、少し雨が強くなった。ぼんやりと見上げるとしかし西の空はもう明るかった。
コーヒーが差し出され、一口すすると唇が灼けた。 猫舌のくせに、冷ましもしないですぐに口をつけてしまうのは、せっかちだからだろうか、それとも手持ち無沙汰に落ち着かないためだろうか。
店内に客はまばらで、小柄な店員の娘は窓際に顔を寄せ、ほう、とひとつ溜め息をついた。
彼女の白い溜め息が渦を巻くまぼろしが見えた。
彼女は振り返り、視線がぶつかった。
あわてて目を逸らし、道を見やると、駅前から走って帰る人の撥ね上げる水が描く軌道を捉えた。
目を閉じて映像を反芻しようとしたが、上手く憶い出せない。