女好きの騎士団長に女だと偽って仕えた俺、男だとバレたら求婚されました
この国の騎士団長はおかしい!
女好きだから騎士を全員女性で揃えているらしい。
そんなの許されるのか!?
国公認でセクハラし放題のハーレム職場じゃないか!?
おかしい! 絶対におかしい!!
俺も入る!!
◇
幸い俺は女性と間違えられる容姿をしている。
女だということにして騎士団に入ることにした。
騎士団への採用係は王宮の近衛兵で、特に身体検査がある訳ではなく、剣術や槍術、騎馬技術を見られただけだった。
「合格!」
俺はあっさり騎士団に入れてしまった。
「あんなに可愛いのに、恐ろしい……!」
俺を合格にして去って行く近衛兵の震える声が聞こえてくる。
なんだ……。
女だらけの騎士団で何かあるのか……?
『あんなに可愛いのに』……『騎士団長の餌食になってしまうなんて——』!!
これだ!!
続く言葉があるとすればこれしかない!!
おのれ騎士団長め! 許せん!!
◇
「新しく騎士団に採用されたアリシアです」
俺は騎士団に着くと門番をしている女二人に声をかけた。
騎士団員なのだろう。
女性用の騎士の鎧と小さな槍を持っている。
ショートカットのボーイッシュな子とロングヘアを一つに結んだ子、どっちも可愛い。
シュッ!
シュシュッ!
左右から俺に槍が飛んでくる。
俺は自分が女の振りをしているのも忘れて思いっきり後ろに飛び退いた。
「ふ、無様だが避け方はちゃんと出来るじゃないか」
「ここじゃ女みたいな声を出してると命がいくつあっても足りないぜ」
二人の女騎士が俺に言う。
いや、いいアドバイスしてやったりみたいな顔してるけど、
「普通に殺されそうだったんですけど……」
「「ここは、騎士団だからな」」
答えになってない。
俺は不審に思いながらも騎士団の中に足を踏み入れた。
ガタッ
荷物が俺の手から滑り落ちた。
なんだここは……!
玄関ホールには物が散乱して、淀んだ空気が肌にまとわりつく。
「新入りか? 団長のところに案内しよう」
通りかかった人が声をかけてくれる。
髪を一つの三つ編みにして、ちゃんとしてそうな女性だ。
「今日は休日だからな。いつもはもっと片付いているんだが」
玄関ホールから上に続く階段に、何故か女の子が倒れている。
「おい! 酔っ払ってないで、部屋に戻って寝ろ!」
ドカッと倒れている女性を蹴り飛ばしながら上に行く。
……ちゃんとしてる女性で、これなのか……。
トントンッ
最上階の部屋の扉を三つ編みの女性が叩く。
「騎士団長、新入りをつれて来ました」
ガタン、ガララ、ガッシャーン!
部屋の中からすごい音がする。
「団長……あなたの大好きな女の子が増えたからって大喜びしないでください」
三つ編みの女性が言いながら扉を開ける。
団長、新しい女の子が来たからって喜びすぎて部屋で小躍りでもしていたのか!?
想像以上の女好きじゃ……。
「……ううっ」
部屋の隅で髪の長い男性が目に涙を浮かべていた。
「……もう、女なんて……見たくない……」
うわごとのように呟いている。
「まあ、そんなに怯えるな。まだ、騎士団に染まってない子だ」
三つ編みの女性が俺を見て言う。
「かなり素質はありそうだけどな」
「素質って……なんですか……?」
嫌な予感しかしないが、俺は聞いてみる。
思いの外、声がかすれていた。
ふっと三つ編みの女性が笑って、団長がハッと俺の方に身を乗り出す。
こんな女の子みたいな声を出すなんて、騎士団に来てあまりの出来事の連続に俺は相当疲れているんだと思う。
三つ編みの女性は、俺を騎士団長の部屋に入れると扉を閉めた。
怯えた騎士団長と二人で残されてもどうすればいいものかと思っていると、落ち着いた声が聞こえて来た。
「すまない。君はまだ来たばかりで騎士団の化けも……女たちとは違うのに……」
穏やかに微笑むイケメンがいた。
しかしさっきの怯えた姿を俺は見ているんだから取り繕えていない。
「……どういうことなんですか、こ……この場所の女性たちは……おかしい……っ!」
俺は涙を流していた。
団長に頼りなさを感じていても、俺はこの異常な状況を理解している人として安心してしまう。
「……今に分かる……君にも素質があるようだから……」
団長が穏やかに俺の髪を撫でる。
「わ、分かりたくないです……」
俺は上目遣いで団長に訴える。
団長が俺を見て息を呑む。
団長は目を伏せると、俺から目を逸らして横を向いて小さな声で呟いた。
「こんなに可愛いのに、女の子だなんて……可哀想に……」
◆◇◆
俺は騎士団の寮での部屋に案内されていた。
同室に女の子がいたらいいなと思っていたけど、一人部屋だった。
ホッとしている自分が意外だったが、女性と同じ部屋にされた時のことを考えたら当たり前だと思った。
……とんでもないところに来てしまった。
『俺はこの騎士団の団長のローレンス・グレンフェルだ』
そう名乗った騎士団長だけが頼りだけど、俺のことも警戒しているようだった。
背中まで伸びた長い金髪に深い青の瞳と儚げな微笑みが印象的だった。
騎士団長のローレンスは、どことなく女性的な雰囲気があるが、目鼻立ちの整った顔と細身だが背が高く鍛えられた身体は男性のものだった。
……女たちがおかしいから、ローレンス団長が一番女らしく見える……。
ローレンスを思い出して何故か胸がドキドキする。
女の子の間で揉まれたくて来たのに、一番気になるのが男の団長だなんて……。
◇
次の日の朝に廊下にでると、散乱していた物が廊下の横に積み上げられて、淀んだ空気が少しはマシになっていた。
普通の家なら散らかってると思うが、昨日の様子を見ているだけに、一晩でここまで綺麗になったことに驚いた。
やれば出来るじゃないか!
俺の中で女たちへの好感度が少し上がった!
——だが。
「なんだ、アリシア、食べないのか?」
食堂でそれは起こった。
俺がゆっくり朝食をとっていると、食べ終わった女たちが俺の周りに集まってくる。
「肉を残してるじゃないか!」
「デザートも!」
俺の朝食が乗ったトレイに目を付ける。
「……あの、食べてる途中で……」
と、言ったところで女たちを止められるはずなどなく。
「仕方ないから、私たちが食べてやるよ」
俺の朝食トレイに女どもの手が伸びたと思ったら、あっという間に食べ物が消えた。
「……まだ足りないな」
バタバタと女どもが去って行く。
……お、俺の朝食が……。
「間に合わなかったか……っ!」
ローレンス団長が走って俺の横に来た。
「……アリシア……食事は食べられたか……?」
答えのわかっていることを聞く。
「お、お肉が……楽しみにしていたデザートまで……っ」
俺はローレンスの目を見て訴えた。
ローレンスは悔しそうに歯を食いしばっている。
「昨日のうちに伝えておくんだった、女騎士たちが飢えた野獣だということを……」
……知っていたら、好きなものから食べたのに……。
「アリシア、俺の食事が残っているから食べるといい」
ローレンスが誘ってくれる。
「団長もお腹が空くでしょう? 私は一食くらい抜いても平気です。団長が倒れてしまう方が騎士団が困りますから、どうぞ、団長はしっかり食べてください!」
俺が食事をしていたテーブルから立ち上がると、ローレンスの驚いた顔がすぐ前に見えた。
「……君は……本当に、女性なのか……」
……いや、男です。
俺はローレンスに伝えたくなった。
◇
朝食を食べられずに挑んだ午前の訓練は散々だった。
「門番に見どころがある新入りだと聞いていたんだが、当てが外れたか?」
俺を倒した女騎士が言う。
お腹が空いて力が出ない状態で避けられる程甘い相手じゃなかった。
ちゃんと食事が出来ていれば負けることはなかったのに……!
涙が出そうになる。
昨日もローレンスの前で泣いたのに、俺は涙脆くなっている。
「アリシア……! 大丈夫か……!?」
ローレンスが駆けつけてくれた。
「お前たち、何をしている! アリシアは今日が初めての訓練なんだ、ちゃんと教えてやれ!」
ローレンスの訴えを女どもが笑う。
「あはは、団長、ここは騎士団だぞ。そんな甘えが通じる訳ないだろう。甘ったれた男は王太子様にでも泣きついて慰めてもらいな」
ローレンスは悔しそうだ。
悔しがるローレンスの姿は、粗暴な女どもとの対比で、ますます儚げで女らしく見える。
この騎士団で、一番女らしくて優しいのって団長じゃないか?
俺はここに女の子目当てで来た。
なら、仲良くするべきなのは、この女より女らしい男の騎士団長のローレンスなんじゃないのか?
「ローレンス団長……大丈夫です。私はこの人たちに負けるほど、弱くありません!」
俺は、ローレンスと女どもの間に割って入った。
「ほお、まだやれるってのか」
俺を倒した女騎士が再び槍を構えた。
「……アリシア……っ!」
俺は、心配そうに見つめるローレンス様を振り返って微笑む。
「大丈夫です、心配いりません!」
誰かのために俺は強くなれる……!
シュッ
って、後ろ向いてる時に攻撃するなよ!
俺は槍の気配だけを頼りに避けた。
「へ、やるじゃないか!」
周りの女騎士どもが俺の動きを褒めた。
「ふ、戦場では敵は待ってくれないぞ」
俺と対峙してる女騎士は悪びれない。
「……!」
なら、こっちも女だからって手加減しない!
なりふり構わず、やらせてもらう!!
キンッ!
——バタッ。
女騎士が倒れた。
はぁはぁ。
手強かった……でも、勝った……!
俺はローレンスの方を見ようとする……が。
「すごいじゃないか、新入り!」
「最初にやられた振りしたのは演技だったのか? それでこそ女だ!」
女どもに囲まれる。
「あ、ローレンス団長……っ!」
女どもの輪から手を伸ばすがローレンスには届かない。
「アリシア、ここでは夜会のように猫を被り続けなくていいんだ」
「女が真の姿をさらけだせる場所が騎士団なんだ」
へ? 女の真の姿?
俺は夜会の様子を思い出した。
小さくて可愛い女性が男の注目を集めていた。
『普段は騎士団にいるからなかなか夜会に来ないらしい』
『大人しくて可愛い……どうやったらお近づきになれるんだ……!』
あの時の彼女を最近見た気がする……。
確か……階段に酔い潰れて寝て……三つ編みの女性に蹴飛ばされて……。
え……。
——今朝は同じ彼女が俺の肉を奪って行った……。
……え……まさか……っ!
これが女性の真の姿をだと言うのか……!!
俺は衝撃で動けなくなっていた。
「団長は男同士で仲良くやってればいいんだよ。何せローレンス団長は王太子のお気に入りなんだからな!」
……は?
「じゃあ、行くぞ! 新入りの歓迎会だ!」
「おおー!」
俺は女どもに食堂に連れて行かれた。
昼時ではあるが、酒を飲み始める。
コイツら昨日までの休日にも酒を飲みすぎて酔い潰れてたんじゃなかったのか!?
——本当にヤバいところに来てしまった……っ!!
◆◇◆
俺の歓迎会は昼に始まり、夜中まで続いた。
何度か寝そうになったが、叩かれたり酒をぶっかけられて寝かせてもらえなかった……地獄だ。
目が覚めると自分の部屋だった。
「うっ」
部屋の外に出ると据えた匂いに吐き気がする。
昨日の酒のせいで冗談じゃなく本当に吐く。
「……う……うう……」
俺は廊下に死屍累々と続く女どもの残骸を無視して扉を閉めた。
自分のベッドが天国のように見えた。
昨日は無かった水の瓶が置いてある。
——こんな気の効いたことをしてくれたのは、女ども……な訳がない……。
ローレンス団長——!
水の瓶を飲もうとしたらひらりと紙が落ちた。
『アリシア、大丈夫か? 今日は騎士団の訓練は無理だから、ゆっくり休んでくれ』
……名前が書いてない。
けど、やっぱりこんな事をするのはローレンスだけだろう。
「頭……痛ぇ……っ」
俺は、ローレンスの事を考えながら眠りについた。
◇
翌日から本格的に訓練がはじまる。
二日酔いで一日を無駄にした女騎士たちはローレンスから厳しく叱られてはいたが全くこたえてないようだった。
ローレンス団長……弱い……!
俺はそんな女騎士たちに呆れてため息をつくローレンスを慰めたいのと、酔い潰れた俺を部屋に運んでくれたお礼が言いたくて近づこうとするが、女どもに行く手を阻まれる。
「今日はどんな訓練をする? アリシア」
「私と槍の手合わせをしよう、私は手強いぞ」
俺はズルズルと訓練場に引きづられて行く。
「ロ、ローレンス団長……っ!」
俺の声が虚しく響く。
それから週末まで女どもに離して貰えなかった。
……俺が騎士団に入る前に望んだ通りになっているんだが……違う、何もかもが違う。
明日は休日で、やっと女どもから解放されると思ったのに、俺はガッチリと両肩を女どもに抑えられていた。
「さあ! 週末だ! 街に飲みに行くぞ!!」
「え!?」
街って……この野獣たちを野に放っていいのか!?
ズルズルと、俺は強制的に飲みに連れて行かれる。
「お前は素質があると思ったんだ」
初日に騎士団の部屋に案内してくれた三つ編みの女性が言う。
「そ、素質ってなんですか……?」
俺はアルコールの少ない蜂蜜酒に入ったグラスを両手で持って聞く。
こうしないと勝手に飲まれて、『それでも騎士団の女かーー!!』と、もっとアルコール度数の高い酒を飲めと強要される。
「素質っていうのは、男らしくなれる素質さ。敵に可愛い女の子だと舐められるのは癪だからな」
「え……」
……そりゃ俺は男だから素質はあるだろう。
ただ、男らしさの解釈が違う……。
女どものやってることは、単にだらしなくて粗暴なだけだった。
……素質あるって言われても、ああなったら人間おしまいだ。
ヒュッと俺の顔を目掛けてグラスが飛んでくる。
避けると、ガチャーンと壁に当たって割れた。
「こらー! アリシア! 酒を飲めー!」
怒鳴り声が聞こえる。
「の、飲んでますっ!」
俺は両手で蜂蜜酒のグラスを強く握りしめた。
しかし……ここでは粗暴でなければ生き残れないのかもしれない!
酒場で暴れる女どもを見ると、店員は扱いに慣れているようだった。
割れたグラスは黙って片付けられて、『割れたグラス(騎士団に請求)』と書かれた壁の張り紙にチェックが入れられる。
毎週どれだけ迷惑をかけてるんだ!?
俺が両手で蜂蜜酒のグラスを死守していると、女どもに前後左右を囲まれる。
「アリシア……いい加減、そのグラスは離せ」
——街の酒場で、騎士団の同僚の女の子たちに囲まれる。
期待していたシチュエーションなのに……た、助けてくれーー!!
もう嫌だーー!!
「アリシア! 大丈夫か!?」
そこにローレンス団長が現れた。
「お前たち、歓迎会は終わっただろう。今日は、アリシアを連れて帰るぞ!」
ローレンスに手を掴まれて、テーブルから立ち上がる。
「あ、待て団長!」
走って逃げる俺とローレンス団長に、酔っ払いの女どもはついてこれなかった。
はぁはぁはぁっ!
酒場から騎士団の寮まで全力疾走で戻って来た。
「ここまで来れば大丈夫だろう」
息が切れてる俺と違って、ローレンス団長は息切れしていない。
俺だって体力には自信があったが、さすがに騎士団長なだけあってローレンスはそれ以上だった。
ただ、女騎士たちの数の多さとあまりの
だらしなさに手を焼いているんだろう。
「ローレンス団長……危ないのに、私なんかを助けていただいて……ありがとうございます! それに、この間も、ベッドまで運んでいただいて……」
「気にするな……まだ女になっていない人間を保護するのも騎士団長の役目だ……」
「……そうなんですか……」
今の俺には分かる……女になると言う意味が……!
「……うっ!」
俺もローレンスにあんな化け物になると思われているのか……っ!
……誤解されていることが辛くて涙が溢れてくる。
「アリシア……っ! 大丈夫だ……ああなってしまえばすべて忘れられる……俺は何人もそういう女を見て来た……! 大丈夫……大丈夫……」
ローレンスは俺を落ち着かせようと抱きしめてくれる。
けど、『大丈夫……』と言う手が震えている。
ローレンス自身が恐怖に耐えて、自分に言い聞かせているようだった。
「ローレンス……団長……!」
俺はそんなローレンスに抱きついた。
ギュッと両手を開いて、背中に手を回す。
この狂った騎士団で、俺だけでもローレンスを支えてやりたい……。
「アリシア……!」
ローレンスの声に少し力が戻っていた。
——けれど、ハッとローレンスが何かに気づいて、俺の身体を引き離す。
「まさか……そんな……!」
ローレンスが俺の上着に手をかける。
俺は、余暇のためのシャツとカーディガン姿だった。
「ない……! あるはずのものが……君——アリシアには、ないっ!」
ローレンスは俺のシャツの下を見つめている。
そして、俺のシャツが、ローレンスの手によって左右に引き裂かれた。
シャツのボタンが左右に飛び散って、地面を転がる。
ローレンスの目がカッと見開かれて、俺の胸を見ている。
そこには、あるべき物がなかった——。
「アリシア……君は、男……なのか……!」
胸のない女性だっているぞ……いきなり服を破くって……。
でも、俺はローレンスの顔を見れずに横を向いた。
「……そうです……男です」
静寂に包まれる。
しばらく沈黙が続いた後に、ローレンスは唇を噛み締めた。
「君は……何で、何でこんな危険な場所に来たんだ!!」
……本当にな。
◆◇◆
俺は団長の部屋にいた。
「男だとわかったからには、君をあんな危険な場所には置いておけない……!」
団長は俺を厳重に保護してくれるらしい。
「大丈夫か、女たちに何かされなかったか……」
椅子に座った俺にローレンスが優しく聞いてくる。
「……何も……されてません」
「それは、良かった」
ローレンスがにこりと微笑む。
けれど……ローレンスの俺への接し方が変わった。
俺の横に座って、俺の肩を抱いて、もう片方の手が俺の手を握っている。
……これは……。
俺には覚えがあった。
容姿が女の子以上に可愛い俺は、騎士団に入る前は男どもに追いかけられていた。
夜会では、ドレスで着飾った可愛い女の子がいるのに、そっちのけで地味な男の正装をしてる俺が、男に壁際に追い詰められて口説かれていた。
だから、女だらけの騎士団に入ろうとしたのに……!
「や、やめてください……!」
俺はローレンスの手を払いのけて立ち上がる。
「俺は男から逃げるために騎士団に来たんです!」
なのに、女だらけの騎士団で、たった一人きりの男に迫られるなんて……!
「その気持ちは分かるさ……」
「え……?」
ローレンスが言う。
……ローレンスは俺ほど女に見える容姿ではないけど、女性より女性らしい内面が女らしく見せていた。
俺自身も、そこに惹かれたんだし——。
「俺は、長年、王太子に口説かれているんだ……。男に興味がないと断ると、女の実態を見せつけるための騎士団長にされてしまった……」
「は……?」
……男に迫られて、俺より苦労してる人がいた。
「で、でも、俺と同じ苦労をしてるなら、俺が男より女の子の方が好きだって知ってますよね!?」
王太子が嫌でこんな場所に閉じ込められているんだから、ローレンスだって男には興味がないないはずだろう?
「俺は……騎士団で女たちの実態を知ってしまったからな……」
ローレンスが遠い目をした。
「でも、それは騎士団の女たちがおかしいだけで……」
「君は、騎士団でのような女を外の世界で見たことがあるか?」
ローレンスに問われる。
「え? そりゃないけど……」
俺の心がざわついた。
「そうだ……外の世界にはいない……だが、この騎士団の女どもも外には出て行くんだ」
俺はハッと思い出した。
夜会にいた騎士団の女性……完璧な可愛い女の子に擬態していた……。
『アリシア、ここでは夜会のように猫を被り続けなくていいんだ』
『女が真の姿をさらけだせる場所が騎士団なんだ』
——女の真の姿……!
ありのままの——。
俺は愕然とした……。
すべての女の本質が、騎士団の女どもと同じだと言うのか……!!
ブルっと身震いがした。
部屋は、少しも寒くないはずなのに……。
「だから、俺には君しかいない……」
ローレンスが俺を抱きしめた。
「醜い女になると知っていても、俺は君に惹かれることを止められなかった……!」
俺の頬にローレンスの手が触れる。
温かい……。
「それが男なら、こんなに嬉しいことはないだろう……」
俺の頬にローレンスの頬が触れる。
「ローレンス……」
……嬉しい……。
そうだ……俺も、男だと知りながらローレンスに惹かれていた……。
あんなに嫌だった男から迫られること……なのに、ローレンスは違う……。
——ローレンスの唇が俺に重なった……っ!
「ダ、ダメだ! やっぱり、男同士なんて……!」
俺はローレンスの身体を撥ねつけた。
「……気持ちは分かる。俺も時間がかかった。だけど、女の真の姿を知ってしまったら、女と結婚するなんて出来ないだろう?」
そうかもしれないけど……。
「アリシア、君の男性としての本当の名前はなんなんだ?」
ローレンスが優しい顔で聞いてくる。
「……アリシオ……」
性別がバレたら名前は聞かれるだろう——。
「アリシオ……か……」
ローレンスが俺の名を口にして、大切な物みたいに微笑む。
キュッと胸が締め付けられた。
「アリシオ……俺との結婚を考えて欲しい」
「け、結婚……!?」
ますます胸が締め付けられる。
「どうしても嫌なら無理強いはしない。ただ、俺には君だけだから、答えが出るまでずっと待つよ」
ローレンスの微笑みから目を逸らす。
男としての名前を呼ばれて結婚を申し込まれるなんて…………嬉しい……。
けど、ローレンスは俺が女なら求婚なんてしなかっただろう。
俺は、男と分かっていても好きになって……男同士が嫌だと思ってるのに……こんなに嬉しいんだ……。
絶対……ローレンスより、俺の方がローレンスのことを好きだっ!
自覚すると……なんか悔しい……。
「……か、考えてはみますよ」
そういったけど、もう答えは出ていた。
「ありがとう! アリシオ!」
無邪気に微笑むローレンスが眩しくて、俺は真っ赤になった顔を伏せた。
たぶん、もう俺の気持ちは伝わってる。
あとは、俺が気持ちに素直になれるかどうか——。
※おまけ
俺は騎士団長の側近となって、ローレンスの部屋に一緒に住んでいた。
「見どころがあると思ったのに……」
女たちとすれ違う時にはがっかりされたが、見どころがあるってお前らみたいにだらしなく粗暴になるって事で、それは貶されてるのと同じだ。
「しかし、王太子が許すかな……?」
三つ編みの女性が言う。
「女の実態を見せて、ローレンス団長を女嫌いにさせようとした人だ。アリシオの存在を許すとは思えない……」
ローレンスに女の実態を見せて女嫌いにさせることに自分たちが利用されてるって自覚はあるんだな。
だらしなくて粗暴が良くないって分かってるんだよな。
「分かっていなければ、夜会で猫なんてる被れないだろう」
……っ!
そうだ、コイツら分かって、完全に男を騙すつもりでやってる……!
「よ、良かった、騙されないで……!」
ホッとしてる俺の横で女たちは笑う。
「はは、男はアリシオとローレンス団長だけじゃないからな。いくらでも騙せる!」
「くっ……!」
すまない、男たち!
「……それで、そんなことより王太子だろう」
そうだった。
騙される男のことなど、俺も実はどうでも良かった。
「……王太子か……。ローレンス団長を女嫌いにしてくれた恩人……どんな人なのか……?」
「恩人じゃねぇだろう、恩人じゃ」
女たちが言うが、言い方が汚い……。
「恩人だ」
……きっと、王太子も女に酷い目に遭わされたのだろう……同情できるな。
◇
俺が女性が優しくて可憐で守ってあげたい相手だと思われていると知ったのは十一歳の時だった。
「……ど、どうして、そんな嘘を……!?」
俺が母上——王妃に尋ねる。
「王太子は、お母様が違うって言うの……?」
にこりと王妃が笑うが、ゾッとする笑顔だった。
「いえ……お母様は優しいです……」
俺には……。
父上——国王にはどうなのか知らない。
俺は母上の後ろで小さくなっている国王のことを悲しい目で見つめた。
「では、騎士学園に入学した時の新入生の代表挨拶はちゃんとできるわね、王太子?」
「はい……母上……」
『私は立派な騎士になって、心優しく可憐な女性たちを守ります!』
俺は、新入生代表の誓いで、嘘をつくことになる——。
「王太子が騎士ねー、なれるのか? こんなに弱くて!」
双子の妹が俺にのしかかって首を絞める。
「い、痛い! やめて! 止めて、お姉様!」
「こんなことで根を上げるなんて、男ってダメだな」
助けを求めた三人の姉たちはため息を吐く。
「姫様方、王太子様、おやつの用意ができました」
「おう、今行く!」
メイドがテーブルにお茶を運んで、焼きたてのお菓子の匂いが漂ってくる。
お姉様と妹がテーブルに着くが、俺は妹にやられた後でそのまま気を失う……。
——クシュンッ
目を覚ますと陽が傾き、部屋は寒くなっていた。
テーブルの上には焼き菓子などなく、紅茶もひっくり返られていた。
どんな野獣が通った後なんだ……。
これが俺の知っているありのままの女たちの姿だった。
ブルっと身体に悪寒が走る。
「……さ、寒い」
「少しも寒くないぞ!」
俺の後ろに妹がいた。
「王太子は、騎士の学校に行くんだ、私が鍛えてやるから、かかって来い!」
部屋がもっと寒くなる。
——そんな俺に、運命の出会いがあった……。
「ダメだよ! 王太子がまだなんだから、残しておいてあげないと!」
俺が遅れて騎士学園の集まりに行くと、一人の男がみんなに言っていた。
見るとみんなが座っている真ん中のテーブルにお菓子が置かれている。
「あ、王太子、ここが君の席だよ!」
男が俺に気づいて笑いかけた。
俺の席にはお菓子とお茶が置かれていた。
とっていてくれたのか……俺のために!
男は、肩より長い金髪に深く青い瞳をしていた。
女性よりも女性らしく、優しいこの人の名前はローレンス・グレンフェル。
俺はこの時、この人に恋をした——。
——あれから、十二年……俺はまだローレンスに恋していた。
「まて! 俺は男だ! そして、王太子、お前も男だろう!?」
ただ、ローレンスは女性の真の姿を知らない。
俺が騎士学園の入学式についた嘘をまだ信じている。
だから、目を覚まさせるために、ローレンスに女性だけの騎士団の団長をやらせたんだが……。
「結婚する!? ローレンスが、あの騎士団の団員と!!?」
嘘だろう……何かがおかしい……。
あんな女どもと結婚出来る男などいるはずがない!
俺は騎士団に急ぐ。
門番の女性二人が攻撃してくる。
俺は王太子だぞ!?
サッと攻撃をかわして建物に走った。
バタンッ
追いかけてくる門番は扉が閉まると大人しく持ち場に戻った。
どういうルールで動いてるんだ?
「……うっ」
ホッとしたのは束の間。
据えた臭いと淀んだ空気が肌にまとわりつく。
しまった! 今日は休日だった。
階段にも廊下にも女が倒れていた。
酷い臭いだが、女どもが動いてないだけマシか……。
俺はそのまま騎士団長の部屋に辿り付いた。
扉の奥から声が聞こえた。
「アリシオ……」
「ローレンス……」
ローレンスの甘い声と、もう一つの可愛い声……女か!?
ローレンスは女に騙されているのか……。
騎士団で外ではどんなに着飾って優しくお淑やかでも、真の姿は違うと学んだはずだろう……!
「騎士団長の部屋の前で何している!!」
後ろから声をかけられた。
休日だというのに正気の女騎士がいたのか!?
三つ編みを一つに結び胸の方に垂らした女騎士だった。
「どうした!」
ガチャッと扉が開くとローレンスが出てきた。
長い髪が乱れて揺れて、相変わらず美しい。
「王太子……結婚を知らせたら、来ると思っていたよ」
ローレンスの後ろから、小さな可愛らしい女性が顔を出した。
「この方が、王太子……」
信じられないくらい可愛い……だが、女だっ!!
「アリシオは男だ」
後ろにいた三つ編みの女騎士が言う。
「は……?」
よく見るとアリシオと呼ばれた可愛い人には胸がなかった。
「そんな……! こんな可愛い女性がいるわけがないからって、男ならいるだろうって雑すぎる!」
「だけど、これが事実なんだ……」
ローレンスが俺を見ている。
相変わらず儚げで女らしい……俺の愛する人。
そして、可愛らしいこのアチシオ……。
——俺の嫁が二人もいる。
「騎士団に、ハーレムがあったのか——!」
幸せを噛み締める俺の横で、三つ編みの女騎士が言った。
「ずっとそうだぞ」




