やさしい鏡
掲載日:2026/06/20
帰り道、電車は空いている。端の席に座る。隣に人はいないけれど、何となく荷物は膝の上に抱える。ガタン、ゴトン、足の裏から振動を感じる。
イヤホンをつけてポケットからスマートフォンを出す。動画か、音楽か。まだ何も流れていないイヤホンは、電車の動く音、アナウンスの声、小さな人の喋り声をぼかしている。完全には遮断しない、無音にならないこの感覚が、ちょうどいい。今日はこのまま帰ろうか。
何気なくよく使うアイコンに触れる。開いた画面には、虹色のような鮮やかさはないけれど、たくさんの色で構成されている。
一番下の四角を押すと、さっき食べた夜ご飯の写真。今夜は外食、家では食べないような凝った料理、満腹な今でも魅力を感じる。撮影した時の私の感情を追体験するみたい。
ピコン、イヤホンの内側ではっきりと響く通知音。画面の上からさっきまで一緒にいたあの子の名前。送られてきたのは、私とあの子の写真。
楽しそう。私も、あの子も。私の前髪は乱れていて、綺麗に写ってるわけじゃない。にかっと笑う、楽しそうな、等身大の私がそこには写っていた。隣のあの子の瞳は、優しく弧を描いている。
彼女に返信をして、スマートフォンの画面を消す。真っ黒な画面。そこには、嬉しそうな私の顔が写っていた。




