奇妙な家族
※このショートショートは、Nolaで執筆し転載したものです。
朝早く、いつもは家族が集まって食事をするリビングに、僕の眼の前で2人の女性が頭を下げていた。
小刻みにぷるぷると震えているような有様で、普通に頭を下げるなんていう生易しいものではなく、なんと床に膝と両手と額をくっつけて、いわゆる『土下座』の状態。
「ったく、頭下げる相手は私じゃないでしょ。2人とも」
「ま、まったくもっておっしゃる通りでございます……」
「…………悪気は、ない……」
2人は僕の母の従妹に当たる人で、一卵性双生児ということもあって、見た目だけでは見分けることが出来ないくらいそっくりだ。
僕が小さい子供の頃から可愛がってくれた人で、右利きで凄く賑やかなのが美紀さん、左利きで物静かなのが真紀さんだ。
2人とも凄い美人で、美紀さんはモデルの仕事、真紀さんは小説家らしい。特に何処か会社に務めているというワケじゃない。
「だいたいね、優希ちゃんは18歳になったばっかりよ? 成人にはなったけど、朝になるまで連れ回すって何考えてるの」
「ごめんなさい……」
「いや、あのほら、1人であっちこっち行かせたワケじゃないし? その、私達ってオトナだし? 保護者同伴だから問題ないかなーって」
「あのさ母さん、僕ももう18歳なんだし、大学生なんだからさ――」
「だまらっしゃい」
母さんは腕組みをして、僕と美紀さん、真紀さんを見下ろしている。
実を言うと、僕も土下座まではしていないけれど、フローリングの上に申し訳程度の座布団を敷いて正座をしていた。
つい先日大学に合格した僕は、『合格祝い』として美紀さん、真紀さんと3人で、居酒屋からのラウンドワンからのカラオケ、からの3人で漫画喫茶オールという、堕落したオトナの遊びに興じた挙句、華麗な朝帰りをキメてしまった。それも、母さんには昨日の夜『美紀さんと真紀さんと、3人でちょっと遊んでくる』とだけ伝えていただけ。
「じゃあ優希ちゃん、あなた本当にお酒は飲んでないのね?」
「飲んでない。酒は確かハタチからでしょ? ジンジャーエールとコーラしか飲んでない」
「よし、じゃあ優希ちゃん、あなたは椅子に座っていいわよ。冷蔵庫にシュークリームあるから食べなさい。あとお母さんにコーヒー淹れてくれる? 濃いめにおねがい」
「あ、優希ちゃんアタシも。ホットで」
「……優希くん、私は猫舌仕様の……ホット」
「あ゛?」
「「すみません」」
美紀さんと真紀さんはそれぞれ28歳。
僕より10歳歳上で、昔は美紀さんが『やー、アタシ達ってほら、ショタコンだし? 優希ちゃんみたいなショタがいたらそりゃあもう、ねぇ?』と語り、真紀さんも『カワイイ男の子……イイ、凄くイイ……』と、毎日必ず数十分は僕を撫で回すという、2人ともちょっと変わった好みの持ち主だ。
父さんは僕が小学生の頃に交通事故で亡くなって、ちょうどその頃に美紀さんと真紀さんが就職だか何だかのゴタゴタで近所に引っ越してきた。
働きに出ていた母さんに変わって、2人で家にやってきて僕がさみしくないように、子供が1人だけにならないように見守ってくれていた。
なぜかやたらと一緒に風呂に入りたがったり、スキンシップがやたらと激しかったりしたけれど、それもきっと身内としての愛情なんだと思う。
高校1年生の頃に2度だけ彼女は出来たけれど、どちらもなぜかたった2週間でフラれてしまった。
『優希といっしょにいると、なんか誰かに見られてる気がして怖い』
『謎の女に付け回される。巻いたと思ったらすぐ傍にいる。怖い』
と、妙に怯えていたような気がする。今となってはもう懐かしい思い出だ。
「母さん、程々にしてあげてね。美紀さんも真紀さんも、悪気は無かったんだから。僕も楽しかったし」
「優希ちゃん……そういう優しさはね、女を勘違いさせるの。お母さんホント心配だわ。大学行って変な女に引っかかったりしないかしら……」
母さんもなかなかに過保護ではあるけれど、実は若い頃は相当に『ヤンチャ』だったらしい。
もと教師だった父さんのもとに押しかけ女房として上がり込んで、強引に迫って結婚を認めさせるために、10代で僕を妊娠した、というのは美紀さんから聞いたハナシだ。
流石に結婚してからは大人しくなったらしいけれど、たまに『あ゛?』とか『ンだとコラ』と、昔の口調が蘇ってしまうことがあるようだ。
「とにかく、2人ともしばらく優希ちゃんに近づかないでちょうだい」
「異議あり! この天然歳上キラー無自覚女たらしの優希ちゃんをひとりで歩かせるほうが危険っしょ!?」
「同じく……優希くん、この前も大学の学食で……上級生の女に……言い寄られてた…………あの女、雄を見る穢らわしい雌の目で……私の可愛い、穢れ知らずな優希くんを……」
「そうそう! アレ絶対狙ってたって! 危ないって! あんな場所にひとりだけで行かせたら食われるって! 襲われるって!」
美紀さん真紀さんは揃って手を挙げる。が、母さんは腕組みをして『睥睨』という表現がぴったり当てはまる顔で二人を見下ろしている。
可哀想に2人とも。ちょっと良い豆を挽いて美味しいコーヒーを淹れてあげることにしよう。
「あんた達、優希ちゃんのこと大学までつけ回してるの?」
「「あっ」」
2人は同時に、全く同じ表情で全く同じ声を挙げる。
一卵性双生児だけあって、この2人のカラオケでのハモりは鳥肌が立つくらいキレイだった。
「『あ』じゃねぇだろがコラ、お前ら私の息子に何してくれてンだ、あ゛?」
「あの……私から、割と真剣な提案……」
仁王立ちする母さんを前に、真紀さんは怯むこと無く顔をあげ、正面から視線を合わせているようだ。
「普段、家にいる私は……時間的に……自由…………だから、優希くんと一緒にいたほうがイイ……」
「そうそう! でさ? 外に出るときは私が車出せるし! 常日頃から私達が優希ちゃんのボディガード的な? ほら、変な虫がつかないように見守るっていうかさ?」
美紀さんが真紀さんの肩に手を回し、2人揃ってスクラムのような格好になった。
「ここに引っ越して来てイイ? 良いよね? ありがと! よっしゃ!」
「ちょ待てコラァ! 誰が良いっつった! アンタ達が変な虫の最たるモンだろうが!」
いや、考えて見たら悪くないかもしれない。
料理上手な真紀さんに、綺麗好きな美紀さんがいてくれれば、我が家の環境は劇的に良くなる。
母さんは仕事は出来るけど、お世辞にも料理は上手とは言えない。普段の食事は僕が作っているくらいだ。
「母さん落ち着いて。僕は良いと思うけど」
コーヒーを注いだマグカップを母さんの前、それに正座中の2人の前にもそっと差し出す。
「真紀さんのご飯は美味しいし、美紀さんがいると家の中が明るくなるし。ほら、2階って僕の部屋以外ほとんど物置だし」
「優希ちゃん! さすが分かってるぅ! 私隣の部屋がいい!」
「…………優希くん、私が毎日好きなの作って……食べさせてあげる……うふ、うふふふ……」
「本当に優希ちゃん……その歳上女殺し、わざとやってるでしょ?」
喜色満面の2人を見下ろして、母さんは何度目か分からないクソデカため息を漏らした。
今日のショートショートはホームコメディです。ドタバタとした賑やかな家族の姿を描いてみました。
ホームコメディではありませんが、異世界ほのぼのラブコメ長編の「光のまほう」も毎日21時に公開中です。
よろしければこちらの長編も是非、お楽しみください。




