第玖話 遠吠え…
「ワオオオオォ~ン…」
先ほどより
やたらと遠吠えがする
野犬か…
今宵は満月…
野犬どもも興奮して騒ぎおる様子…
それにしても
嫌に数が多いのが
いささか気にかかる…
ぬ…?
あれは野犬の群れ
かなりの数だ
むむっ
ヤツらの吠え声に混じって
微かに人の悲鳴が聞こえる…?
これは女と子供の声!
野犬が人を襲いおるか!
助けなくては!
よし…
母子らしき者達は
木の上に逃げておる…
危うき所は何とか免れたか
だが、数十匹の野犬に
その木が取り囲まれておる様子…
それに…
しまった、遅かった…
一人喰われておる…
どうやら父親の様じゃな
「南無… 成仏致せ…」
あのまま捨てては置けん
だが…群れとは言え
相手はただの野犬じゃ
『斬妖丸』よ
此度は其方の出番では無い…
我が腰に帯びし長刀二本…
一本は『斬妖丸』
もう一本は…
これもまた訳ありの業物だが
野犬ども相手なら
こちらを使おうか…
カタカタカタ…
ん…?
いかが致した…『斬妖丸』よ?
何故に其方が震えるのじゃ…
あれは…
ただの野犬の群れでは無いと…?
拙者に、そう申したいのだな?
相分かった…
其方の勘に狂いなど無し
ヤツらが妖ならば
其方の出番じゃ!
行くぞ!
野犬ども、こっちへ来い!
そうだ、拙者にかかって来い!
『斬妖丸』!
これだけの数じゃ!
しかも相手は獣
動きが素早いぞ!
『疾風の舞い』で躱しながら
ヤツらを叩き斬る!
むんっ!
ブシュッ!
てええぇっい!
シュバッ!
よし
半数ほど斬って捨てたぞ
残り半分…
「ワオオオオォ~ン…」
む…? また遠吠え…
どうしたというのじゃ…?
野犬どもが揃って逃げていく…
畜生どもにしては
見事に統制の取れた動きよ
あの遠吠えは…?
むっ…
逃げ去った野犬達が
矢じりの隊列を組んで
こっちへ向かって来る
これは…
獣の知恵では有り得ぬ…
矢じりの先端部にいるあの獣は…?
おお!
真っ黒で牛ほどもある巨躯…
しかし、姿形は野犬…?
あれが野犬共の親玉か?
いや…
あれは野犬にあらず
狼!
巨大な黒き狼の姿をせし妖
ヤツが遠吠えしておったのだな
そして野犬の群れを
意のままに操りおる…
あれか…?
『斬妖丸』を引き寄せし妖の正体は…
ならば、拙者の領分よ
なおの事
このまま捨て置く訳にはいかぬ
それに…
樹上の母子を
妖の率いる野犬どもより救い
父親を弔ってやらねばならぬ…
野犬どもを率いしはヤツだ…
黒き狼!
ヤツを斬るぞ、『斬妖丸』!
ヤツさえ屠れば
残りの野犬どもなど烏合の衆…
『斬妖丸』よ、牙には牙だ!
化け狼には虎で相手を致す…
秘剣『虎の牙』を使うぞ!
覚悟致せ、妖の狼よ!
いざっ、参る!
秘剣、『虎の牙』!
ぐわおおおおおおおーっ!




