第漆話 赤い雨と蜘蛛の糸…
ポタリ… ポタリ…
ん…?
何やら頭上より…
雫が滴り落ちてきおった
ぬ…?
雨が降ってきたか…?
いや…
この粘り気のある雫
暗がりに微かに見えし赤き色
そして…鉄臭い匂い
これは、まさしく血!
カタカタカタ…
『斬妖丸』よ
お主は感じるのだな…?
この頭上より滴り落ちし
赤い血の雨は
まさしく妖の起こせし仕業…
むう?
あの大木より張り出した大枝に
吊るされし白き屍は
うら若き娘の裸身か…?
何とも哀れな…
透き通る様に白き肌が
紫色に変じた上
血に塗れておる
惨い事を…
「むんっ!」
拙者は小柄を投げ放ち
娘の亡骸を枝に吊るしし綱を断ち切った
落下して来た娘の遺体を
拙者は地上にて
しっかりと受け止めた
「南無…」
娘の身体に巻き付きし綱は
粘つく白き糸の束…?
どうやら…
蜘蛛の妖と見た
気を付けよ『斬妖丸』…
この夜の帳の中
夜目の利く妖に有利…
拙者の目よりも
お前が頼りだ…
拙者は『斬妖丸』の刃を抜き放ち
正眼に構えた
シュバッ!
突然
闇の中より此方に飛来せし
一本の蜘蛛の糸…
拙者に触れる寸前に
『斬妖丸』が斬って捨てた
敵が放ちし蜘蛛の糸か!
よくやったぞ『斬妖丸』
危うき所であった…
あの糸に絡め取られたら
如何に拙者と言えど…
よし…
拙者はこれより目を瞑る
どの道、この新月の夜陰の中…
拙者の目は当てにはならぬ
『斬妖丸』よ
ヤツの居場所を探れ
その方が拙者の目となるのじゃ…
頼んだぞ…
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「そこかっ!」
拙者の投げた小柄が
風を切って飛んで行く
「ぎゃああああっ!」
手応えあり…
『斬妖丸』の申す通り放った小柄は
見事ヤツに突き立ったようだ
ふ…
ヤツの血の匂いだ
禍々しい人食い妖の
汚らわしき血の匂い…
匂う、匂うぞ…
これで拙者にも
ヤツの正確な位置が掴める
妖よ… 聞くがよい
その小柄の切っ先には
妖怪や鬼にのみ効き目のある
ありがたい毒が塗ってある
人の身には何でもないが
貴様らにとっては痺れ薬となる
間もなく貴様は
身体が痺れて来よう
もう逃れる事は叶わぬと思え
貴様に喰われし
罪もない犠牲者達の無念の想い
己が身で思い知るがよい
今から貴様は…
迫りくる死の恐怖に怯えながら
自分が犯した罪の深さを
己自身で思い知るのだ
あの…若くして死んだ
娘御のためにも
楽には死なさん
貴様の八本有る脚を
一本ずつ叩き斬ってくれよう
貴様が得意の嬲り殺しだ
もがき苦しみながら
じわりじわりと
死ぬるがよい…
行くぞ!
蜘蛛の妖よ、覚悟致せいっ!
ズバッ!
まずは、脚一本!
次、二本目っ!




