第伍話 雪女の罠…
ガチガチガチ…
おおお… 寒い…
歯の根が合わぬ…
うぬぬぬ…
このような寒さ…
雪国育ちではない拙者には堪らぬ…
情けない話だが
蓑と綿入れ程度では
この…身に染み入るほどの寒さ
とてもではないが凌げぬ…
『斬妖丸』よ…
刀である其方がうらやましいぞ
ううう…
それにしても…
拙者に妖退治を依頼した村長の話では
目的地はこの辺りか…?
しかし…
この夜間の吹雪では何も見え…
ん…?
おお… あれは灯りだ!
ふうう、助かった…
『斬妖丸』よ
あれに見える灯りは人家だぞ…
コンコン
コンコン
もし、お頼み申す…
斯様な夜分に申し訳ござらぬ
この吹雪に難渋しておりますゆえ
どうか…
一夜の宿をお願い致す…
********
おお…
これは相すまぬ
宿のみでも有難いのに
酒肴の馳走まで賜るとは…
かたじけのうござる…
御新造どののお言葉に甘え
遠慮なく馳走になり申す
んん…?
済まぬ…御新造どの…
拙者… 旅の疲れ故か…
少々、眠気が…
申し訳ござらぬが
寝床を… 所望致す…
おお…
重ね重ね、かたじけない…
こ、これにて…拙者…
御免蒙って…
ね…眠る…
バタッ…
********
オッホッホッホ…
眠りおったか
他愛も無いものよのう
村長より報せて参った
妖狩りの侍とやらは…
ほほほほ…
あの村はすでに
妾の手の内にあるのじゃ
ふっ
妾の口車に乗り
眠り薬の入りし酒肴を喰ろうて
こうも簡単に眠りおるとは…
いささか拍子抜けじゃが
噂に聞こえし妖狩りだとて
健康な男である以上
美しい妾の魅力にかかれば
この通りの始末じゃ…
やれ、ようよう見れば
凛々しき中にも可愛い面をしておる
こやつ…
妾のあまりの美しさを前にして
震えておったわ
おほほほほほ
この凛々しき侍も
他の者どもと同じ
妾の玩具にしてくれようぞ
さて…
こやつも、妾の氷の接吻にて
口より吹き込む妖気により
腸の奥から凍り付かせてくれようぞ
それとも、ふふふ…
この美しい雪女の冷たき舌にて
若き其方の逸物を
氷柱と化してあげようかねえ
おほほほほ
悦ぶがよい…
美しき妾の愛撫により
快楽の中で氷漬けとなり
ゆるりゆるりと死ぬるがよいわ!
そして妾の玩具になるのじゃ!
********
ガバッ!
この汚らわしき妖めが!
我が身に気安く触るでない!
ふふふ…
罠に掛かったは拙者にあらず…
雪女、貴様の方よ!
拙者が貴様如き
無粋な妖風情の策略きに
まんまと乗ると思うたか?
愚かなり、雪女よ…
その方の美しさを前に
拙者が震えておっただと?
拙者の身体が震えておったのは
この寒さ故じゃ
貴様の用意せし眠り薬などに
掛かるはずがあろうか
そもそも
貴様が並べし酒肴など
拙者は喰うてはおらぬ
それに…
食事の支度の際…
拙者は見たぞ、納戸の奥を…
あの中に眠る何十という
氷漬けにされた遺体を…
罪もない男達を
貴様の不埒な欲望のために…
許さぬぞ… 雪女!
貴様の吹雪など
恐れる拙者では無いわっ!
行くぞ、『斬妖丸』!
雪女には熱だっ!
秘剣『火炎地獄車』を
ヤツに喰らわす!
分かっておる…
あの技を使えば
この山小屋を中心に一里四方は
焦熱地獄と化す
だが、『斬妖丸』よ!
お前の力で一町四方ほどに
範囲を押さえ込め!
さもなくば、麓の村も消滅致す…
犠牲となりし村人の骸を含め
この雪女の棲み処一帯を
地獄の業火で浄化してくれん…
やるぞ『斬妖丸』!
燃やし尽くせっ!
火炎地獄車っ!
ゴオオオオオーッ!
おおお
熱い! やめておくれ!
焼けて…溶けてしまう!
この美しき妾の顔があっ!




