第拾話 伴天連(バテレン)の吸血鬼…
ふむ…
今宵は新月ゆえ
ここに至るまで気付かなかったが
あれだな
あれか…
代官から妖退治の依頼があった
キリシタンの教会は…
四半里ほど向こうの林の中に
一軒の南蛮風の教会が
闇の中にポツリと佇んでいた
あそこに数年前より
妖が棲むと云うのだな
ここ数年…教会周辺の集落に
若い女子の神隠しが
異様に増えたと聞いた
代官所から差し向けた
何名もの捕り手が帰って来ぬと云う
裏の噂では幕府の放った隠密も
同様の目に遭ったという事らしいが…
それにしても、この辺り…
いやに蝙蝠が多い…
あのキリシタン教会に近付くほど
数が増えてきおった
カタカタカタ…
ふむ…
『斬妖丸』が震えておる
妖がいるのに間違いない…
代官の話では
村の連中が吸血鬼と呼ぶ妖は
その名の通り
人の生き血を啜り
あまつさえ
人の心を操ると云う
そして…
彼奴に血を吸われた者は
永遠に操り人形が如くに
成り下がるという話じゃ
『斬妖丸』よ
その吸血鬼とやら
お前に少し似ておらんか…?
お前は妖の生き血を啜り
その妖の妖力を己が物とする
ふふふ… 怒るでない
お前は拙者にとって
かけがえの無い愛刀であり
これ以上無いほどに
頼りとなる相棒よ…
む…?
誰かが拙者の背後から
近付いて来る…
あの男は…
顔貌や風体から見て
キリシタンの伴天連か…?
もし…
伴天連どの
この様な夜半に
どちらに行っておられた?
この辺りは夜な夜な
吸血鬼なる妖が出ると云う
一人歩きは危のうござる
拙者はちょうど
伴天連どのの教会に用があり
負かり越した身でござる故
其方を教会まで送って参ろう
********
何だこの男は…?
私の教会に用だと…?
この辺りでは見かけぬ顔よ
ふっ…まあよいわ…
どうせ生かしては帰さぬ
私の夜食となり
永遠の下僕となってもらおう
力はありそうだ…
は?
いえいえ…
何でもありません
送って頂けるのでしたら
願っても無い事です
この辺りは確かに貴方の仰った
吸血鬼とやらが夜にうろつくとか…
実は
ここまで一人きりの道中にて
心細くて堪らなかったのです
私はキリスト教を伝えるために
この日本へ参った宣教師です
この地で暮らして数年になります
村人達より日本語も学びました
そうですか…
ご浪人様は今宵
お代官様の紹介にて
私の教会に御用でいらしたと…
それはそれは
ご苦労な事でございます
狭い所でございますが
どうぞお立ち寄り下さいませ
********
伴天連どの…
其方、嘘を付いておるな…
拙者が捜しておる吸血鬼…
それは…ひょっとして
其方の事ではないのか?
ふふふふ…
何も驚く事はあるまい…
其方の衣服に
異様なほど染み付いておる
濃厚な人の血の匂い…
そして、それ以上に…
其方の身体全体から強く漂って来る
妖の匂い
何より拙者の愛刀…
魔剣『斬妖丸』が
先ほどより反応しておる
其方の血を飲ませろと
己が身を震わせるのじゃ…
そういう訳で
伴天連の吸血鬼どの…
拙者達を謀るのは諦めよ
もう正体を現すが良かろう
拙者と愛刀『斬妖丸』が
二度と人の生き血を吸えぬようにしてくれるゆえ
覚悟致せ…
貴様の国ではあずかり知らぬが
この日本には
拙者の様な『妖狩りの侍』と
妖を狩る魔剣『斬妖丸』が居るのじゃ
貴様の様な毛唐の妖風情に
この国の人々の命を自由にはさせぬ!
貴様の汚れた血!
一滴残さず『斬妖丸』に吸わせてくれん!
********
ふふふふふ…
気付いておったか…
妖狩りの侍とやら
自己紹介の手間が省けただけだ
どの道、お前を生かして帰すつもりは無い
私の血をその下賤な刀に吸わせるだと…?
血を吸い尽くされるのは
お前の方だ
我が名はノスフェラトゥ…
不死者だ…
人間の生き血を吸い
永遠に生きる者なり…
お前は面白いから
私の付き人にしてやろう…
今宵より我が僕となって
しっかりと働いてもらうぞ
その代わりお前には
私の僕としての永遠の命を与えよう…
ただし…
昼間は行動出来ぬがな…
ハッハッハッハ
言っておくがな…
私は刃物などでは倒せぬぞ
私は不死だ…
サムライだろうがローニンだろうが
人間如きに勝てる見込みなど
全く無いと知れ…
ほう…
それでもやると言うのか?
どうやら
頭が悪いと見える
言っても分からんらしいな
痛い思いをする事になるぞ…
お前はそれでも良いのだな…?
よろしい…
それはそれで一興よ
生きながら地獄を味わうがよかろう
では、始めようか…?
妖狩りの侍どの…
********
ふふふふ…
正体を現したな
吸血鬼よ…
それでよい…
妖は妖らしく正体を現し
牙を剝くがよい
では、貴様の言う様に
始めようぞ
ここなら気兼ねなく戦える…
『斬妖丸』よ…
南蛮の吸血鬼めは
太陽に弱いと古い書物で読んだ…
ここは一気にヤツの弱点を突く…
月の無い今宵の夜空に
人工の太陽を打ち上げるぞ
そうじゃ…
使うは此度が初めてだが
『天翔日輪剣』を用いる!
吸血鬼よ!
冥途への土産に
貴様に最初で最後の太陽を拝ませてくれん!
やるぞ『斬妖丸』っ!
出でよ、太陽っ!
喰らえっ、吸血鬼っ!
天翔日輪剣っ!
********
な、何…?
太陽だと?
貴様…
どうしてそれを…?
しかも太陽を作り出すだと…
馬鹿な事を言うな
そんな事が
貴様ら人間如きに出来るはずが…
うっ…何だ?
花火…か?
おお…
空へ昇って行く…
うおおおうっ!
何だこれは⁉
まっ、眩しいっ!
何も見えん!
私の目があっ!
ぐわああああっ!
や、やめろ…!
やめてくれえ!
あっ、熱いっ!
私の身体が燃えるっ!
や…
焼かれるうぅぅ…!
………
この地にて滅びよ
異国の妖よ
拙者と『斬妖丸』が有る限り
日本を貴様らの好きにはさせぬ




