第一章 夜の狩人
林シュウエンは皇龍連邦の城壁に立ち、足元で咆哮する妖獣の群れを見下ろしながら、腕に浮かぶ三つの霊気の渦を蒼き光輪へと変えた。測定器が「黄級九階」と表示した時、彼の精神世界で丸まっていた雪霊蛇が龍の瞳を開いたことに誰も気づかなかった。
「これが人類最強の力か?」クレイ連邦から届いた降伏勧告書を踏み潰すと、背後にある虚空の裂け目から九尾火狐の鋭い爪が現れた。六連邦の連合軍が百里先で集結しているというのに、彼の妖獣たちは最後の妖核を誰が食べるかで喧嘩していた。
この世界は知らない──
ノーザ砂漠が禁術で人造妖王を作り出した時、彼が道端で拾った傷ついた小蛇が、一振りで機甲軍団全体を海底に沈めたことを。
デノス連邦が霊媒師を獣使いより劣ると嘲笑した時、彼が三つの渦を逆転させて造り出した神殺しの槍が、白濤連邦の護国巨鯨を氷崖に串刺しにしたことを。
そして最も皮肉なのは──
六連邦が血眼で争う「霊力コア」が、実は雪霊蛇の抜け殻に過ぎないことを。
「人間と妖獣の戦争?」紫薇連邦の交渉団を見やりながら、林シュウエンは肩で霜を吐く雪霊蛇を撫でた。「心配すべきは…」
空間を引き裂く手振りと共に、九頭の妖獣の幻影が背後に現れた。
銀鱗蛟龍が皇龍連邦の誇る龍脈結界を粉砕し、
玄甲地犀がデノス連邦の不落を謳う砂塵要塞を蹂躙する。
そして常にペットと間違われる雪霊蛇は、額の龍紋を輝かせて戦場の妖獣たちを次々と懐柔していく!
連邦上層部は絶対に認めまい──
この「人類反逆者」が妖獣契約紋で彼らの霊力ネットワークを逆侵食していることを。
この「黄級の落伍者」が三霊気渦覚醒時から玄級妖獣を素手で握り潰せたことを。
そして最も致命的なのは──
衛星で追跡中の「妖獣女帝」が今、林シュウエンの寮で滅世龍炎を使って焼き芋を作っていることを!
「追殺令か?」六連邦の秘法が刻まれた霊気の翼を広げながら、林シュウエンは笑った。雪霊蛇が氷晶の剣となって掌に収まる。
剣先が指す先で、クレイ連邦の浮遊島が龍の咆哮と共に崩壊する。
「教えておくが──」ノーザ最強の体術師の残骸を踏み台に浮上しながら、彼は宣言した。「妖獣契約紋を精神空間に刻んだ瞬間から…」
「この戦争の名前は『俺の契約獣征服計画』に変わるべきだったんだ」
深夜の闇が寮を包む中、林修遠はベッドの上で天井を見つめていた。隣のベッドからは三人の息遣いが規則的に響く。カーテンの隙間から差し込む月光が床を銀の線で切り裂く。三百まで数え終えると、彼は静かに布団を蹴った。
ギシリ――
下の段で寝ていた王胖子が体勢を変え、いびきが途切れた。林は息を殺し、手でベッドの枠を押し、猫のように音もなく床に着地した。窓ガラスを撫でる夜風に枯葉がこすれる音。素足が冷たいタイルを踏みしめ、指先が窓枠に触れた瞬間、背後で濁った声がした。「林さん……またトイレか?」
「食あたりだ」喉を絞るような声。手の平に冷や汗が滲む。
「紙持ってる?」上段の李明的な頭が毛布から覗き、半開きの目でトイレットペーパーを投げてきた。受け取った瞬間、紙の芯から皺くちゃの護符が零れ落ちた――蚊よけの下級火符だ。隅にはデフォルメされた豚の落書きが……
「仲間思いすぎるだろ」彼は頬を痙攣させながら呟く。しかしズボンのポケットでスマホが熱を帯び、血のような赤いドクロマークが点滅している。60キロ先の座標が神経を刺す。あと30分で期限切れの懸賞金任務だ。
「サンキュー」護符を丸めてポケットに押し込み、窓を開ける。草木の生臭い風が顔を撫でた。五階建ての寮の外壁は蔦に覆われ、遠く金光森林の輪郭が月明かりで獣の背のようにうねっている。
振り返れば、三人の布団が山のように盛り上がっていた。くすりと笑い、彼は闇へ飛び込んだ。
ドン!
青い渦が両足下で爆発し、急降下を緩和する。着地時、膝を曲げた衝撃で靴底から焦げ臭い煙が立った。スマホの待受画面は妹・林小柒の変顔写真だったが、今はドクロマークに歪められている。黄級通霊師にとって60キロは過酷な距離だが、懸賞金の桁が一つ増えることを想像し、奥歯で霊気を迸らせた。
空気が突然粘り気を帯び、三つの透明な渦が周囲に現れる。無数の青い光粒が虚空から析出し、半透明の翼を紡ぎ出す。地面を蹴って飛び立つ瞬間、寮屋上の避雷針が雷光を放った――張禿子教師の仕掛けた雷符トラップだ。咄嗟に体を捻り、翼の先端が電弧をかすめる。数本の切れ毛が灰になった。
「ハゲ親父め……」罵声を飲み込む。下のグラウンドでサーチライトが点滅し、警備員の影が蠢いている。高度を一気に上げて雲層へ潜り込む。耳元で風が唸り、龍南市の灯りが星のように遠ざかる。金光森林が月に照らされ、不気味な淡金色を放っていた。
五十キロを飛び越え、シダ植物の茂みに降り立つ。枯れ葉が砕ける音が死んだように静かな森に響く。スマホの赤点は十メートル圏内で脈打っているが、周囲には心跳音しか聞こえない。瞳孔が氷の青に輝き、通霊魔眼が灌木を走査する――熱源も霊気の揺らぎも、蚊一匹いない。
パキッ
枯れ枝が折れる音が不気味に反響する。林が回転しながら掌に光の刃を形成した刹那、後頭部の毛が逆立った。魔眼が空中に蜘蛛の巣状の霊力糸を捉える。
「後ろだ!」
前のめりに倒れ込むと、白い光の槍が後頭部を掠めて巨木に突き刺さった。二人抱えの大木が爆散し、木片の雨が降り注ぐ。煙塵の中から現れたのは、三メートルの赤い妖魔。額の双角が硫黄のように鈍く光る。
「黄級の虫けらが玄級任務とはな」金属を擦るような声。槍先から滴る粘液が地面を白煙で焦がす。林が頬の血を拭うと、魔眼の戦闘力数値が5372と視界に浮かぶ。【影遁】のスキル、弱点は角の根元と第三肋骨間……
次の光槍を躱しつつ、逆に詰め寄る。掌に具現化した霊気銃から三連射。弾丸が赤い皮膚に触れた瞬間、妖紋が浮かび弾丸は泥牛の如く消えた。
「痒いだけだわ!」妖魔の槍が横薙ぎに来る。林が転がり、元いた場所の岩が真っ二つに。隙を見て五枚の爆炎符を投擲。炎の中から青い鎖が地面の陣から射出するが――残像を縛っただけだった。
背中に冷汗が伝う。突然、足元の落ち葉に霊気を注ぎ込む。無数の葉が竜巻のように舞い上がり、障壁を形成する。妖魔の嘲笑が四方八方から響く。「死に際の抵抗か……」その声と同時に、全ての葉が静止し、葉先が一方向を指した。
「捕まえた!」青い瞳が爆発的に輝き、光の剣が虚空を貫く。鈍い肉音と悲鳴。妖魔が左目に剣を突き立てられた状態で実体化し、緑の血が霊気シールドを腐食する音がする。魔眼が妖力を貪り、赤い妖核が足元に転がり着いた時、林は片膝をつき、指の間から滴る血で妖核をさらに鮮やかに染めた。
帰路、パトロール区域を回避しようとした林は、樹冠で何かにぶつかった。鼻を揉みながら立ち上がると、魔眼が灌木の奥の微かな霊光を捉える。棘だらけの枝を掻き分けると、指先に冷たい感触――真っ白な小蛇がいた。真珠のような鱗に三本の爪痕が深く刻まれ、瀕死の状態だ。
「雪霊蛇……古代種がこんな場所に?」震える手で秘蔵のA級治癒剤を取り出す。金色の薬液が傷口にかかるや、肉が目に見えて再生する。小蛇のガラス玉のような瞳が焦点を結び、突然手首に噛みついた。
「ヒッ!」痛みはない。小蛇が口を離すと、手首に氷の結晶のような刻印が浮かんでいた。「共生契約……? お前、知能が開花してたのか?」
小蛇は首を傾げ、舌をちらつかせながら尾で彼の手の平を叩く。額の淡い金紋に触れようとした瞬間、白蛇は弾けるように肩に飛び乗り、雪のマフラーのように巻きついた。遠くで妖獣の咆哮が風に乗る。林は笑いながら霊気の翼を広げた。「寮母に見つかったら、お前が責任取れよ?」
帰途、小蛇が突然体を硬直させた。視線の先には、雲間に巨大な影が掠め、太古の威圧感で彼は墜落しそうになる。懐の小蛇が低く鳴き、金紋が明滅する。
「感じたか……?」不安を押し殺し、速度を限界まで上げる。寮の輪郭が地平線に現れた時、東の空はすでに白み始めていた。五階の外壁を伝い、窓から潜り込んだ瞬間、三つの黒眼圈を浮かべた顔が布団から現れた。
「白状しろ!」王胖子が懐中電灯を振る。「昨夜四時間二十三分の行方……デートか?」
その刹那、林の襟から雪白の小頭が覗いた。寮室が水を打ったように静まり返り、李明的なフォークが床に転がる音が響く。
「賭けるわ」眼鏡をかけた寝帽男子がフレームを上げた。「この蛇、メスだ」
私は日本語があまり得意ではないので、ところどころGoogle翻訳を使っています。