異世界へ――。……5
金糸のように美しい髪は腰ほどまであるようで、地面を這うように鎮座している。
どこか幼さを残す小さな顔は、恐怖と涙でぐしゃぐしゃになっている。
「……ひっ」
僕が一歩前に出ると、彼女は恐怖に顔を歪ませながら息を呑む。
そういえば、僕も男だ。さっき乱暴しようとした奴と同じ、男。
こういう時、何を言えばいいのか良く分からない。しかし、無言だと怖がらせるだけ……。
だから一言、
「……心配ない」
と、それだけ掛けておく。
学ランで決まるかはおいといて、感じとしてはクールな勇者、だな。
どちらにせよ、その一言に安心したのか、彼女は口を開き一言、
「魔王様……」と。
………………………………ん?
※
「姫様!! お逃げ下さいッ!!」
あちらこちらで悲鳴。まさに阿鼻叫喚。
王族として……この地を統べる者として、私は視察に来ただけだった。
何時も通り領主に挨拶して、民と混ざってお買い物。ただそれだけ。
しかし、狭い部屋で書類に目を通し印鑑を押すだけの日々に比べると、毎年の今日はまるで天国にいるようだった。
だけど……今日だけは違った。
いきなり武装した集団の……殺人と強奪。
最初、私は山賊が襲って来たのかと思った。
山賊なら、駐屯部隊で事足りる。
しかし、現実は甘くなかった。
襲って来た敵は隣国の騎士だった。…………同盟国である、隣国の。
「姫様! ……ぐあッ!!」
一人、また一人と死んでいく私の護衛。
みんな、本国に家族がいると教えてくれた。
中には、私くらいの子供がいると笑いながら話してくれた人もいた。
自然と、涙が溢れ出てくる。
だから……なるべく考えないようにする。
無心で逃げる……逃げる、逃げる…………。
「は……。――は……」
――気が付くと、知らない路地裏に迷い込んでいた。
逃げなくては。
そう思い、振り返ろうとして――
「――え?」
――私は誰かに押し倒された。
「……へへっ」
目の前には……血走った目の、男。
「いやああぁぁ!!」
自然と口から出る叫び声。
必死に抵抗する。
だけど男は止まらない。
誰か……。
「誰か助けて……助けて下さいっ!!」
叫んでも意味がない事くらい、混乱状態の私でも分かった。それでも……叫ばずにはいられなかった。
「地獄に堕ちろ、下衆」
いきなりの声。
私に覆いかぶさっていた男は直ぐに反応して剣を抜くが……間に合わずに絶命する。
「…………」
無言で血振りをして剣を納めているのは……男、だった。
男は無表情で、そして何も言わないまま一歩、私に近付く。
「……ひっ」
怖かった。
黒で包まれたその男に、何をされるのかが分からなかった……いや、分かっていたからこそ、私は怖かった。
そんな私を見て、男は軽く溜息を吐き一言、
「……心配ない」
と言った。
そして私は知った。この人は私を助けに来てくれたのだ。
そう、この人は絵本に出てくる勇者でも王子でもなく、私の、私の――
「魔王様……」