表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/8

異世界へ――。……5

 金糸のように美しい髪は腰ほどまであるようで、地面を這うように鎮座している。

 どこか幼さを残す小さな顔は、恐怖と涙でぐしゃぐしゃになっている。

「……ひっ」

 僕が一歩前に出ると、彼女は恐怖に顔を歪ませながら息を呑む。

 そういえば、僕も男だ。さっき乱暴しようとした奴と同じ、男。

 こういう時、何を言えばいいのか良く分からない。しかし、無言だと怖がらせるだけ……。

 だから一言、

「……心配ない」

 と、それだけ掛けておく。

 学ランで決まるかはおいといて、感じとしてはクールな勇者、だな。

 どちらにせよ、その一言に安心したのか、彼女は口を開き一言、


「魔王様……」と。


 ………………………………ん?



 ※



「姫様!! お逃げ下さいッ!!」

 あちらこちらで悲鳴。まさに阿鼻叫喚。

 王族として……この地を統べる者として、私は視察に来ただけだった。

 何時も通り領主に挨拶して、民と混ざってお買い物。ただそれだけ。

 しかし、狭い部屋で書類に目を通し印鑑を押すだけの日々に比べると、毎年の今日はまるで天国にいるようだった。

 だけど……今日だけは違った。

 いきなり武装した集団の……殺人と強奪。

 最初、私は山賊が襲って来たのかと思った。

 山賊なら、駐屯部隊で事足りる。

 しかし、現実は甘くなかった。

 襲って来た敵は隣国の騎士だった。…………同盟国である、隣国の。

「姫様! ……ぐあッ!!」

 一人、また一人と死んでいく私の護衛。

 みんな、本国に家族がいると教えてくれた。

 中には、私くらいの子供がいると笑いながら話してくれた人もいた。

 自然と、涙が溢れ出てくる。

 だから……なるべく考えないようにする。

 無心で逃げる……逃げる、逃げる…………。

「は……。――は……」

 ――気が付くと、知らない路地裏に迷い込んでいた。

 逃げなくては。

 そう思い、振り返ろうとして――

「――え?」

 ――私は誰かに押し倒された。

「……へへっ」

 目の前には……血走った目の、男。

「いやああぁぁ!!」

 自然と口から出る叫び声。

 必死に抵抗する。

 だけど男は止まらない。

 誰か……。

「誰か助けて……助けて下さいっ!!」

 叫んでも意味がない事くらい、混乱状態の私でも分かった。それでも……叫ばずにはいられなかった。

「地獄に堕ちろ、下衆」

 いきなりの声。

 私に覆いかぶさっていた男は直ぐに反応して剣を抜くが……間に合わずに絶命する。

「…………」

 無言で血振りをして剣を納めているのは……男、だった。

 男は無表情で、そして何も言わないまま一歩、私に近付く。

「……ひっ」

 怖かった。

 黒で包まれたその男に、何をされるのかが分からなかった……いや、分かっていたからこそ、私は怖かった。

 そんな私を見て、男は軽く溜息を吐き一言、

「……心配ない」

 と言った。

 そして私は知った。この人は私を助けに来てくれたのだ。

 そう、この人は絵本に出てくる勇者でも王子でもなく、私の、私の――


「魔王様……」


 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ