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シナモントースト

作者: 三角

 日曜の朝。7時くらいに目が覚める。平日の早起きはめんどうだけど、休日のそれはなぜか苦にならない。


 両親と共に、祖父母の家へと向かう。玄関を抜け、リビングに足を踏み入れると、ちょうど朝食をとっている祖父母が目に入った。厚切りの食パンがトーストされ、そこにたっぷりのバターが塗られている。祖父はその上にスティックシュガーを二本分振りかけ、その上にさらにシナモンを惜しげもなくふりかけていた。


 「砂糖の混ざったシナモンじゃ、だめなんだ」

 祖父はいつもそう言って、頑固なまでにスティックシュガーとシナモンを別々に使う。こだわりが詰まったそのトーストの香りが部屋中に漂い、朝の空気を満たす。


 祖母はそんな祖父の姿を見て、苦笑いしながら首を横に振る。「体に悪いわよ」と何度言っただろう。それでも祖父は、笑ってシナモントーストを頬張るのだった。そして、確かにそのトーストは絶品だった。香ばしいバター、甘い砂糖、そして香り豊かなシナモン。そのバランスはまさに完璧だ。


 祖父はただ食べることが好きなだけではない。彼は食材や調理に対する独自のこだわりを持っていた。近所のスーパーではなく、自転車に乗って遠くの店まで買い物に行く。買ってくるのは、ほとんどが大きな塊の肉だった。その肉を時間をかけて、時には数日かけて丁寧に調理する。


 「今日は特別に、昨日の残りを食べてみなさい」

 そう言って祖父が出してくれる肉料理は、どれも驚くほど美味しかった。あの日の食事が幸運だったのは、今でもはっきりと覚えている。


 祖父は大柄な人だった。その体格からは強い生命力が溢れているようで、不健康な印象は全くなかった。両親や祖母が「そんな食生活では早死にする」と心配していたけれど、祖父が長生きしたのは事実だった。体調が悪い日が続いても、食べることに対する情熱だけは失わなかった。かつてのような食事ができなくなっても、今の自分に合った最高のものを食べる。祖父はそんな考えのもと、日々新しい調理法を探求していた。


 しかし、少しずつ祖父の体は弱っていき、体重も減少していった。それでも、祖父の目にはどこか生命力が宿っているように感じられた。


 祖父は亡くなった。最後はベッドの上で、静かにその生涯を終えた。時々、僕も祖父が食べていたシナモントーストを作ってみることがある。しかし、どうしてもあの味にはならない。それでも、バターと砂糖、シナモンの香りが漂うたびに、祖父の笑顔が思い出される。


 思い出の中の祖父はいつも笑っている。そして、そのそばにはいつも大量の肉や、厚切りのシナモントーストが並んでいるのだ。

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