ドーナツ
「ねぇ、サク」
「なに、ルナ」
嬉々として、持ち手付きの紙袋を膝の上に取り出すルナ。中にはシュガーのドーナツと、苺ソースの期間限定ドーナツ。
もちろん、彼女が期間限定の高い方。
「はいこれ! 一緒に食べよっ」
僕が食べるのはシンプルでリーズナブルな方。
……いやいいんだ。別に僕はこれが好きなだけであって、決して期間限定食べたかったとかそんなことはない。それに、
「わたし、一緒に食べるために晩ごはんのハンバーグお代わりしなかったんだからっ」
こう言われたら文句を言えるわけはない。大人しく受け取る。
「ありがとう! 美味しそう」
午後7時。夜風が涼しく感じられるこの時間帯。
そんな時にどうして小学2年生が2人してドーナツを食べようとしているかというと。
「それにしてもいいね、ルナの家の屋上」
「ふっふっふ、いいでしょ〜。こうやっておやつタイムできるからね」
僕が、隣のルナの家の屋上にお邪魔しているからである。ルナとは、幼稚園からの幼馴染だ。よく一緒に遊んだり、宿題をしたり、おやつを食べたりする。
今日も、ルナのお母さんが「サクくんにも」って買ってきてくれたドーナツを、こうして分け合うところなのだ。
「あ、ねぇ見てー! お月様、中に捕まえた!!」
「え? あ、そういうことか」
ルナが手を伸ばし、快晴の夜空にドーナツを掲げる。僕も、自分のドーナツで真似してみる。
まんまるのドーナツの穴に、すっぽりと収まったまんまるの満月。
「「……綺麗だねぇ」」
僕とルナの声がピッタリと重なる。
「「……え? あははっっ!!」」
全く同じことを言って、全く同じように笑い出す僕ら。それがますますおかしい。
「あはは…っ、あー、おかっしぃ」
「……お菓子だけに?」
「そんなつもりじゃないよ!? サクってばおじさんみたーい」
「なんだとー!?」
無邪気な声が、掲げたドーナツの穴に吸い込まれていく、甘くて優しい時間。
めちゃくちゃお久しぶりです!
消えたわけではないです!
気まぐれに作品書いていきます〜