始まりはアンケート
33歳の夏が終わり秋の甘味がで始めた頃、会社の会議で「もう少し落ち着きを得た方が良い。そうじゃないと疲れてしまう。」とアドバイスをもらった。
上司からは瞑想のような、何もせずぼーっとしてみたらどうかと言われ、実際にそうしてみた。
ソファに寝転がり、ぼーっとする。
しかし、何も考えないということが難しく、頭を過ぎるのは書いている小説のキャラが動くところや、いつか書きたい小説のネタばかりだった。
そして時間が経つと眠気に襲われて寝てしまう。
後日上司に確認したところ、ぼーっとするというのは完全に何もしないというわけではなく、のんびりと食事を楽しんだり、景色を楽しむゆったりとした時間のことだった。
そうとは知らずにぼーっとし続ける土日祝。
ソシャゲのデイリーを朝のうちに済ませ、自分に合った小説を探してサイトを徘徊し、脳内でキャラが動けばそれを書く。
絵や楽器の練習は手付かずで、情けないと思いつつもやる気が出ないから仕方がないと諦める。
そして昼寝をして夕方には暇を持て余す。
そんな生活を過ごしていたら、ふとした瞬間寂しくなった。
少し前は定年まで1人ですごすんじゃい!とはしゃいでいたけれど、いつの間にかアニメを見ることなく、読む漫画の数も減った。
バラエティもそこまで面白いと思わず、欠かさず見ていた漫才やコントの賞レースも楽しくなかった。
きっかけが何かはわからないけれど、感性が大きく変わったのだと思う。
色々なことが楽しめなくなったことに悲しさすら覚える。
そんなおじさんの元に1通のメールが届いた。
よくあるお知らせメールのような、セールスメールだ。
内容は「あなたが結婚できるかアンケートで調べてみませんか?」というようなものだった。
暇なおじさんは、普段なら削除するそれをやってみることにした。
アンケートは数分で終わり、結果も頑張りましょうのようなものだった。
こんなものかと携帯を放って2分ほどすると、知らない番号から電話がかかってきた。
アンケートに答えた結婚相談所からだった。
人寂しいおじさんは、セールスだとはわかっていても話し込み、結果1時間話した上で事務所に訪問する約束まで行ってしまった。
会話の中で暇な土日を聞かれていたので、用事があるからと断るわけにはいかなかったのである。
策士。
こうしておじさんの婚活が幕を開けた。