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地獄の建国者達  作者: ぞの
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祖国を向いて




 「レールル、何考えこんでいるの」


 ネイメル姉さまにそう聞かれた。出発してから1時間がたった。いまだにさっきの母上の顔が忘れられない。


 「いえ、なんでもありません」


 そう言ってから、俺はゆっくりと窓の外を見た。空はもう暗くなっており、あたり一面に星々が輝いている。南西の空には上弦の紅蓮の月が南東には満月の群青の月が輝いている。


 「姉さま、空を見てください。こんなにも輝いていますよ」

 「本当だわ、素敵ね」


 あまりにも美したった。こんな美しさを俺は今まで見たことがなかった。俺は王都ポグスーでほとんどを暮らしてきた。ポグスーは街灯が多いから空の輝きがかき消されていたのだ。


 「この世界が続く限り、きっと世界は美しいでしょうね」


 この空を見て純粋にそう思った。しかしそれに対し、ネイメル姉さまは


 「そんなことないわ。世界は、世界なんてちっとも美しくないわ。この世界は私たちが思う以上にあまりにも理不尽よ」


 と吐き捨てた。それはまるで、何かに怯えている様な表情だった。


 「ね、姉さま、どうしたのですか」


 俺の掛け声で、ネイメル姉さまは我に返った。


 「何でもないわ、レールル。そうでした、もうすぐご飯でしたわ。一緒に行きましょう」


 どうしたのだろう姉さま、いつもはこんな悲観的なことをいう人ではないのに……。ただ、そんなこと考えるよりもお腹がすいて仕方がなかった。


 「わかりました、僕も行きます」


 俺は、ネイメル姉さまの後ろをついて食堂のある4号車に向かった。4号車に着くと、それは豪華な夕食が待っていた。おっと、食事をする前に祈りを捧げなくては、


 「「唯一神サカキバラに感謝を込めて、いただきます」」


 この世界には様々な宗教が存在するが、どの宗教も唯一神サカキバラを崇めている。異教徒や異端は預言者や解釈の違いによって生まれている。このことをこの時の俺は何とも思っていなかった。そう、この時は……。

 俺たちはすぐに夕食を済ませた。いつも食べているものよりもおいしかった。夕食を食べたら、もう夜も遅いのでそれぞれの各寝室で寝ることにした。


 「おやすみなさい、ネイメル姉さま」

 「おやすみ、レールル」


 こんな生活があと5日程続く。なんて優雅なひと時だろう。いつもは勉強とか魔術とか、そんな退屈なことに縛られた日々だったから、とてつもない解放感に満ち溢れている。それに、あんな美しい空を見られるなんて。今日は寝よう。明日がまた楽しみだ。



 


 2日目の朝を迎えた。俺は日の出と同時くらいに起きて、つい先程朝食を済ませた。そんなとき、ネイメル姉さまがふとこんなことを訊いてきた。


 「ねえレールル、知ってた? 」


 とネイメル姉さまがふとこんなことを訊いてきた。


 「えっと、何のことでしょう」


 急に訊かれても分かるはずがない。


 「そっか、分からないか。なら、そんな分からないレールル君に問題です」


 成程、姉さまは俺に問題を出したかったのか。


 「プルンデレン共和国とゲヒルベンシャー帝国は元々1つの国だったでしょうか、マルかバツか」

 「そんなのバツに決まっているじゃないですか」


 だって、その2国は世界で最も関係の悪い国と言われているくらいで、いつ戦争がまた始まってもおかしくないような状態だからだ。


 「ブッブー、残念。正解はマルでした」

 「そんな、嘘だ」

 「本当よ。イシュテン歴1300年代後半まではディビジア帝国っていう1つの国だったのよ。まあ、私も最近知ったことだから詳しくは知らないけど」

 「ネイメル姉さま、まさかその最近知った知識を見せびらかしたいがためにこんな問題を出したのですか」

 「えへへ、ばれた」


 まったくもう。それにしても、そのディビジア帝国って国は気になるな。王都に帰ったら調べてみるか。そんなことを考えていたら、


 「よう、レールル。元気にしていたか」


 とラクスマスがこっちに来た。


 「元気って、昨日の夜以来じゃないですか」

 「そう固いこと言うなって。あ、ネイメル様、おはようございます」


 はあ、なんだこいつ。本当になんでこんなにも露骨に態度を変えるのだろう。

 

 「それで、何しに来たのですか」

 「いや、特に用事はない。ただ、面白い話をしているなと思って、見に来ただけだ」

 「ラクスマスはディビジア帝国を知っているのですか」


 ネイメル姉さまが意気揚々にラクスマスに訊いた。


 「だって、ディビジア帝国については世界史だけではなく、ヒープラスリック史でも習うものだからだ」


 そうだったのか。何だかそのディビジア帝国が、ヒープラスリック史がいったいどういうものなのか興味がわいてきた。


 「ラクスマス、俺はいつヒープラスリック史を習うの」

 「……たぶん、一生習うことはできないだろう……」

 「え? 」


 あっけにとられてしまった。


 「ど、どうしてですか。そんなことする必要ないじゃないですか」

 「お前が、王家の人間だからだよ。それに……」


 わけがわからない。いったいどういうことなのだ。


 「少し、しゃべりすぎたな。俺はそろそろ戻るから。それじゃ」

 「おい、ラクスマス、ちょっと待てよ」

 「あ、そうだ、レールル。グーチュアーに着いたら合わせたい人がいるからついてきてくれ。それではまた後でな」


 そう言って、ラクスマスは俺の声を遮って部屋から出て行った。


 「一体何だったのだろうね」


 ネイメル姉さまがそういった。


 「わからない」


 ラクスマスはいったい何を知っているのだ。そもそもなんで王家という理由だけで、歴史を教えてくれないのか。考えれば考える程、疑問が深まるばかりだ。

 ただ、そんな疑問は列車の楽しみの中でかき消されてしまった。そうやってその疑問を忘れかけていた5日後、俺たちはようやく第2都市グーチュアーに入った。





 グーチュアーは北に位置する都市だ。8月とは思えないほど涼しい。6日間の長い旅で疲れているので早く休みたかったが、これからラクスマスとの約束がある。ラクスマスによると合わせたい人がいるとか。


 「来ました。これからどこに行くのですか」

 「建国帝像のところでそいつと待ち合わせしているから、そこまで来てくれ」


 俺はラクスマスのあとについていった。道はかなりの路地裏で王族が通るような道ではなかった。建国帝とは、このヒープラスリック王国を建国した、俺の先祖にあたるニコラス王のことだ。彼は、このグーチュアーで王国を建国したのだ。


 「そういえばラクスマス、サールはいないの」


 サールも来るはずだったのだが、この6日間で見かけていないのだ。


 「ああ、サールはヘジャック州の南部に用があるって言って、急遽来られなくなった」

 「どうしてヘジャック州なんかに行ったのですか」

 「サールの故郷があるそうだ。親戚の訃報だとか言っていたな。あ、そういえば、お土産に紅茶を買ってきてくれるって言っていたな。紅茶は俺も好きだからな」


 それは楽しみだ。しかしなんで紅茶なのだろう。ヘジャック州は紅茶で有名というわけではない。むしろヘジャック州で紅茶が栽培されているなんて聞いたことない。

 そうこう考えているうちに、建国帝像の前に着いた。目の前には建国帝こと初代国王ニコラス国王が堂々とそびえたっている。


 「知っているか、レールル。この像はちょうどフレールリン連合王国の構成国のニジル王国の王都をちょうど向いているだって」

 「よく知っていますね」

 「俺の故郷の近くにはニコラス霊廟があるからな。一度だけ建国帝の棺を見たことがあるけど、棺には建国帝の最後の言葉が書いてあった。『私の棺を開けてはならぬ。もし開けてしまえば、私よりも恐ろしい悪魔が放たれ、世界を想像もできない破壊と殺戮で埋め尽くすだろう』と」


 俺はこの建国帝像の顔をまじまじと見た。


 「……いったい建国帝は何が言いたかったのでしょうね」

 「それは、俺にもわからん」


 と、その時、


 「お久しぶりです、ウラルフ上官殿」


 と声がした。後ろを振り返ると、軍服姿の、いま声をかけてきた人と口を置けっぱなしにしている人、そして俺と同じくらいの年齢の子供がいた。


 「もう俺は軍を辞めたのだから、キルリルの上官ではないぞ」

 「いえ、私にとってあなたはいつでも上官です」


 そうして二人は握手をした。この人はいったい誰なのだろう。


 「あの、お二人はどういった関係なのでしょうか。それと後ろの二人も」


 俺がそう聞くとラクスマスと握手していた人が答えた。


 「申し遅れました。私の名はキルリル・ペロコソフスキーです。そちらの口を置けっぱなしにしている軍人は魔法軍に勤めているロナードフ・ヴァイツです。口が開けっぱなしなのは癖のようです」

 「ペロコソフスキー様のおっしゃる通りです。よろしくお願いします」


 ロナードフがそういった。


 「そしてこちらが私の息子であるミハイルヴィッチです。どうぞよろしくお願いします。ほら、ミハイルヴィッチもあいさつして」

 「こ、こんにちは」

 「こんにちは」


 俺は優しく手を振りながら挨拶をした。


 「ねえ、ラクスマス、今日俺は何のためにここに来たの」

 「えっとそれは……、ミハイルヴィッチ君に会わせるためさ。ほら、同い年なのにお前よりすごい魔力があるじゃん。この間、魔力について教えて欲しいって言っていたから、何か勉強になると思って」


 でも、そのためだけに王族の俺を連れまわすのか。それに来た時も人の少ない路地を通っていたし、何か他の目的があるのではないか。


 「そういえば、お前は見たことないな。確か魔法軍の軍人って言っていたな」


 ラクスマスはそうロナードフに言った。


 「そうです。僕は魔法軍の人間でこの間の極東で起こした第4魔導師団の唯一の生き残りです。いえ、正確には、反乱に参加させられずに済んだ人間と言ったほうが正しいです」


 ラクスマスは仰天した。俺もびっくりだ。まさか第4魔導師団の生き残りがいるなんて。


 「俺は5か月前にたまたま故郷に帰省して長い休暇を取っていました。そしたらこんなことになるなんて。どうして俺だけ生きてしまったのだ」


 彼の表情には悲痛の表情があった。

 ただ、俺はこんな時に彼に一つ違和感を覚えた。それは歯だ。なぜか彼の歯の形に違和感がある。きっと気のせいだろうと思った。


 「その悲しい気持ちはよくわかる。俺もキルリルもあの反乱で何人もの同胞が死んでいったからな。これからお前はどうするのだ」

 「僕の上官の同期であるペロコソフスキー様に紹介してもらい、ヘジャック州駐屯の第9魔導師団に所属することになりました。ペロコソフスキー様の南部の司令官になりましたので、ともにヘジャック州に行くことになりました」

 「そうか、つまり俺は見送りのために今日ここに呼ばれたわけか」

 「いや、違う」


 ラクスマスの言葉をキルリルが否定した。


 「実は最近、将校の不審死が相次いでいるのだ。俺の知り合いも多くいる」

 「不審死? 」

 「ああ、もう9人も死んでしまった。皆自殺と片付けられているが、皆出世して結婚して幸せの絶頂だった。自殺する動機がない。それに全員死因が毒物による中毒症状のようだ」

 「確かにおかしいな」


 その時、ロナードフの顔が引き締まった。


 「わかった、俺も少し調べとく。何かあったら報告する」

 「ありがとう」


 キルリルが笑顔でそういった。


 「レールル、そろそろ帰るか。お前は明日式典で早いのだし」

 「わかりました」


 俺はラクスマスの後についていった。


 「僕らも行きますか。ヘジャック行の列車はまだ時間があるので、ご飯でもどうです・・・」

 「いえ、僕は人と食事をしたくない人間なので」


 そう言ってロナードフはキルリルの誘いを断った。


 とりあえず俺は、疲れて限界だから早く寝たい。俺はラクスマスの後をついて行った。帰りは行と違って人の多い大通りを通って行った。本当になんで行は大通りを通らずに路地裏を通ったんだろう。何か深い意味でもあるのかな。


今回はたくさんの気になることばかりでしたね。


ネイメルが「世界は残酷」なんて言うなんて、いったい何を知ってしまったんでしょう……


ディビジア帝国は今後物語に大きくかかわってきます。どの様に関わってくるのか、目が離せませんね。


ラクスマスは「ヒープラスリック王族には歴史を教えない」と言ってたけど、王族には教えないのに何で一般市民のラクスマスは歴史を知ってるのかな? それに、この間レールルが図書館で読んでたのって…… 世の中は不思議ばかりですね。


サールはなんでヘジャック州の特産物でも何でもない紅茶をお土産として持ち帰ろうとしてるんでしょうね。


そういえば、建国帝はなぜニジル王国王都の方角を向いてるんでしょうね。何か深い関係でもあるのでしょうか……。


そして反乱を起こした部隊の生き残りであるロナードフ。レールルは彼空きっぱなしの口と歯の形に違和感を覚えたそうですが、それはいったい何を示しているのでしょうか……?


そして今回のタイトルである「祖国を向いて」、いったい誰が、どこを向いているんでしょうね。



次回もぜひ読んでください



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